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 ディプロ・タイタン新聞    AC400年 暖の月(6月)上旬   通巻0020号
新聞 NO.20

命令内容(赤字は不履行)(青字は消滅)
トカゲ王軍
 王軍 ザンバー・ボーンの塔 待機

シャーリラ軍
 王軍 マイアウォーター 待機
 陸軍 ゾルタンの塔 待機
 陸軍 ストーンブリッジ 待機

ケリスリオン軍
 王軍 アンヴィル 移動 氷指山脈
 陸軍 ゼンギス 援護 王軍 月岩山地 待機
 陸軍 異教平原 援護 陸軍 アンヴィル 移動 ストーンブリッジ
 陸軍 カアド 援護 王軍 マイアウォーター 待機
 陸軍 火吹山 援護 王軍 月岩山地 待機
 海軍 ファング 援護 陸軍 カアド 援護 王軍 マイアウォーター 待機
 陸軍 アンヴィル 移動 ストーンブリッジ

ザラダン軍
 王軍 月岩山地 待機

マルボルダス軍
 王軍 火山島 援護 海軍 西の海(北部) 援護 王軍 マイアウォータ 待機
 海軍 西の海(北部) 援護 王軍 マイアウォータ 待機
 海軍 西の海(南部) 援護 陸軍 ポートブラックサンド 援護 王軍 マイアウォータ 待機
 陸軍 ポートブラックサンド 援護 王軍 マイアウォータ 待機
 陸軍 シルバートン 援護 王軍 ナマズ河 援護 陸軍 ストーンブリッジ 待機
 陸軍 シャザール 待機
 陸軍 南部平原 待機

バルサス軍
 陸軍 クモの森 移動 月岩山地
 陸軍 ヤズトロモの塔 援護 陸軍 クモの森 移動 月岩山地
 陸軍 チャリス 援護 陸軍 クモの森 移動 月岩山地
 陸軍 ダークウッドの森 援護 陸軍 クモの森 移動 月岩山地
 王軍 ナマズ川 援護 陸軍 ストーンブリッジ 待機
 陸軍 逆風平原 移動 クモの森

 
トピック
 月岩山地がバルサスの手に落ち、ザラダン軍は瓦解した。【記事参照】
 
ザラダン軍崩壊 −月岩山地の代理戦争−
 闇エルフ軍の尖兵がゼンギス人であることを知ったバルサスは、旧サラモニス軍からなる部隊を月岩山地に投入した。これは戦略というよりも、彼一流の歪んだジョークといってよい。
 サラモニス人部隊の指揮官は《天秤の騎士》レゼット・スタンバートである。信義にあついこの男は、バルサスに捕縛されてなお、その軍門に下ることを頑なに拒んだ。業を煮やしたバルサスはレゼットの処刑を言い渡すが、その武勇を惜しんだバルサス軍参謀次官アルナード・キャスの請願により助命され、サラモニス王城の尖塔に幽閉されていた。
 今回の出兵にあたり、アルナードから敵軍がゼンギス人と聞かされたレゼットは、人類の裏切り者に対して激しい怒りを覚え、自ら指揮官を名乗り出た。
 決戦は山間の台地で、いにしえの流儀に則って行われた。台地の両端に陣を敷いた両軍の武将は交互に名乗りを上げた。
 サラモニス軍はレゼット・スタンバートを大将に据え、副将にオルシエンダーを、さらに《無尽槍》アスグロやダウノット・ピン、セバスト=リューン・ストックホーンなどの驍勇を並べ立てた。
 対するゼンギス軍は先に負傷したパセロールに代わってバクスターチが大将となり、副将に《フェイル》のリリオ、《長き腕の》ベルローズの両名を立てた。先陣を切るのは《城の》ホマーレである。彼は今回初めて先鋒を任ぜられたが、その鉄壁の守りで時を稼ぐ間に、左翼からはベラージ兄弟の兄である《清浄の閃光》ジェイオ・ベラージが、右翼からは同じく弟の《セレナの声音》キュー・ベラージが、サラモニス軍を包囲殲滅する作戦である。
 開戦を告げる角笛は荒々しい蹄の音にかき消された。《城の》ホマーレは神懸かり的な技術で最前線に堡塁を築き上げた。これにはサラモニス軍の一番槍を買って出たアスグロも面くらい、堡塁を見上げながら右往左往せざるを得なかった。その間にも頭上より矢を射かけられ、アスグロは部下の突出を諫めながら大慌てで攻城陣形に移行した。陣形を入れ替える隙をついてベラージ兄弟がアスグロ隊を挟撃、これを撃破した。
 サラモニスの第2陣を務めるダウノット・ピンは、いつものように鞍の後ろに妻であるシュシュルを乗せて戦場に現れた。シュシュルに何やら囁かれたダウノットは、大きくうなずいてから指揮棒を振り降ろした。ダウノット隊の兵士は大きな盾をかざして堡塁に近づき、土嚢の奥からわずかに出た2本の柱に斧を振り下ろした。これを見たホマーレは悲鳴をあげた。その柱こそは堡塁の急所であり、斧の一振りごとに堡塁が大きく揺れた。
 慌てて飛び出すベラージ兄弟だが、援護に回ったセバスト=リューン隊に阻まれた。乱戦の中、敵将ダウノット・ピンを見つけだしたキュー・ベラージが手勢を従え殺到する。しかしダウノットに同乗するシュシュルは小さな弓から矢を放ってこれを防いだ。子どものような射手と玩具のような弓からは想像できない猛烈な矢が、横殴りの豪雨のように放たれ、何人たりともダウノットの騎馬に近づけないでいた。ついにキューは自慢の喉に細く鋭い矢を受けて落馬、笛のような音を立てて悶絶しながら死んでいった。
 ゼンギス軍の堡塁は窮地にあったが、それでもホマーレはかなり長い間それを守り抜いた。煮えたぎる油と燃えさかる炎が、何度となくサラモニス兵を焼いた。ダウノット隊の兵士のほとんどが負傷し、セバスト=リューン隊がその後を引き継いだ。正午過ぎになってようやく支柱が折れ、堡塁は轟音と共に倒れた。もはや戦闘の趨勢は定まった。
 《無尽槍》アスグロは一騎打ちで《清浄の閃光》ジェイオ・ベラージを破り、緒戦の雪辱をはたした。転戦してゼンギス本陣を守る《城の》ホマーレにいささか手を焼いたが、日暮れにはサラモニスの勝利で決着が付いた。
 サラモニス軍指揮官《天秤の騎士》レゼット・スタンバートは、引き立てられたゼンギス軍の武将を悪し様に罵った。闇エルフに与してザラダン・マーを守護する人類の裏切り者を処刑するのに何の躊躇もなかった。レゼットは病床からパセロールをも引きずり出して、声高に蔑んだ。パセロールは「貴公ほどの男なら、やがて自らの行いを悔いて憤死するだろう」と言い残して息絶えた。レゼットはその言葉に当惑しながらも、軍勢を立て直し、ザラダン要塞を襲撃した。
 ザラダン要塞の守備はあまりにも脆かった。もはや残された兵力は乏しく、老人や子どもが主な戦力と言う有り様だった。しかしレゼットは容赦無く、ザラダン軍の残党を殲滅するよう発令した。《天秤の騎士》は混沌の一角を突き崩すことに喜びを感じており、自ら手勢を従え、本丸の奥深くに切りこんで行った。
 レゼット・スタンバートは遂に玉座の間に辿りついた。しかしそこには憎むべきザラダン・マーの姿は無かった。そこには老いさらばえた男が一人たたずむだけであった。レゼットは剣を付きつけて、ザラダンの行方を老人に尋ねた。アサロディオと名乗る老人はゆっくりと語り出した。
 開戦後まもなく、一兵卒に身をやつしたヤズトロモがチャリス軍に潜伏し、ザラダン・マーに近づくことに成功した。そして、献上品の一部として古い書物を差し出したのである。
 この書物は「カ・ガプノール」あるいは「宵の書」と呼ばれ、太古の戦に用いられた。記された儀式を執り行えば、敵将の意志を挫き、敵軍の志気を減退させると言われる。伝説の書物を手にしたザラダンは、早速各軍の首領を象った人形を祭壇に据え置き、86種の薬品、23種の魔法の工芸品、6種109匹の生け贄の動物を用意し、延べ194時間50分に及ぶ呪文の詠唱を終えて儀式を完成した。優れた魔術師であるザラダン・マーは、この困難な作業をほとんど一人でこなしたが、それでも儀式の成功を告げる青い煙が立ち上ったときには安堵のため息をついた。そして、この様子を物陰から覗いていたヤズトロモもこれに倣った。
 儀式は成功し、意志薄弱な首領は順次戦意を喪失、やがて軍務から退くこととなった。しかし、最初に効果を受けたのは他ならぬザラダン・マー本人であった。ヤズトロモは書物を献上する前に、巧みにその中の1語だけを改竄していたのだ。良き魔術師は、本来「敵軍の将を象りし偶像を」となっている部分を「全軍の将を」と書き換えた。小手先の術には長けているものの世間知らずで愚かなザラダン・マーはまんまと罠にはまり、自らの術によって気力を削ぐ形となった。
 ヤズトロモに後を任されたチャリスの長老アサロディオは、腑抜けとなったザラダンを暗殺、ザラダンの私兵を含めたチャリス軍の全権を掌握した。しかしアサロディオはザラダンの死を公表せず、自らザラダン・マーを装って他の軍勢を牽制した。この目論見は図に当たり、放浪を続けながらもチャリス市民はどうにかこれまで生き長らえることができた。
 だが、人間の機知によるかりそめの平和は、同じく人間の手によって崩されることとなった。
 アサロディオが語り終えた時、《天秤の騎士》レゼット・スタンバートは顔色を失った。外からは未だ無抵抗のチャリス市民に剣を付きたてるサラモニス騎士の喧騒が聞こえた。
 ザラダン要塞掃討戦におけるバルサス軍の戦死者は僅か1名、《天秤の騎士》レゼット・スタンバートのみであった。