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 ディプロ・タイタン新聞    AC399年 氷の月(1月)下旬   通巻0011号
新聞 NO.11

命令内容(赤字は不履行)(青字は消滅)
トカゲ王軍
 王軍 西の海(北) 待機
 陸軍 ポートブラックサンド 待機
 陸軍 ナマズ川 待機
 陸軍 マイアウォーター 待機

シャーリラ軍
 王軍 ファング 移動 アンヴィル
 陸軍 氷指山脈 援護 王軍 ファング 移動 アンヴィル
 陸軍 異教平原 援護 王軍 ファング 移動 アンヴィル
 陸軍 ゾルタンの塔 移動 火吹山
 陸軍 ストーンブリッジ 待機(誤記)
 陸軍 カアド 待機

ケリスリオン軍
 王軍 火吹山 徴兵
 陸軍 アンヴィル 移動 氷指山脈
 陸軍 氷結台地 援護 陸軍 アンヴィル 移動 氷指山脈

ザラダン軍
 王軍 チャリス 待機
 陸軍 クモの森 待機

マルボルダス軍
 王軍 オイスターベイ 援護 陸軍 シルバートン 移動 ナマズ川
 陸軍 シルバートン 移動 ナマズ川
 陸軍 ヨーレの森 待機(誤記)
 陸軍 南部平原 援護 王軍 オイスターベイ 援護  陸軍 シルバートン 移動 ナマズ川

バルサス軍
 陸軍 トロール牙峠 移動 クモの森
 陸軍 逆風平原 援護 陸軍 トロール牙峠 移動 クモの森
 王軍 サラモニス 移動 トロール牙峠
トピック
 ダークウッドの森の地下都市ダークサイドはヴェリコーマ皇女の裏切りにより陥落したものの、ヴィライデル・ケリスリオンは火吹山にて態勢を整えようと努めている。〈アンガロックの脚〉リュグンゴル率いる軍は先にアンヴィルへ進撃、さらに弟〈ホーツィンの爪〉アルタソロンの支援を受けて、シャリーラの本拠地へ決死の突撃を試みた。【記事参照】
 マルボルダス・バルサス連合軍は共に北上、快進撃を見せ、戦乱は新たな様相を見せる。
 
氷城の熱闘
 氷指山脈奥深くに建てられた氷の城は、城主シャリーラの胸像を模して作られていた。全体を雪と氷で覆われた城は、遠目には美しいが、誰をも寄せ付けぬ厳しさを持っており、その意味でも所有者によく似ていた。
 攻め手である闇エルフ軍指揮官《アンガロックの脚》リュグンゴルは、さまざまな攻城兵器を用意してこれに挑んだ。しかし、実際のところ、広く勢力を伸ばしすぎたシャリーラ軍の城は非常に手薄になっていた。守りの任に就く錬金術師ネッフェルザートは、攻め手の大軍、重装備の報を聞いて震え上がった。それまでふんぞり返って座っていた女王の玉座から飛び降りて、一目散に隠れ場所を探した。
 女王の図書室の書架上で震えるネッフェルザートだったが、そのとき埃まみれの冊子が目に止まった。ページをめくるうちにネッフェルザートの顔が見る見る緩んだ。チンケな錬金術師は図書室から飛び出して部下たちに号令を出した。
 リュグンゴルの軍は雲底を押し立てて前進し城壁に迫った。破城槌が城門を激しく打つたびに鋼鉄製の閂は曲がっていった。シャリーラ軍が抵抗しないことを《アンガロックの脚》が訝しく思ったそのとき、山脈全体を大きく揺らして巨大な雪の女王が立ち上がった。
 シャリーラ城は文字通りシャリーラそのものを表しており、地中にあった本体を引き出すと遙か雲を突いてそびえ、その頭部は天蓋に届くほどであった。足下の闇エルフ軍は恐慌をきたして逃げまどった。シャリーラの目の位置にある窓からこの様子を見たネッフェルザートは狂喜した。シャリーラ城が一歩踏み出すたびに、歴戦の闇エルフ戦士たちが百人単位で踏みつぶされた。耳元を飛び交う飛竜編隊を手の甲で軽く払い落とし、シャリーラ像は前進を続けた。《アンガロックの脚》リュグンゴルはもはや戦線を維持できず、大幅な後退を余儀なくされた。
 不意に巨大な力を手に入れたネッフェルザートは、この城さえあれば世界を牛耳れると確信して有頂天になった。
 リュグンゴルの軍は散り散りになって山中を逃げまどった。幸いなことに何処にいても敵の居所が知れるため、動きは鈍いシャリーラ像から逃げること自体はさして困難ではなかった。しかし、それを倒す手だてとなると皆目見当がつかない。逃亡生活も6日目に入り、兵たちの疲労も頂点に達した頃、急を聞いて駆けつけたリュグンゴルの弟《ホーツィンの爪》アルタソロンの軍に合流することができた。アルタソロンは本国よりの書簡を携えていた。
 その翌朝、山頂より煙の立ち上るのを見たネッフェルザートはその方向に赴いた。とは言え、シャリーラ像の歩みは遅く、到着したのは昼近くであった。山頂を見下ろすと、闇エルフの軍勢の中央で魔術師が何やら儀式を執り行っていた。魔術師がシャリーラ像を見上げ「朽ちよ!」と告げたとき、祭壇の炎の色が紫色に変わった。その形相にただならぬものを感じ、ネッフェルザートは額の汗を拭った。オロオロしながら周囲を見回すネッフェルザートだが、何が起こったのか一向に分からず、ただ冷や汗を流すのみ……ではない! この異常な汗の量は何か。北端のこの地では真夏でもこれほど暑くはないはずだ。慌てて窓の外を見ると、なんと太陽が間近に迫っているではないか! ネッフェルザートは愕然とした。
 太陽はさらに近づき、氷でできたシャリーラ城を溶かしていった。溶け崩れるシャリーラの顔は苦悶に歪んでいるように見える。ネッフェルザートは涙声で命乞いをしたが、そのときシャリーラ像の顔面を覆う氷の壁が剥がれ落ち、その下に隠された泥の顔が露わになった。それは醜く痘痕になった老婆の顔で、激しい怒りの表情を浮かべていた。シャリーラ像は雪と氷で装った美しい娘の姿を捨て、狂気に駆られて歪んだ老魔女の本性を現した。
 ネッフェルザートは「闇エルフの魔法、何するものぞ」と再び高らかに笑った。驚かされた腹いせに、うるさい闇エルフどもを踏みつけようと、錬金術師はシャリーラ像の足を高く揚げた。ネッフェルザートの笑いが最高潮に達したそのとき、激しい衝撃と共にシャリーラ像の頭が落ちた。太陽神グランタンカが通り道を塞ぐ邪魔なシャリーラ像の顔面に「きつい一発」をお見舞いしたのだ。ネッフェルザートは何が起こったかも分からぬうちに息絶え、首のない巨大なシャリーラ像だけが残された。
 闇エルフ軍で太陽召還の儀式を執り行った魔術師、《かぎ爪の鹿》ティオリアは、闇エルフに禁じられた魔法を用いたかどで自害させられたが、その遺族は《アンガロックの脚》リュグンゴルによって篤くもてなされた。