新聞 NO.2
アランシア破壊命令
我々の恐れていたことがついに現実になった。悪の軍団は恐るべき早さでアランシアを席巻しようとしている。
十分用心していたというものの、バルサス自ら率いるモンスター軍団に歴史あるサラモニスの街は蹂躙された。ザラダン軍はチャリスに不平等条約を呑ませて自軍を進駐させた。
一方、シャリーラ女王はファングの者と内通して城門を無血で開放させた。サカムビット公を捕らえたという噂もあるが、こちらは定かでない。
さすがにストーンブリッジは堅固でよく守られていたが、それでもケリスリオン軍の前には一週間しか持たなかった。ドワーフ達はよく戦ったが、それゆえにほぼ玉砕に近い被害をこうむってしまったのだ。
また、南部地域一帯ではそこかしこで蛇人が目撃され、西の海全域はトカゲ兵の軍艦によって封鎖されてしまった。
もはやアランシアに安全な場所はないのだ!
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命令内容
トカゲ王軍
王軍 火山島 移動 西の海(北部)
海軍 火山島 移動 西の海(南部)
シャーリラ軍
王軍 氷指山脈 移動 ファング
陸軍 氷指山脈 移動 アンヴィル
ザゴール軍
王軍 火吹山 移動 アンヴィル
陸軍 火吹山 移動 氷結台地
ケリスリオン軍
王軍 ダークウッド 移動 ストーンブリッジ
陸軍 ダークウッド 移動 月岩山地
ザラダン軍
王軍 クモの森 移動 チャリス
陸軍 クモの森 移動 逆風平原
マルボルダス軍
王軍 ヴァトス 移動 南部平原
陸軍 ヴァトス 移動 どくろ海岸
バルサス軍
王軍 ギザ岩山 移動 サラモニス
陸軍 ギザ岩山 移動 ヨーレの森
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ストーンブリッジのドワーフとダークウッドの闇エルフは、先月末から赤水川を挟んで小競り合いを続けていた。戦況は一進一退を繰り返し、両軍ともに消耗戦の様相を呈してきた。
どの戦場でも戦闘の翌朝には敵味方両軍の遺体がきれいに片づけられているとの報を受けたジリブラン王の参謀コルティアは、闇エルフが死人使いの邪法を用いて消耗した軍を補充しようと企んでいることを看破した。そこで、ドワーフ軍は不用な消耗戦を控え、一時ストーンブリッジに立てこもり、ファングセインからの増援を待つ作戦をとった。
それを受けて、闇エルフ軍の司令官メネル・イシルキールは、赤水川の上下流に土嚢を積み上げ、ストーンブリッジを水攻めにする策に出た。この情報を入手したジリブラン王は闇エルフの浅知恵を笑い飛ばした。ストーンブリッジの利水はドワーフの技術の粋を集めており、貯水、排水ともに如何なる水量にも自在に対応できるからだ。しかも、闇エルフの土木工事の腕前はドワーフが見れば思わず手を貸したくなるようなお粗末なもので、上流の堰からはまだストーンブリッジで使用するに充分な水が漏れているのである。
ジリブラン王は黙って闇エルフ軍の疲弊を待てばよいとたかをくくっていた。しかし、闇エルフの水攻めが1週間ほど続いた頃から、ストーンブリッジ内で疫病が流行しだした。時を同じくして赤水川の河岸に闇エルフの土嚢を積んだイカダが流れ着いた。中にはパンパンに膨れ上がり腐臭を漂わせるドワーフの死体が詰め込んであったのだ。メネル・イシルキールはこれ見よがしにこの麻袋を流してよこしたに違いない。今やストーンブリッジの貯水槽は淀んだ水で満たされ、民間人を含む多くのドワーフが疫病に倒れていた。まさにその時、敵襲を告げるラッパが鳴り響いた。病床から這い出したドワーフ軍の歴戦の勇者も、侵入してきた闇エルフの下級兵士に良いように惨殺され、屈辱的な籠城戦はドワーフの玉砕という形で終了した。ただ一つ幸いだったことは、この戦闘はごく短時間で終了し、ドワーフたちは必要以上に長く苦しむことがなかったということと、蔓延した疫病のため、しばらくの間は闇エルフもストーンブリッジを使用できないということだ。
ファングセインからの援軍はついに到着しなかった。彼らがどこへ行ってしまったのか、おって明かになるであろう。
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今月4日、サラモニス軍は決戦の地と決めたバイエアにおいてバルサス軍と遭遇した。
小高い丘の上に陣取ったサラモニス軍は、猛将ルミリー率いる騎馬100、歩兵1300の軍を第一陣に置き、左翼にアギノフ、右翼にイロミニアを配した。主力である二陣はバルンゾリス率いる2200の兵がおり、さらに後方にはサラモニス王の側近であるリプレッサーが率いる1500の兵が本陣を任されている。
バルサス軍はおよそ5000の軍団であり、その内訳はゴブリンが32%、オークが44%、不死の軍団が16%とされる。いずれにしても寄せ集め部隊であり、統率は全くと言っていいほどとれていない。
両軍の弓箭兵がひとしきり射撃戦を展開した後、バイエアは血なまぐさい乱戦の地となった。勇猛をもってなるルミリーは、白馬のみ20騎からなる有名な「白騎馬隊」を自ら率いて敵陣中を縦横に駆けめぐった。バルサス軍はあっという間に四分五裂の状態となり、何百もの醜い遺骸を残して壊走した。興奮したルミリーは白騎馬隊に追撃を命じた。
ところが、それに応ずる者はいなかった。騎兵たちがどれほど拍車を掛けても、彼らの乗る白馬は脚に根が生えたように動かなくなってしまったのだ。不審に思ったルミリーが前方彼方に目を凝らすと、逃げまどうオークたちの流れに逆らって、何か黒い物がサラモニス軍の方に歩いて来るのが見えた。その黒い物は、ルミリーたちの姿を認めると突如猛然と迫り、剣を構える隙も与えずに3騎の白騎馬を恐ろしい爪で引き裂いてしまった。
黒い物は地面に着きそうな長い腕を持った人型で、やせ細ったヒヒのような体をしていた。犬のようなその顔の中では、真っ赤に血走った目が貪婪な光を放っていた。身長はサラモニス軍で最も大きな戦士より頭一つ分は高く、全身に真っ黒い剛毛が密生している。
ある学者の説によると、この獣は「マハトマ」と呼ばれ、この世界とは全く性質の違う場所からやってきたらしい。それ故、その肉体もタイタンのあらゆる物質と異なる存在であり、タイタンの如何なる物によっても傷つけることはできないのだという。
マハトマは黒い疾風となってサラモニス軍の陣中深く切り込んでいった。マハトマが通った後には死体の敷き詰められた道ができた。ルミリー隊に次いでバルンゾリスの隊も真っ二つに切り裂かれ、マハトマは一気に本陣に肉薄した。
サラモニスの兵が慌てて左右に散る中で、初陣のガテリック王子が真っ向からマハトマと対峙した。「稀代の天才剣士」は出陣に先駆けて父王サラモニス62世から賜った宝剣、ネウィンリスクをついに抜き放つことはなかった。マハトマがすれ違いざまに素早くガテリックに触ると、ガテリックは両足をばたつかせながら切り揉みし、次の瞬間には周囲にいた6人の兵士と一緒くたの肉塊に変わり果てた。
マハトマがサラモニス軍の中を何度も往復し、サラモニス軍は完全に瓦解した。この戦闘の中でアギノフの副将ヘキシニーズをはじめ、バゾリーニ、カッタングラム、モラルスといった良将が命を落とし、イロミニアも右腕を失う重傷を負った。それはわずか3時間ほどの出来事であった。サラモニス軍が絶望の色一色に染まったまさにその時、マハトマは不意に「どう」とばかりに倒れた。
逃げ遅れて至近にいた兵士の一人が勝ち名乗りを上げた。カンスという名のその兵士は、自らの放った投石がマハトマを倒したと主張するが、はたして本当だろうか? 一説によるとマハトマは地上では数時間しか存在できないという。しかしながら、サラモニス軍は士気高揚の意味も込めて兵士カンスに勲4等蒼猪章を授与し、百人長に任じる約束をした。
この約束はついに果たされなかった。バルサス軍の卑しいオーク、ゴブリンどもは掃討戦に異常な熟練を示し、サラモニス軍の一時的な崩壊を恒常的なものとした。サラモニスの城塞都市に戻ることができた兵は千人に満たなかったという。その間にもバルサス軍はサラモニスを十重二十重に取り巻き、城内に残された老兵、負傷兵の絶望的な籠城はわずか二昼夜の内に幕を閉じた。ここにサラモニス城は陥落し、国王サラモニス62世はバルサスの要求に従い7歳の第6王子に王位を譲ると、そのままギザ岩山に連行されてしまった。バルサスはサラモニスの統治を固めるため、新王サラモニス63世のもとに今回の戦で武勲をあげたガグズル将軍の娘を輿入れさせる模様である。伝統あるサラモニス王家の高貴な血筋をホブゴブリンの血で汚し、バルサス・ダイアは混沌の要塞でさぞ哄笑していることであろう。
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チャリスの上空にガレーキープが到来したのは2日未明のことであった。ザラダン・マーは和平会議を開催するようにチャリス評議会に迫り、評議会はこれを認めた。
会議の席でザラダンはアランシアに迫る脅威を説き、チャリスの安全のために自らの私兵を寄与させたい旨を伝えた。チャリス評議会はこの件に関し連日連夜討議を重ねたが、上空に留まるガレーキープの影に怯え、多くの議員はザラダンの申し出を受け入れる方に賛成した。反対派の旗手であるバンドナルド議員が変死するに至り、議会の意向は急速にザラダン側に傾いた。
ザラダンは郊外に駐屯地を設営し、ここで軍を養った。ザラダン軍の規律は厳しく、当初の心配を余所にチャリス市民に危害が及ぶことは全くなかった。ザラダンは防衛費としてチャリス国庫から多額の拠出を求めており、これらの負担はチャリス市民に重くのしかかってきている。とは言え、サラモニスやストーンブリッジの悲報を耳にするにつけ、かりそめにせよこれまでとほぼ変わらぬ生活に多くの住民は満足しようと努めている。
評議会の欠員に自らの名をねじ込んだザラダンは、早速軍事力を背景に強大な影響力を発揮しだした。チャリス水軍都督として子飼いのガウザーを任じ、既存のチャリス軍を自軍に吸収した。同時に、クモの森内に建設された兵練場にチャリスの若者たちを半ば強制的に連行し、やがてチャリスの旗を掲げたザラダン軍を育成しようという腹だ。ザラダン・マーとの取引が吉と出るか凶と出るか、今後のチャリスの動向を見守りたい。
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