秋園美緒 Mio Akisono

愛していたから、この子も愛せるのよ。
ジョセフィン
『ヴインターガルテン』より
  

 


秋園美緒
ミニプロフィール
初舞台 1993(H5)年『グランドホテル』『BROADWAY BOYS』
星組に組配属
2003(H15)年3月『ガラスの風景』『バビロン』で退団
愛称 そんちゃん

 

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初舞台から見守っているせいでしょうか。その活躍を、まるで自分のことの様に思ってきました。
見送らなければならない今、改めて振り返ってみると、歌姫としての印象よりも、演技者としての彼女が鮮明に思い出されます。

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初舞台『グランドホテル/BROADWAY BOYS』の時は、ゴージャス美人系のみどりちゃん(大鳥)に目が行ってしまっていて、そんちゃんには気がつけませんでした。ごめんね〜 だいぶ後に出演したラジオ(ビバ!タカラジェンヌ)で、「初舞台はずっとカゲコーラスボックスにいて、すごく楽しかった。 終演後も帰り道、同期とずっとグランドホテルの歌を歌ってました。誰かか歌い出すと、止まらなくって」 みたいなことを話していたのが、印象に残っています。

星組に配属前の組まわりの時、月組公演『花扇抄』に出てました。 それもやはりカゲコーラスばかりでしたが、私の初そんちゃんは、このカゲコなのです。 ラストの方で娘役さんのカゲデュエットがあり、歌い出しはタレちゃん(星野)でした。 それに重なったそんちゃんの歌声がとても美しくて、後からプログラムで、あれは誰?と確認してしまいました。 そのタレちゃんとの美しいデュエットのおかげで、あそこが一番好きなシーンになりました。

あげればきりがないけれど、やはりそんちゃんは歌の人。 いろんなシーンで、いろんな歌を歌ってました。 あえて順位をつけるなら、エトワールのそんちゃんが一番好き、かな。 舞台〜客席の心をぎゅっと掴んでしまう、堂々とした歌いっぷり。 それに比例した、はりのある、透き通る歌声。 『魅惑U』が、初エトワールでしたが、初めてとは思えない、キャリアさえも感じられました。 『グレート・センチュリー』『夢は世界を翔けめぐる』等などの大階段をかざってきました。 残念ながら、さよなら公演『バビロン』では、エトワールではありませんでしたが、 ラスト、銀橋で4人の男役さんを従えて、白いドレスでしっとりと歌い、パレードに続く演出は、 大階段のエトワールよりも、もっと客席近くで歌っている、 そして、そんちゃんの歌声で、再び緞帳が上がる、という演出に、 これはひょっとして、並みのエトワールをかざるよりも、すごい演出なんではないか、と、 ファンの盲目解釈をしております(笑)。

やはり歌の話が多くなってしまいますが、カゲソロでも、そんちゃんの歌声はよくわかりました。 『WSS』のサムウェアーは、舞台のトップコンビが、つかの間の安らぎに包まれていて、とても美しいシーンになりました。 男役さんとのデュエットも良かったのですが(あえて書きたい、『夢シェイクスピア』のイマジネーションで、ぶんちゃん(絵麻緒)とほっぺくっつけるの、大好きでした〜) なぜか、私の心に残っているのは、娘役さんとのデュエット。 『パピロン』で、シビさん(矢代)と歌った魔都のシーンや、 『ヘミングウェイレビュー』のカフェのシーンで、にゃんちゃん(羽純)と歌ったのも大好きです。 それはやっぱり、私の初そんちゃんが、上記の様に、娘役さんとのデュエットだったから、なのでしょうか・・・

ずらずらと、歌の話ばかりあげておきながら、しかし、私の心に残るのは、 演技者としての、そんちゃんの素晴らしい姿。 初ヒロイン『国境のない地図』新人公演では、一生懸命さと、主役のワタルさん(湖月)に 寄り添いながらも、ちゃんと自立している姿が印象的でした。 残念ながら、私が観る事の出来た新公のヒロインは、これ一作だけ。

バウでは3作単独ヒロイン。『Elegy哀歌』のイゾルデ、『夢シェイクスピア』のミリー、『花吹雪・恋吹雪』の初音とモニカ。 全く違うタイプの役に恵まれて、しかも、どれも甲乙つけがたい。 ミリーは少し奇妙で(失礼…)可愛らしかったし、初音はまっすぐで美しく、モニカは妖艶で純粋。 でも、一番驚いたのは、イゾルデ。 なんと表現したらいいのか迷いますが、誇り高い姫君で、しかし恋人と向き合う時にはやわらかさを増し・・・ 舞台に咲く、大輪の花・ヒロインって、こういうことをいうのではないかなと、再認識させられました。

イゾルデで、度肝をぬかれたわけですが、実はヒロインとして、というより、 一人の役者として、イゾルデを演じた姿に驚いたのです。 だから、すごくよかったなと思える役をずらずらあげていくと、しっかりとした女性の役が多くなります。 『ディーン』のエリザベス・テーラー。ジミーから姉の様に慕われていて、余裕たっぷり。 登場シーンは少なかったけれど、目を奪われました。 『ヴィンターガルテン』のジョセフィン・ベーカー。 哀しい時代の、すべてを包み込むような母性に、涙がとまりませんでした。 そしてラストステージ『ガラスの風景』のリーザ・クレマン。 やっぱりそんちゃんは、こういう役が似合うんだなぁ、と、自分の審美眼が嬉しかったりもして…。 捕らえ方によって、リーザは悪女なのですが、私には、自分の総てで、懸命に生きた女性にみえました。 もしかしたら、別の事で夫婦二人が、互いの大切さを分かりあえるチャンスがあったかもしれない… そんちゃんの描きあげたリーザ像は、私にそんな望みを抱かせて、幕を降ろしました。

めぐり合わせって、必ずあると思うのです。 どんなに気になった生徒さんでも、例えば、一番のご贔屓さんの組と、公演が行き違ったりすれば、 観れる作品や、回数も減ってしまう。 そう考えると、そんちゃんをこれだけ観て来れたのは、とてもめぐり合わせがよかったんだなって。 私のご贔屓さんとは同じ組だったし、相手役もしたし、新公も何度も観れたし(ヒロインの時が観れてないのも、それもまためぐり合わせね)。 ずっと前から、いつトップ娘役として咲いても、申し分ない人だったのに、そうではない、別の花を心に残し、去ってしまう。

私は、中心にいるのではないそんちゃんの役が好きでした。 トップにならなかったからこそ、観せてくれた役が好きでした。 でも、脇に居たそんちゃんが好きだったのではありません。 あなたが居た、演じた役は、どの役も、わたしにとってはヒロイン。 何よりも、トップ娘役さんだったのです。

2003.3

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