『彼女に花束を』 Text by  ROM

「金岡くん、はい、これお手紙。ROMさんに渡して。」
その日も、いつものようにぴか家からすふれちゃんはやって来ました。
「ごめんね、ちょっとだけ疲れちゃった、休ませてね‥‥」
そして、いつものように、テーブルのまん中にそっと持って来た花を置くと、
ぺこり、と一度振り返っておじぎをして、ドアを出ていったのでした。

その後ろ姿をじっと見送っていた金岡は 耳を立て、鼻をくん!と鳴らしました。
それから、はじかれた様に部屋の隅に走っていって、宝箱をひっくり返し、
一番奥にあった、ロウで封印されている封筒を掴むと、
ドアを蹴破る勢いで表に飛び出していきました。
「ちょっと出掛けてくる!!」
「か、金岡?こんな時間に一人でドコ行くのよアンタ!‥‥‥
んもぅ、しょうがないなぁ。けど、いつもダラダラしてるくせして
何をあんなに慌ててたんだろ‥‥‥」
後の方はもう諦めたようにのんびり呟くと、ROMはさっき届いた手紙を手に取りました。
カサッ、と乾いた音を立てて開いた紙には、ぴかちゃんの見なれた文字で
こう記されていました。

>さびしいお知らせです。
>すふれがそろそろ寿命です。
>もしかしたら、これが最後の訪問になるかも・・・。
>いっぱい仲良くしてくれてありがとうね。

「金岡ぁ〜〜〜〜」
ベソをかきながらROMが呼んだ時には、もうずっと遠く、パーク入り口の
スタンドの花屋の前に、金岡は来ていました。
「オバちゃんっ、花おくれ!」
「はいよ、金岡くん、おや、今日は飼い主さんといっしょじゃないのかい?
で、どれにするんだい?」
赤や黄色や、色とりどりの花の向こう側から店主が笑いかけました。
「‥‥‥違ぇよ、そうじゃなくて‥‥」
握りしめてきた封筒の赤いロウの封印をビッ!と指で剥がすと、
中から出て来たぴかぴかの金貨。それを突き出して、金岡は言いました。
「特別なヤツ、あんだろ?これで売ってくれよ。」
「あんた、これ‥‥‥わかったよ。ほら、持ってお行き。落とすんじゃないよ。
しっかり、送ってやるんだね。大事なともだちなんだろ?」
金貨と引き換えに、小さな銀貨4枚と、見た事もない紫のつぼみのついた花束が
おばちゃんの大きな手から渡されました。
ペット達が持っている、けれど普段は決して使う事のない「おこずかい100pt」
その使い道を、誰に聞いたのでもないけれど、この時の金岡には分かったのでした。

すふれちゃんは、とても頭のよいウサギでした。勉強なんか嫌いで、
機械いじりばっかりやっている金岡は、ヘタな事を言うと笑われそうで、
優等生のすふれちゃんを、ちょっと近寄り難く思った事もありました。
けれど、月見の夜にほっぺに粉をつけて、手作りのにんじんだんごを持って来てくれた事や
評判のどら焼き屋に案内した時の、意外な程 無邪気に喜ぶ顔や、
この前のお祭りの時の事や、止まらないほど、大切な思い出がいっぱい、いっぱい
溢れてくるのです。
走る金岡の鼻先がちょっとツンとしたのは、でも、きっと風が冷たかったせい。

勉強は苦手だったけれど、そのぶん金岡はカンがいいのです。
誰よりも早く、ぴか家のドアまで辿りつきました。
ノックもそこそこに部屋に飛び込むと、そこにすふれの姿は見えませんでした。
「すふれーーーっ!!おい、すふれったら!!‥‥‥‥出て来いってば!‥‥
すふれーーー!!!!!」
「金岡くん!すふれちゃんは?!」
かがみちゃんでした。駆け寄って、金岡の手を取って、必死な声です。
その時、二匹がそれぞれ手にしていた、あの紫のつぼみが触れ合って、
しゃらん、と音を立てました。
そして、みるみるうちに花開き、うす青いひかりで辺りを照らし始めました。
その光が天井に届いた時、中空にぼんやりと青く、すふれちゃんの姿が映し出されました。
「すふれ‥‥‥っっ」「すふれちゃん!」
ちょこんと小首をかしげて笑う、いつものすふれちゃんでした。
けれど、その体は透き通って、萎んでいく青い光と共に、
あっという間に見えなくなってしまったのです。
光が最後のちいさな点になった時、何かがふわりと降ってきました。

先程すふれちゃんが最後に届けてくれた、それは、白いスズランの花の一房でした。

ゆっくりと目の高さまで落ちて来たところを、そっと両手で受け止めて、
金岡は泣いているかがみちゃんの右手に、つぶれないように気をつけながら置きました。
「もっともっと、いっぱいお話したかったのに‥‥女の子同士のヒミツも、
約束も、ひとりで抱えて、すふれちゃんどこに行っちゃうの?」
金岡は、まだすふれちゃんの気配の残る部屋をぐるっとひとまわりしました。
お腹のまんなかに風が吹き抜けるような感じがして、
また鼻先がツンとしてくるのは気が付かないフリで、きゅきゅっと指でこすって。
テーブルの隅に、すふれちゃんがお手紙用に使っていたペンが、きちんと揃えて置いてあります。
その中の1本、緑色のペンを、金岡は一度両の手のひらでぎゅっ、と握りしめました。
でも、まだやらなくてはいけない事が残っています。

涙で更に真っ赤な目になったかがみちゃんの背中をそっと押しながら、
満開のうす青い光の花を手に、金岡はすふれちゃんの部屋を後にしました。
青い光の筋が、ぴか家から昇っていったのを見て、テディベアのよしひこくんや、
仲間のみんながパークの丘に集まってきています。
みんな、それぞれ手に小さな花を持って。
金岡は、かがみちゃんと並んで、丘に流れる小川の水面にそっと花束を浮かべました。
それに続いて、ペットたちが次々と、川に花束を預けていきます。
月の光を受けて、ぼんやりと光る花が、どこまでも列になって流れていきます。
きっと、すふれちゃんの元に届くまで、ずっと遠くに流れていくのです。
ペットたちの、これは、静かな「花送り」の儀式でした。

どのくらいの時間、川面をみつめていたでしょうか、
誰も何も話さないので、すっかりわからなくなってしまっていました。
その時です
ぴか家の方に、金色の光が降ってくるのが、丘の上からはっきりと見えました。
「生まれたね!」「生まれたんだ!」「みんなで見に行こう!」
ペット達は、揃って丘を駆け降りて走りました。
ぴか家に着くと、部屋のまん中には、たった今生まれたばかりの
ちいさなちいさなウサギのおんなのこが、ふかふかのベッドに寝ていました。
泣き腫らしたウサギみたいな真っ赤な目の、この家の御主人ぴかちゃんが、
それでも笑いながら、ペット達に言いました。
「ペットのみんな、この子、すふれって言うの。これから仲良くしてあげてね。」
「こちらこそ、よろしく、ぴかさん、すふれちゃん!」
ペット達も泣きそうな笑顔で答えたのでした。

おわり



1999.6.1 ROM/個人で楽しむ以外の転用、複製及びHP上での使用をしないで下さいね。

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