第2話 もう2度と行きたくないラーメン屋の話

 

 もう3〜4年前の話。「Hラーメン」は通勤路の途中にあるが、入ったことが無くいつか寄ってみようと思っていた店の一つだった。当時、残業が多く夕食は外食で済ますことが多かった僕は、ある日会社の同僚二人(BGメンバーでもあるKとI)と残業帰りに寄ってみることにした。店内は狭くて薄汚れており(その方が美味いんじゃないかと思わせる雰囲気もあるが)、5〜6人がけのカウンターとテーブルが2〜3と、まあいたって平凡なつくりで、カウンターの中には店のオヤジが座っていた。僕達のほかには客は居なかったが、カウンターには前の客の食器が片付けられずに残っていた。それを見た時「やばい、やる気が無い」と瞬間的に思いながら、僕達3人はテーブル席に腰を下ろした。

 カウンター越しの壁に張ってあるメニューを見ながら、結構レパートリーの多さに感心した。その中の一つに初めて見るメニューがあった。
「なに?!お茶漬けラーメン?」
 いったいお茶漬けラーメンって何だ?ラーメンつゆがお茶か?鶏がらをお茶で煮込んだダシを使っているのか?ラーメンとお茶漬けのセットメニューか?ラーメンの中にご飯がお茶漬けで入っているのか?まさか、チキンラーメンにお茶をかけたものなのか?僕達はそんな話をしながら店のオヤジに聞いた。
同僚「お茶漬けラーメンってどんなの?」
オヤジ「そんなもの頼むのやめな。うまくないから」
3人「・・・(だったらメニューに書くなよ)」
 結局、数多いメニューの中からしょうゆラーメンや餃子など当り障りの無いものを注文したのであった。

 注文を受けたあとオヤジは黙って作り始めたが、しばらくすると店の電話が鳴ってなにやら大声で怒鳴り始めた。どうやら中高生くらいの息子と親子喧嘩でもしているようで、「バカヤロー」だとか「いい加減にしろ」だとか罵声が店内中にひびきわたっていた。僕は心の中でラーメンの出来具合を心配しながら、かなりブルーな気分になっていたが、同僚たちも同じ気持ちであっただろう。

 やがて「おまちどうさま」とやってきたラーメンは、まあ一見普通のラーメンでちょっと安心した。ところが、さあ食おう、と箸を取ったとき、
オヤジ「ちょっと待ってくれ、入れ忘れた」
こう言って、同僚のラーメンを奥へ持っていってしまい、コーンを足してまた持ってきた。あまりに客に対する(いや、店の仕事に対する)緊張感の無さに「おいおい。」ちなみに、以前北街道沿いの「Kラーメン」でも同じことをされたが、この店はつぶれて今は無い。

 さらに餃子を食べようと、箸を伸ばすと、たれ皿に蚊のような小さな虫が付いているのに気が付いた。ラーメン屋で小さな虫ぐらいしょうがないと思いながら替わりの皿をもらい、食べようとすると、また同じ虫が付いていた。「おかしいなあ、替えてもらった皿はきれいだったのに。」まさか!なんと餃子のたれの入ったビンの中に小さな虫が何匹も入っているではないか!まさに、「虫の餃子たれ漬け」状態。あきれて、怒る気力も無い僕達は早々に店から出たのであった。

 帰宅途中の3人の心は同じだった。「もう2度とこんな店に入るか!」ちなみに、このラーメン屋は某新聞社が出しているラーメン屋の紹介本に掲載されていた。

(2000/2/19)