「天使たちの戦場」

 序章 一瞬の永遠

「天使になりたくはないか?」
 目の前の中年男は、そう言っていた。
 ここは、白い壁にかこまれた部屋だ。
 十才くらいの男の子がひとり、気弱そうな目を中年男に向けている。不信と、疲れの色が目にはあった。
 当然だ。この子はいままでずっと、この研究所でつらい時間を過ごしてきたのだ。わけのわからないテスト、カードの裏を当てたり、サイコロ 目を当てたり……コードのつながったヘルメットをかぶせられたり、変な薬を呑んで昏睡させられたり……
「もういちどきく。天使になりたくはないかね」
「てんし?」
 なにを言っているのか解らないのだろう、子どもがききかえす。
「そう、天使だ。素晴らしいぞ。天使になれば、ずっと毎日楽しいことだけをして、遊んでくらせるんだ」
「いやなこと、ないの?」
「ないとも。きみはその天使になれるんだ。きみには適性がある。それは今までの能力訓練課程で明らかになった」
 テキセイとかクンレンカテイとかいう言葉の意味は理解できなかったが、なにか楽しそうだと子どもは感じはじめた。
「さあ、どうだね」
「うん、天使になる」
「そうかい。簡単なことさ。たったひとつの事をすればいい。そうすれば、永遠に綺麗なままでいられるよ」
 その言葉に、少年はほほえんだ。
 そして、少年は天使になった。


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