静かな山に思う

南アルプスは、「アルプス」という感じがわかない。確か「赤石山脈」と教わったと記憶しているし、住んでいる所から、比較的近くにある山域だからかもしれない。いや、キスリングに地下足袋で、南部の山を登っているからかもしれない。

山を登る人は、より困難を、爽快感を、未知を、静けさを、それぞれに求めて山に行っていると思う。南アルプス(特に南部)には、「静けさ」がある。裏をかえせば、人気がない山域だから、静かなのだろう。人はいないし、主稜線の山々を変わった位置から写真を撮りたいから、こんな山に、このごろ登っている。
人気のない山は必ずと言ってよいほど、展望が悪く、少しの樹林の切れ目から、主稜線を望む程度である。ひたむきに登り、樹間からの主稜線の山の位置、角度のすばらしさ、それは、このように見えるのか、と今までのイメージをがらりと変えさせてくれる。

最近は椹島近くから、生木割に出るルートを登ったが、中腹にある幕舎跡近くの湧き水、「つなうちだいら」の広い平坦地、樹間から見える、荒川三山、赤石岳、聖岳の眺めなど、南アルプス南部らしさを充分味わった。
こんなルートにも人がたくさん入るようになれば、適当に場所の名前をつけたり、外国語の庭園になったりしたのでは、内心がっかりしてしまう。昔からある、その場所を的確に表わしている、元来の名称を残しておきたい山域である。

ネパール・ヒマラヤの、登山に参加した時の、リエゾン・オフィサーがアメリカでの軍事訓練を終えて帰国途上、日本に立ち寄った。当然、山の話が出てきて、どんな山に登っているのか?になった。「南アルプス」と答えた。ヨーロッパの本場の「アルプス」と思ったらしかったので、日本の「アルプス」ですと言ったら、
彼はけげんな顔をして、「アルプス」はヨーロッパにある、固有の名称で、日本には無いと、諭された事があった。
(山と渓谷593号 1985年8月号に加筆)

つなうちだいら:大井川上流の椹島から徒歩で30分程上流の左岸、(この辺りを”いたどり”と言う)板取沢の上部にある平坦地。



冬のつなうちだいら-a

冬のつなうちだいら-b

初秋のつなうちだいら

幕舎跡上部の湧き水


幕舎跡

いたどり沢のなめ滝

いたどり沢の滝 (仮称:リュウキンカの滝)

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