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ダークサイド・トリビューン派遣員、〈闇の囁き〉ロナルッセ・テサラスが、血で血を洗う戦場よりわが軍の勇猛なる活躍をお報せしよう。この報せを読む者は、その栄光に輝ける光景をありありと思い浮かべることができよう。サングァリンペの茸酒を杯に満たし、闇エルフの勝利を祝って飲み干すがいい。 ストーンブリッジの決闘 赤水川にかかる石の橋をはさんで、馬に跨った二人の戦士が対峙していた。 ストーンブリッジ側にいるのは、無謀な闘いに挑まんとするドワーフの将。そして、ダークウッドの森の側にいるのは、比類なき英傑メネル・イシルキール皇子であった。今まさに、戦の前の一騎打ちが両軍の代表者によって行われようとしているのだ。 「わしはジリブラン陛下の名誉を守るべく命を賭して闘う者、ンドゥルー・ホーリーアンヴィルである。王のウォーハンマーがあるかぎり、わが軍の士気衰えることなし。諦めて退くがよいわ、闇の者ども!」 三つ編みにした長い髭をふた房垂らしたドワーフの戦士は、大声を張り上げた。右手に重そうな斧を握り、左手に円楯を構えている。 メネル皇子は呵々と大笑した。 「つまらぬ嘘を申すな。あのウォーハンマーがマイアウォーターの者に奪われたことは先刻知っておるのだ。一度ならず二度も盗まれてしまうとは、呪われておるのではないか、ええ?」 ンドゥルーを名乗るドワーフの表情が険しくなった。 「盗まれたことは認めよう。だが、われら屈強なるドワーフ戦士団は、そんな不運などものともせぬわ」 「不運……ウォーハンマーの盗難がこの侵攻と時を同じくしていることが偶然だとでも。つくづくドワーフとはおめでたい連中だ。ウォーハンマーがなければ、ジリブランはただの腑抜けよな」 メネル皇子は呆れたように手をひらひらと振ってみせた。 「貴様らが裏で糸を引いておったか。許さぬ、許さぬぞ!」 激昂したンドゥルーが橋を渡って突撃してきた。 メネル皇子は動じることなく腰の曲刀を抜き放った。かの名刀〈心を切り裂くもの〉インドグリストである。 橋のたもとで両者は激突した。互いの得物が火花を散らし、力のこもった一撃が楯によって受け止められた。メネル皇子の青毛の馬とンドゥルーの葦毛の馬はぐるぐると同じ場所をまわり、騎手は幾度となく打ち合った。 ふたりに疲れが見えはじめたとき、一瞬ンドゥルーが奇妙な動きを見せた。目に見えぬ蛇にでも襲われたかのように自分の髭を振り払う仕種をしたのだ。メネル皇子はその隙を逃さず、楯の下から刀を突き上げて腕の付け根に傷を負わせた。 ンドゥルーはバランスを崩して落馬した。 「配下の者に下劣な魔術を使わせおったな!」 メネル皇子は馬上から冷たい笑みを浮かべた。 「幻ごときに惑わされた己の意志の弱さを恥じたらどうだ。遊びではないのだぞ」 「くそっ、卑怯者め。もう少しましな奴かと思っていたが」 「命じておらんことで卑怯呼ばわりされてはな。よかろう、おれも馬を下りようではないか。それとも、傷が痛くてもう勝負は続けられぬと申すか?」 メネル皇子は舞うように馬からとび下りると、優雅に着地した。 ンドゥルーはかっとなって叫んだ。 「抜かしおったな! 貴様などこのわしが斬り刻んで、赤水川の咬みつき魚の餌にしてくれるわ!」 「そう来なくては。泣言をほざく者を殺してもつまらぬ」 ンドゥルーは声をあげて突進し、斧を振り下ろした。メネル皇子はこともなげにそれを躱すと、閃くインドグリストを振るった。ンドゥルーは楯で受けようとしたがかなわず、上膊を切り裂かれた。彼の左腕は使いものにならなくなった。 次の瞬間、メネル皇子の刀はンドゥルーの頭を刺し貫いていた。ドワーフの兜がとばされて、地面に転がり落ちた。 「意志を制する者が死を制するのだ」 メネル皇子はそう告げると、骸からインドグリストを引き抜いた。 動揺したドワーフの兵士たちがメネル皇子に向かって弩の矢を撃とうとしたが、果たせなかった。闇エルフの射手が放った矢に息の根を止められたのだ。そして、マントレット――車輪のついた大型の移動式盾が次々と前面に押し出された。 ついにストーンブリッジを攻め落とす戦が始まろうとしていた。 「この戦すでに勝負は決した。わがほうの勝利である。歌え、勝利の歌を!」 馬上に戻ったメネル皇子は、インドグリストを空に突き上げ高らかに宣言した。 戦闘開始の喇叭が吹き鳴らされ、闇エルフの歌声が戦場に低く谺した。 ダークサイド四氏族の歌 Darkside! Darkside! |