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 ディプロ・タイタン新聞    AC399年 閉の月(11月)上旬   通巻0006号
新聞 NO.6

命令内容
トカゲ王軍
 王軍 マイアウォーター 移動 西の海(北)
 海軍 西の海(北) 移動 ポートブラックサンド
 陸軍 マイアウォーター 支援 陸軍 ナマズ川 相互
 陸軍 ナマズ川 支援 陸軍 マイアウォーター 相互

シャーリラ軍
 王軍 カアド 待機
 陸軍 異教平原 待機
 陸軍 氷指山脈 待機
 陸軍 アンヴィル 待機
 陸軍 ファング 待機

ザゴール軍
 王軍 氷結台地 移動 ゼンギス(退去希望先 火吹山、氷結台地、月岩山地)
 陸軍 月岩山地 移動 火吹山(退去希望先 ダークウッドの森、ゾルダンの塔、月岩山地、ゼンギス)

ケリスリオン軍
 王軍 ゾルダンの塔 移動 月岩山地
 陸軍 ダークウッドの森 援護 王軍 ゾルダンの塔 移動 月岩山地
 陸軍 火吹山 移動 ゼンギス(退却希望先 ゼンギス)
 陸軍 ストーンブリッジ 待機(退却希望先 ゾルダンの塔)

ザラダン軍
 王軍 チャリス 待機
 陸軍 クモの森 待機
 陸軍 シルバートン 待機

マルボルダス軍
 王軍 オイスターベイ 援護 陸軍 シャザール 援護 陸軍 南部平原 移動 ヨーレの森
 陸軍 シャザール 援護 陸軍 南部平原 移動 ヨーレの森
 陸軍 南部平原 移動 ヨーレの森(退却希望先 南部平原 どくろ砂漠 どくろ海岸)
 陸軍 ヴァトス 待機(退却希望先 どくろ海岸)

バルサス軍
 陸軍 どくろ砂漠 移動 ヴァトス(撤退希望先 ギザ岩高地)
 陸軍 ヨーレの森 移動 シャザール(撤退希望先 ギザ岩山)
 王軍 柳谷 待機
トピック
 ケイポン地方を巡って、ザゴールとケリスリオンの激しい戦闘が繰り広げられた。結果的にザゴールが月岩山地を明け渡し、ゼンギス篭城という形になったが、そこに至る過程での闇エルフの損耗も少なくは無い。
 敵首都ヴァトスを包囲したバルサス軍だが、その攻略は困難を極めた。【記事参照】
 
黒き雄牛の恐怖
 バルサスの奸計に謀られたことを知ったマルボルダス軍最高指令《黒法師》チェノ・カンターボックは、激しい怒りに駆られる幕僚を諫めながら次の指示を出した。チェノは軍司令部をシャザールに移し、集結した3軍を束ねて一気にヨーレの森に攻め入った。
 待ち受けるバルサス軍の《お化け葛》ガッシド・ベラルには、敵首都陥落までの僅かな期間を守り抜けるだけの自信があった。森の中の各所に罠を仕掛け、分散配置した軍勢を用いたゲリラ戦術により、敵の侵攻速度は著しく減退するはずである。
 この作戦はある程度図にあたり、ガシッドは少しずつ後退しながら朗報を待っていた。
 ヴァトスを包囲した《白手袋》レーブル・アシュタクセイは、今回の攻城戦が何とも退屈な任務になるであろうと予想していた。何人もの間者が敵首都には僅かな軍しか配されていないという情報をもたらしていたからだ。レーブルは全軍の指揮を副官のフォリオ・グリゴンに任せた。初陣のフォリオに花を持たせようとしたのだ。
 包囲陣がまだ整わぬうちにヴァトスの城門が内から開かれた。血迷った蛇人たちがやけくそになって飛び出してくる様を見て、《白手袋》レーブルはせせら笑った。フォリオ・グリゴンは父譲りの戦術眼で瞬く間に敵兵を包囲した。その用兵はとても初陣とは思えぬ見事なもので、滅多に人を誉めたことのないレーブルでさえ、その手並みを見て拍手を送ったと言う。
 ヴァトス守備兵は瞬間的に殲滅させられるはずであった。しかし、実際にはそうはならなかった。蛇人たちの先頭に立つ黒いミノタウロスが寄せ手の大軍をほぼ1人で引き受けていた。その巨大な戦斧が空を切るたびに、彼の周囲に無人地帯ができた。足下には敵味方含めて多くの兵の残骸が小高い丘になっており、ヴァトスの城門は死体で閉ざされた。激しい血煙が収まったとき、戦場に立っているのは黒いミノタウロス、《千禍一夜の》バギャックだけだった。1個中隊を壊滅させてなお物足りぬ様子で、バギャックは足下に転がる死体の頭を砕いては退屈をしのいでいた。
 レーブルは震える声でガスター・リンチを呼びつけた。オーガの《山崩し》ガスターはレーブル軍一の巨漢で、ふつうのオーガよりも頭2つ分は大きく、並んで立つとレーブルが子どものように見えた。ガスターは手のつけられない暴れ者だが、その強さは折り紙付きであった。バギャックを倒すように指示されたガスターは喜々として最前線に赴いた。
 バギャックと対峙したガスターは不敵に微笑んだ。ガスターはバギャックより縦に一回り、横には二回り半ほども大きかった。バギャックが全く動じる様子がないのに腹を立てたガスターは手近な岩をつまみ上げてバギャックの頭にしこたま叩き付けた。それはガスターの巨体からは想像もできないほど素早い一撃で、さしものバギャックも不意を付かれた。岩はバギャックの頭で粉々に砕け散った。しかしバギャックはひるんだ素振りも見せず、頭を左右に振って土埃を払った。ガスターの表情が一瞬こわばり、そして一生そのままだった。次の瞬間にはガスターの身体に大きな穴があき、その背中からバギャックの退屈そうな顔が覗かれた。
 レーブルはその後も次々と名うての戦士を送り込んだ。3匹の殺生怪、円盤人の暗殺部隊、ギロイド・マッシュの黄金戦車、《燃える眼差し》ビフサイト率いる赤目部隊など、レーブル軍自慢の戦闘部隊が先を争ってバギャックに挑み、そして殺された。バギャックは戦いの臭いを嗅ぎつけると直ちにその場に現れた。バルサス軍が3方向から同時に攻めて撃退された際も、それぞれの軍がバギャックに破れたと主張した。実際には牛の仮面を付けた大男を何人も用意しただけだが、バギャックの影に怯えて萎縮したバルサス軍と、バギャックに士気を鼓舞されたマルボルダス軍では戦う前から決着が付いているようなものだった。
 バギャックは用兵にも優れ、寄せ集めの軍団を精鋭部隊に仕立て上げた。ヴァトスに近いバルサス陣はことごとく襲撃され、多くの兵が失われた。《白手袋》レーブル・アシュタクセイは打つ手を失って遠巻きにヴァトスを眺めるしかなかったが、篭城戦としては異例なことに、城内から攻撃側の腑抜けぶりを罵る叫びが発せられ、血の気の多い兵士たちが何人も犠牲になった。戦況はいつしか攻撃側にとって苦しい持久戦となり、その間にも《お化け葛》ガッシド・ベラルはジリジリとヨーレの森を追い落とされていった。