泣き虫兵器ベルタ

 (分割版)

 第3章「鏡の中の勇者」
 
 1

 地下空洞の中心に、軍服姿の少女が一人、立っていた。
 空洞は円盤型。直径100メートル。天井のライトに照らされた床は弾痕だらけだ。
 少女は身長160センチ、金色にきらめくウェービーヘアーの持ち主。手足がすらりと長い。野戦服の胸の部分が大きく膨らんでいる。冷たく整った顔に余裕 ありげな微笑を浮かべている。白い手にG3アサルトライフルを握っている。背中には雪の結晶のような6枚の翼を広げている。首にはチョーカーを装着してい る。
「第一テスト、開始」
 床のあちこちが開く。自動制御の小銃や短機関銃が出現する。少女に向けて発砲。オレンジ色の火線が何万とはじけて少女に襲いかかる。
 雨あられと降り注ぐ銃弾を、少女はこともなげに体をくねらせてかわす。表情ひとつ変えない。
 たっぷり5秒間つづいて、銃撃は止んだ。
 銃が床の中に格納される。
「第二テスト、開始」
  天井から冷たい声が降りそそぎ、まったく同時に床が開いて標的が出現、標的は少女のまわりを高速で周回。
 しかし少女の動きはそれよりはるかに早い。
 銃口を跳ね上げ、発砲し、フィギュアスケーターのように体を一周させ。
 それだけで全てが終わっていた。
 円形ターゲットは的の中央を撃ち抜かれ。
 マンターゲットは胸と頭に一発ずつ打ち込まれ。
 そして、生きたターゲット……ジャーマン・シェパードは頭蓋骨を粉砕されて死んでいた。
 まさに一瞬。コンマ5秒とはかからなかった。
 少女は射撃をとめ、もう一度くるんと回って射撃結果を確認。完全に余裕の笑みをうかべている。
「ま、こんなものね」
 幼さを感じさせる声で勝ち誇る。
 彼女の名はドーラ。四人目の「エインヘリヤル」。
「見事だ!」
 壁面のドアが開いた。白衣を着た長身の男が駆けよってくる。
「ありがとうございます、博士」
 少女は白衣の男に敬礼した。
 白衣の男……ヴァイスハウゼン博士は、少女のそばまでやってくると、手にしていたプリントアウトを開いて読み上げ始める。
「反応時間は0.021秒、回避効率は最適運動曲線に0.95近似。なんといってもターゲット全滅までコンマ35、これが素晴らしい。犬も一撃、これがい い」
「当然ですわ。わたくしは最高傑作ですもの」
「そうだな。ドーラ。ベルタを遥かに上回る性能だ」
「一緒にしないでくださいませ。わたくしはベルタの失敗をもとにつくられたのでしょう?」
「そうだ。お前はベルタの失敗を徹底的に洗い出して作られた。心理弱点を削り、白兵戦と射撃戦双方での戦力向上を目指した。計画通りの数値だよ。ベルタど ころかアントンとカエサルより総合成績がいい」
「ですから、当然ですの。では、エインヘリヤル量産はわたくしをベースにすることで決まりですか?」
 眉間に険しいしわを寄せ、ヴァイスハウゼンは首を振る。
「いや、まだ一考が必要だ。コンバット・ブロープンも大切だ。きみは実戦経験がない」
 壁のドアが開いて、巨体の男・アントンと、ほっそりした金髪の美少年・カエサルが出現する。
「まだまだだよドーラちゃん、ボクみたいに戦場で殺しまくれないとね」
「おう、訓練でばっか好成績でもしょうがねえ」
 自信満々の兄ふたり。ドーラは片眉をあげて不満げに、
「そうおっしゃいますけど、アントンにいさまはベルタに逃げられたのでは」
「ち……それを持ち出すなよ。まさかあの女があれだけやるとはな」
「アントン兄さんは甘いんだよ。相手と同じリングで闘うことはない。超遠距離から撃って『次元違い』の喧嘩にするのがいちばん良いんだ」
 アントンは筋肉で盛り上がった肩をすくめる。
「おう、飛び道具至上主義は危険だぜ? 俺とお前がやりあったら、お前の狙撃なんて全部弾き返してだな……」
 ヴァイスハウゼンがフフフと乾いた声で笑い出す。
「切磋琢磨、おおいに結構だ。きみたちはどれも一長一短ある。実績をあげてゆけば、量産の日も必ずやってくる。頑張れよ」
 と、そのとき。
 ドーラがG3ライフルをヴァイスハウゼンに向けた。
「む……?」
 ヴァイスハウゼンの表情がこわばる。
「悪いけど、わたくしたちには時間がないんです」
 冷たい声で言うドーラ。端正な顔に、エメラルド色の吊り目に、冷笑めいた光が浮かんでいる。
「馬鹿な冗談はよせ」
「冗談じゃあないんだな、これが」
 アントンが巨体を軽やかに動かしてすっと近寄り、ヴァイスハウゼンの首根っこをおさえる。カエサルも一瞬にしてヴァイスハウゼンの脇に移動した。
 ふたりは素手だが、人間の首など指一本で粉砕できる。
 ヴァイスハウゼン、片手を白衣のポケットの突っ込んで何かを取り出そうとする。
 カエサルの手が彼の腕を押さえた。ギリギリと骨がきしむ音。
「あ……あがっ……」
「この首輪の爆破スイッチ? 無駄だよ。昨日のうちにクラッキングして無力化しておいた」
 カエサルはヴァイスハウゼンの耳元でこともなげに言い放つ。
「ば、ばかな……お前たちにそんな能力が……」
「あったんだなあ、これが、がはは」
 下品に笑って、アントンはヴァイスハウゼンの首をつかんで宙釣りにする。
「うげ……ぐうっ」
 ただでさえ白い顔をますます土気色にしてうめくヴァイスハウゼン。取り乱し、白衣に包まれた手足をバタつかせる。
 バタン!
 ドアが叩きつけるように開け放たれた。突入してきたのはライフルを持った兵士たち。
「博士を放せ!」
 絶叫し、アントンたちに銃を向ける。返事を待たずに発砲。
 次の瞬間、アントンたち3人は消えた。
 背中の翼を展開、神経加速し、人間の反射神経を遥かに超えた速度で機動。
 アントンは両腕をクロスさせて銃弾を弾き返しながら突進、「どええええい!」と蛮声を張り上げて兵士たちにタックル。紙人形のように兵士たちがまとめて 吹っ飛ぶ。カエサルとドーラは反対方向にヒラリと跳躍、天井を足場にして方向転換、兵士たちの背後に着地してハイキックを繰り出す。機関銃のような連打。 一撃めがヘルメットごと頭蓋骨を粉砕して白とピンクの脳髄を撒き散らす。二撃めが首を刈る。ウエハースが踏み砕かれるような音が鳴った。
 たちまちあたりは血の海。兵士の頭が吹き飛んで血が噴出、1メートルの高さまで吹き上がった。
「うわあ!」 
 最初の一瞬を生き残った兵士数人が、悲鳴をあげ顔を恐怖で引きつらせながら体を反転させる。銃をカエサルとドーラに向ける。動揺で激しく揺れる銃口が炎 を吐き出す。しかしドーラは金色の髪をひるがえして身をかがめ、至近距離から浴びせられた銃弾を回避。兵士の胸に掌底打を叩き込んで肋骨と肺を粉砕。兵士 が血を吐いて飛んでゆく。カエサルはその白い腕をひらめかせて兵士から銃を奪って頭に突きつけ、発砲。自分の手から銃が消えたことも気づかずに兵士は死ん だ。
 いまや、直径100メートルの円盤型空洞内で生きているのは4人のみ。
 血まみれのアントンとカエサル、ドーラ。
 そして中央で腰を抜かしているヴァイスハウゼン。
「あ、あ、あ……」
 茫然自失の状態でうめくヴァイスハウゼンを見下ろし、ドーラが金髪を手入れしながら言う。
「いままでありがとうございました、お父様」
 ぺこりと上品に頭を下げる。
 カエサルも、奪ったG3ライフルを抱きしめて言う。
「そうだね、ありがとうをいわなくちゃね」
 アントンは猪のように太い首を縦に振る。
「おうよ、闘う力を与えてくれてありがとうな、博士」
 全員が笑みを浮かべていた。白い顔に返り血を浴び、青い瞳に愉悦をたたえた凄惨な笑みだ。
 自分を囲む三人を見回してヴァイスハウゼンは、
「お、おまえたち……いったい、いったいなんのつもりで……」
 フン、とカエサルが鼻で笑った。
「きいてなかったのかい、父さん。ボクたちは時間がないんだよ。父さんたちの掌の上じゃいけないんだって、ベルタが教えてくれたんだ」
 アントンが重々しくうなずく。
「おう」
「ば、ばかな……お前たちの居場所はこの組織の中だけだ。『自分より優れた生物』など、人間社会が認めるとでも思っているのか?」
「認めさせるんだよ、俺たちにはそれだけの力がある」
「まあ一言でいって、父さん、あなたはボクたちをなめていた」
 軽い調子で言って、カエサルはヴァイスハウゼンを射殺した。
 
 2

 ベルタは道端にすわっていた。
 横浜駅の駅前にいた。
 壁に持たれかかって座っていた。
 あたりはビルが立ち並んでいる。目の前には岡田屋モアーズ、左手にはできたばかりのヨドバシカメラ。背後のバスロータリーからはディーゼルエンジンのド ロドロという重低音がひっきりなしに響いてくる。歩道はびっちりと人々で埋め尽くされている。平日なので、カバンをさげたサラリーマンも何十人となく歩い ている。350万都市・横浜の中心にふさわしい喧騒だ。
 何人かがベルタに気づいて不審げに見る。
 当然といえば当然かもしれない。いまのベルタはパジャマ姿に裸足。長い艶やかな黒髪もチェックのパジャマも排気ガスと埃で汚れきっている。パジャマなど 雑巾代わりにできそうだ。
 そんな汚い有様で、道に腰を下ろして、ボンヤリと見上げている。
 視線の先には岡田屋モアーズの壁面があった。壁面にはテレビ画面があった。数メートル四方ありそうな巨大な画面に、携帯電話のCMが映し出されている。
 女の子が楽しげに携帯をぶら下げて街をゆく、友達と連れ立って写真をとる。
 かつてのベルタはそんな光景をみるたびに胸がしめつけられた。
 自分もああいうことがしたい、ふつうの女の子になりたい、でもできない、だから悶え苦しんでいた。
 しかしいまのベルタは違う。もう痛みも苦しみも感じない。
 (どうでもいいや)
 焦点をろくにあわせることもなく画面を見ていた。
 膝を破ったジーンズで足早に歩く男性がベルタにけつまずいて倒れた。起き上がって、怒鳴りながらベルタに蹴りを入れる。「邪魔なんじゃボケッ!」見事に 顔面にヒットした。しかしベルタは顔色も変えない。顔をぬぐうことすらしない。痛いとも感じない。
 (どうでもいい。もう、どうでもいい)
 あの船を脱出して15時間たっていた。夏の青い空に夕日が沈みつつあった。
 脱出の後、ベルタは陸地に泳ぎ着き、いちばん近くの街にやってきた。そこが横浜だった。
 それから数時間、道端に腰を下ろしたまま何もせず、食事すら取らなかった。
 (どうでもいい)
 あどけなかった顔は無表情だった。その黒いつぶらな瞳は何も見ていなかった。
 (このまま世界が終わってしまえばいい。自分が死んでしまえばいい。どっちでもいい)
 そんなことを思いながら、ベルタはただそこにいた。

 3

 旅客機のドアを内側から開けた。たちまち機内の空気が逃げ出して突風が吹く。
 銃を持ってドアの前で並んでいるドーラの長い金髪が、風にゆらめく。
「場所はここでいいのか?」
 アントンが腕組みしながらドーラにたずねる。
「ええ、間違いありませんわ」
「頼むぜ、降りてからじゃ面倒だからな」
「任せてください。兄さんたち、武器はそれだけでいいんですか?」
 カエサルは背中のリュックにいろいろ銃を詰め込んでいる。ドーラも同じだ。しかしアントンは手ぶら。背中にはパラシュートと、食い物の詰まったリュック があるきりだ。
「おうよ、俺っちの肉体さえありゃあ、警察だろうがジエータイだろうが」 
 そのとき人質になっていたフライトアテンダントが、風で飛んだ帽子を取ろうと一歩踏み出した。
 ジャキッ、カエサルが瞬間的に移動、彼女に銃をつきつける。今もっているのはMP5サブマシンガンだ。
「あー、動かないでねー。もうすぐ終わるからねー」
「あ、あ、はい……」
 ガクガクと機械的にうなずくフライトアテンダント。
 彼女の顔は真っ青だった。瞳には本物の恐怖が浮かんでいた。ただ銃を向けられているからではない。草食獣がライオンを恐れるような「生物連鎖の上位者へ の恐怖」だった。このハイジャック犯たちはついさっきまで貨物室に潜んでいたのだ。マイナス30度、地上の1割もない希薄な空気に耐えてきたのだ。人間で はなかった。
「じゃあ行くぜ」
「はーい」
「テン・サウザンド……」
 軍隊式の降下法にもとづいて掛け声を発するドーラ。
 しかしアントンとカエサルはまったく無視して、自分勝手にひょいひょいと飛び降りてゆく。
「あ、なんて無作法な……まったくもう!」
 ドーラも飛び降りた。
 次の瞬間、彼女は真っ青な空間の中にいた。
 たった今高度9000メートル。
 眼下には海と、二等辺三角形の形をした半島が見える。
 半島は半ば以上緑に覆われている。
 半島の大きさはおよそ30キロ。そのなかのある一点に、自分たちは降りなければいけない。
 大丈夫、できる。なんの不安もない。
 次に天を仰いだ。
 西の空に浮かぶ赤い太陽。そして頭上には銀の十字。たったいままで自分たちがハイジャックしていた機体。まわりには何も見えない。
 (日本が弱腰で助かった)
 ドーラは激しい風のなかでニタリと笑う。
 (旅客機ごと撃墜されたら、さすがに打つ手がなかった)
 (でも、もう大丈夫)
 (わたくしたちの戦いは、誰にも止められない)
 すでに降下速度は秒速100メートルに達していた。パラシュートを開くのはもっと高度を下げてからだ。開いてしまったら風で流される。
 下を向いたドーラの眼に、奇妙な施設が飛び込んできた。
 海沿いにある、緑に満たされた空間。
 公園のようだが公園ではない。
 頑丈そうな白い建物と、100メートルはありそうな煙突5本がある。
 すでに高度は3000メートルまで下がっている。謎の施設は眼下の大地を埋め尽くすほどに大きくなっている。
 あれこそがドーラたちの目的地・浜岡原子力発電所だ。
 600万キロワットの発電能力を持つ大型原発で、原子炉には軽く1億人を殺せるだけの放射性物質が詰まっている。
 原発施設が火を吹き、道行く人々が血反吐を吐いて死んでゆく姿を想像した。愉悦に顔面の筋肉が緩んだ。
 (くすくす……)
 
 4 

 ビル壁面のモニターが乱れた。
 携帯のCMが消え、ニュース映像に切り替わる。
 スタジオ内にいるはずなのにアナウンサーは汗だくだった。
「……臨時ニュースを申し上げます。たったいま、静岡県の浜岡原子力発電所が、武装集団に占拠されました」
 画像が切り替わる。アナウンサーが消え、「浜岡原発」というテロップとともに、「緑に包まれた、白い建物と煙突5本」の映像が出てくる。
「この浜岡原発は日本第2の規模を持つ大型原発です。本日13時半ごろ、武装集団が原発内に降下、警備員を殺害して管理等を占拠しました。武装集団は国際 便の航空機をハイジャックしたものと見られており……ただいま本テレビ局宛に画像が送られてまいりました。放送です。犯人が放送をしています。中継いたし ます!」
 画面が切り替わった。
 原発の管制室をバックに、美少年と美少女がいた。
 まず眼についたのは美少年。巻き毛の金髪で、息を呑むほどに整った容姿。澄んだ青い瞳。
 そのとなりにいるのは美少女。ウェーブのかかった金髪にエメラルドグリーンの瞳、つんと尖った鼻に真っ白い肌。こちらもかわいらしい。フランス人形と呼 んでしまうには瞳に猛々しい光が宿りすぎているが、人間離れした美しさだ。
「……こども?」
 通行人のひとりが巨大モニタを見上げてあっけに取られた。確かに二人の顔出しは幼い。15歳より上には見えないのだ。たとえ軍服を着ていても「武装集 団」「原発ジャックをやるような凶悪なテロリスト」には見えない。
 ベルタの受けた衝撃は通行人の比ではなかった。
「……! カ、カエサル……」
 思わずうめき声をもらした。彼女の眼は「金髪巻き毛の美少年」に釘付けだった。
 間違いない、彼女の弟、3体目に製作されたエインヘリヤル「カエサル」だ。
 となりの金髪美少女は知らない顔だ。4体目に作られるはずだった「ドーラ」だろうか。
 驚きに目を見張るベルタの前で、金髪美少年・カエサルは口を開く。
「はじめまして、日本の皆さん」
 流暢な日本語だ。口元に笑みを浮かべている。
「ボクは『エインヘリヤル』の3番目、カエサルです。こちらは妹のドーラ」
 金髪美少女が髪の毛を揺らしてぺこりとお辞儀。
「さてみなさん、突然だけどこの原発はボクたちが占拠しました。
 はい、これ証拠」
 カエサルがカメラのほうに手を伸ばした。
 画面の中の映像が揺れた。カメラが揺れているのだろう。
 ぐるっとカメラが回り、管制室の中が映し出される。
 血。血の海。
 作業服姿の男たちが数人倒れている。全員が全員、頭や胸からおびただしい量の血を噴いている。机も床も血だまりで真っ赤だ。カメラのこちら側まで血の臭 いが漂ってきそうだ。
 モニターの映像がカエサルに戻った。カエサルはさも嬉しそうに笑っていた。大好きなオモチャをさんざんねだってやっと買ってもらえたような、屈託のない 笑顔だった。
「はいー、わかりましたねー。みなさん死んじゃってます。具体的にはボクが殺しました。いやあ、もう、スカッとしたのなんのって。やっぱり気持ちいい ねー」
 ぺちっ。マイクに入るくらい大きな音を立てて、ドーラがカエサルのほっぺを叩いた。
「な、なにすんだよ?」
「兄さまは調子に乗りすぎ。何の話をしているのかもう分からなくなってる」
 ぼそり、という無感情な口調で叱るドーラ。
「悪かったよ……さてみなさん。ボクたち3人はこうして原発をジャックしました。あ、3人ってのはもう一人いるんですよ。アントンっていって、ボクたちの 長兄に当たるんだけど。これがもー、全身これ筋肉、筋肉の力だけで装甲車を引きちぎっちゃう。すごいねー」
「にいさま、また言わせるのですか」
「ご、ごめんよドーラ……で、要点を先に言っちゃうと、ボクたちは日本政府を脅迫します」
 にこやかな笑顔のまま、白い指を1本立てて言う。
「日本政府は6時間以内に、ぼくたちに対して降伏してください。ボクたちの支配下に入ってください。さもないとドカーン! ここにある原子炉を破壊しま す。破壊したらどうなるか、わかるよねみんな? 放射能が盛大にばらまかれるよ? ねえドーラ?」
 小さくうなずいて、ドーラが静かな口調で語りだす。
「浜岡には100万キロワット級原子炉が5基あります。すべてメルトダウンした場合、放出される放射能はチェルノブイリ事故を凌ぐ1兆キュリー。半径 200キロは居住不能、最終的には400万人がガンになります。経済的な損害は、数兆ドルに及ぶでしょう」
 まるで資料を読み上げているような淡々とした喋りだ。
「というわけで、わかったかなみんな。ボクたちに従わない限り400万人が死ぬんだ。ああ、楽しみだなあ、日本の経済は壊滅だなあ。あー、いっとくけど会 議とかやっても遅いよ、ボクたちには時間がないんだ。期限は今日の夜8時! 一分でも過ぎたらドカーン、もくもく! 東京と名古屋が壊滅ー!」
 楽しそうにはしゃいで手をパチパチ叩くカエサル。と、急に我に帰って、
「あ、邪魔をしたって無駄だから。警察も自衛隊もボクたち3人には勝てないよ。
 ちょうどいま警察の人がきたみたいだから、そのへんのこと見せてあげるよ。テレビ局の人、しっかり撮るんだよ? じゃあね、また何かあったら連絡する よー」
 明るくさわやかに笑ってカエサルはカメラに向かって手を振った。それっきり映像は消える。
 モニターの中にはスタジオが戻っていた。
「えー……」
 アナウンサーはますますこわばった表情で、
「以上のように、『エインヘリヤル』を名乗る武装集団に占拠された浜岡原発ですが、この件につきまして古泉首相は『テロには毅然とした態度で挑み、早期解 決に全力を尽くす』と述べております。
 たったいま、警官隊が浜岡現地に到着したとの情報が入りました。
 空撮映像に切り替えます」
 アナウンサーの言葉とともに画面がまた変わった。 
 空から見下ろす映像が。
 海沿いに白い大きな建物が5つ、そのすぐそばに煙突。全体が緑に覆われている。
 敷地に面した国道に、窓を金網で覆ったバスが止まっている。一機の大型へリコプターも着陸している。
 バスからは紺色制服の男たちが降りてくる。ヘリコプターからは、黒いプロテクターで身を固めた男たちが次々に降りてくる。背中に『POLICE』と書い てある。数は20人ほどか。整然と展開する。
 ベルタはうめき声をもらした。
「にげてください……殺されます」

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