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 ディプロ・タイタン新聞    AC400年 炎の月(7月)上旬   通巻0022号
新聞 NO.22

命令内容(赤字は不履行)(青字は消滅)
トカゲ王軍
 王軍 ザンバー・ボーンの塔 待機

シャーリラ軍
 王軍 マイアウォーター 待機
 陸軍 ゾルタンの塔 待機
 陸軍 ストーンブリッジ 待機

ケリスリオン軍
 王軍 氷指山脈 援護 海軍 ファング 移動 ザンバー・ボーンの塔
 陸軍 ゼンギス 援護 陸軍 火吹山 援護 陸軍 ゾルダンの塔 待機
 陸軍 異教平原 援護 王軍 マイアウォーター 待機
 陸軍 カアド 援護 王軍 マイアウォーター 待機
 陸軍 火吹山 援護 陸軍 ゾルダンの塔 待機
 海軍 ファング 移動 ザンバー・ボーンの塔
 陸軍 アンヴィル 援護 陸軍 ストーンブリッジ 待機

マルボルダス軍
 陸軍 西の海(北部) 待機
 王軍 火山島 援護 陸軍 西の海(北部) 待機
 海軍 西の海(南部) 援護 移動 ブラッド島
 陸軍 ポートブラックサンド 援護 陸軍 西の海(北部) 待機
 陸軍 シルバートン 援護 王軍 ナマズ河 援護 シャリーラ陸軍 ストーンブリッジ 待機
 陸軍 シャザール 待機
 陸軍 南部平原 待機

バルサス軍
 陸軍 ダークウッドの森 移動 ゾルダンの塔
 陸軍 月岩山地 援護 陸軍 ダークウッドの森 移動 ゾルダンの塔
 陸軍 ヤズトロモの塔 援護 陸軍 月岩山地 援護 陸軍 ダークウッドの森 移動 ゾルダンの塔
 陸軍 クモの森 援護 陸軍 月岩山地 援護 陸軍 ダークウッドの森 移動 ゾルダンの塔
 陸軍 チャリス 援護 陸軍 月岩山地 援護 陸軍 ダークウッドの森 移動 ゾルダンの塔
 王軍 ナマズ川 援護 陸軍 ストーンブリッジ 待機

 
トピック
 ケリスリオン軍のシャクシャクバイエフ候はトカゲ兵に守られたザンバー・ボーンの塔を遂に陥落せしめた。【記事参照】
 マルボルダス軍はブラッド島を占拠した。

 
シャクシャクバイエフ侯の危険な愉しみ
 グリゴーリは、イグボールのあとについて地下迷宮の奥へと進んでいった。
「わしの貴重な時間を費やすだけの価値はあるのだろうな」吸血鬼は言った。「貴様の言辞が飾り立てた誇張にすぎぬときは……そうだな、わしのマントを飾る頭蓋骨のひとつに仲間入りすると思えよ、イグボール」
「御期待に添えるものと確信しております、閣下」
 貼り付いたような笑みを向けて、小柄なノームは跳ねるように前を歩いていく。
「わしとて、《闇の祖》の信頼を裏切るわけにはいかんのだ」
 グリゴーリ・シャクシャクバイエフ侯は、毛深い胸板を黒く汚れた鋭い爪で乱暴にかきむしった。乾いた皮膚の屑が剥がれ落ちて服に散らばるが、気にもとめない。かき傷のほうはみるみるうちに塞がっていく。
 ケリスリオン王からファングの支配を任されているが、思わしい戦果をあげてはいなかった。海域をマルボルダス軍の船団に封鎖され、ザンバー・ボーンの領地からは幾度となく退却させられている。ザンバー・ボーンはトカゲ兵を不死の軍勢へと仕立て上げ、独立を保っていた。
 マルボルダスの使者がザンバー・ボーンへ送られている報告を聞き、グリゴーリの心中は穏やかではない。不安がのしかかってくると、粗暴な外見とは裏腹に、ゼンギスの一農夫にすぎなかったころの臆病さが頭をもたげてくるのだ。
 だが、グリゴーリはファングの女奴隷たちから吸った血で赫々と染まった顔を傲然と正面に向け、大股で地下道を闊歩するのだった。
 その前を、体にぴったりした緑の服を身につけたノームが道化のように先導する。イグボールは新たな主人に気に入られようと懸命だった。元はサカムビット公に仕えており、迷宮探検競技の準備に携わっていた魔術師のひとりだったのだ。
 ふたりは洞窟に入り、巨大な穴のふちへとやってきた。
 グリゴーリが覗き込むと、そこには一匹の醜い怪物が直立していた。肉体を覆う緑と茶のまだらになった頑丈な革状の皮膚がいやらしくのたうっている。その大きな顎は骨を砕き肉を裂くためだけに存在していた。
「穴悪魔ではないか」
 グリゴーリはうんざりしたように言った。たしかに穴悪魔は恐るべき化物だが、思い通りに操れないのであれば、戦場では役に立たないからだ。
「では、仕上げを御覧ください」
 イグボールは懐からガラス球を取り出すと、呪文を一言唱えた。ガラス球に紫の電光が閃くと、穴のほうから同じように紫の光が放たれた。穴悪魔の全身に一面びっしりと、光り輝くルーン文字が浮かび上がったのだ。
「右手を上げよ」
 ノームの魔術師がそう命じると、穴悪魔は小さな右腕を上げてみせた。イグボールが指示を出すたびに、人形のごとく身体を動かした。
「すばらしい、実にすばらしい。わしにもやれるのかね」
「もちろんです。この魔法球に触れる者の意思に従うのです」
 グリゴーリは閃くガラス球を受け取ると、精神が同調するのを感じ取った。己自身が穴悪魔になったような気分だ。
「咆えよ」
 洞窟内に生者の血を凍らせるような咆哮が轟きわたった。大柄な吸血鬼に流れる血は、逆に抑え切れぬ興奮で沸き立った。
「なんと、なんと卑しく、粗野であることよ」
 グリゴーリは圧倒的な力の感覚に酔いしれた。
「貴様には《ヴァルガー・ルーン》の名を授けてやろう。ザンバー・ボーンめ、思い知らせてくれるわ」
 グリゴーリ・シャクシャクバイエフ侯の哄笑が迷宮に谺した。