第7話 点滴夫婦

 

 昨年の冬から今年の春にかけて我が家では常に「風邪」に悩まされた。家族の誰かが風邪をひき、治った頃に次の誰かが風邪をひき、といったように僕と妻と子供の「風邪トライアングルループ」が続いたのであった。特にゴールデンウイークは、前半僕が下痢を伴った風邪をひき、中盤は子供が39度の熱を出し、後半は妻が風邪でダウンするという、近年まれに見る最悪の長期休みとなった。おまけにゴールデンウイーク明けは、また子供が熱と中耳炎で病院通いを続けるというありさま・・・。

 しかし、昨年の冬から今年の春にかけて流行った「下痢風邪」には参った。日曜の朝4時ぐらいから妻が下痢になり、「昨日また瓶詰めナメタケでも食っただろう。」とからかっていたら(以前、妻は冷蔵庫の隅にあった瓶詰めナメタケを食べて、ものすごい下痢(1時間ウェーブ)になったことがあった。ちなみに僕もビールのつまみに冷凍庫にポツンと1つ残っていた冷凍コロッケを食べて嘔吐したことがあったが、これは関係ない)、朝10時ぐらいから僕も下痢になり、39度以上の熱を出してダウン。午後になって症状がさらに悪化したので緊急で診てもらおうと近所の医者に電話したら留守。二人とも高熱でフラフラなので車も運転できず、タクシーで家から離れた日曜当番医へ出かけた。

 当番医は「風邪の菌がお腹に入ったようですね」と言い、何種類かの薬をくれた。「家に帰ったらすぐ飲んで下さい」と言われたけれど、嘔吐が激しくて薬すらも飲めず(水も飲めず)、家に帰った後はただ二人して下痢と嘔吐と高熱にうなされながらただ寝てるのみ・・・。夜の7時ぐらいに先にSOSを送った近所の医者から「注射でもすればだいぶ楽になると思うから、もし大変なようだったら来なさい」と電話がかかってきた。

 わらをもすがるような気持ちで医者に出かけると、「あ、豆腐で火傷した君か」と言って迎えてくれた(以前、湯豆腐を飲み込む際に喉を火傷して診てもらった事があった。以来この医者は「僕=豆腐で火傷した人」とインプットしており、風邪等で診てもらう度にこう言うのであった。この間抜けな話はいつか書くこととする)。

 「今流行りの下痢嘔吐症ですね。」流行には疎い方なのに、こんなことで流行にのってしまうとは・・・。「注射をすれば熱が下がり、点滴をすれば嘔吐は治まると思います。下痢は薬を飲めば徐々に良くなるでしょう。どうします?」どうするもこうするもない、すかさず「フルコースでお願いします。

 日曜の夜、薄暗い診察室のベットで夫婦並んで点滴をうつ姿は、なかなか情けないものがあった。点滴は30分程度かかったが、その間点滴初体験の僕は「ビールを飲んだときみたいにすぐトイレに行きたくなるのかな、トイレに行ったら折角入ってきた薬が出て行ってしまうから我慢した方がいいのかな」とか、「今、僕と妻と医者の3人ともが気を失ったら、点滴の水が終わって空気が血管に入って死ぬのかな」とか、くだらないことを考えていた。

 家に帰って1時間もすると熱は下がり、嘔吐は治まって、水分補給は出来るようになった。「おー、さすが点滴は効くぜ」点滴様様を実感し、次の日は朝から仕事に出かけたのであった。この後、ゴールデンウイークの下痢風邪のときもこの医者に点滴をうってもらい、その効き目に再び点滴様を実感したのであった。

(2001/6/30)