星組大劇場
2001年1月
新春王朝ロマン 花の業平−忍の乱れ−
作 柴田侑宏
演出・振付 尾上菊之丞
グランド・ショー 夢は世界を翔けめぐる
THE WORLD HERITAGE 2001
作・演出 草野旦
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花の業平‐忍の乱れ‐ |
第二場 席のお話‐かぶりつきという名の‐
今回この公演自体を語る前に、私の今世紀の“運”を、使い果たしてしまったかのような席の話をします。ずばり、1階1列目ど真ん中ブロックやや上手寄り、でした。(昇天…)ずばり、かぶりつきといわれる席です。
なぜ、そんな席のチケットが私の手元にあり、新春からそんな席に座っていたか、といいますと。出所はナニを隠そう“新・宝塚友の会”であります。いろいろ言われておりますこの“新・友会”ですが、ぶみと友人M子は、見事にその恩恵に与りまして。M子が当てたのが1列目。ぶみの当てたのが5列目(ただし20番台)。
が、昇天モードのM子に災難が降りかかり、M子は“お仕事”という名の檻にとらえられ、ぶみ&Y嬢の二人で、新春ムラ入りをしたのでした。(M子よ、安らかに…)
さて、1列目というお席には、過去何度か座らせて頂いたことがありますが、センターブロックは2度目。しかも大劇場は初めてで、最初はなんとも居心地が悪く、5分前になり、会場が暗くなりつつある中で、まだ私は「あ゛ーっ やっぱ帰るぅぅぅ」と腰を浮かせておりました。
でも座り続けてよかったぁ!(当たり前…)帰宅後、Y嬢が「あの(ぶんちゃんの)笑顔に7500円は、安すぎるもんね」とメールをくれましたが、ほんと、そんな感じなんです。新東宝劇場にはSS席という1万え〜んの席が出来ましたが、やや「納得!」と思えるようになりました。
前の方の席では、誰々がかぶって誰々が見えない、というとても贅沢な心配事がついてまわり、今回もそれを心配していましたが、なんたって真ん中。そんなことは全然ありませんでした。困ったことを強いて挙げるとすれば、花道〜銀橋という動きを、上手下手共でされると、どちらを観たらいいか困ること。
実際、初めて業平と高子が会ったとき、最後に会ったときの2回は、銀橋中央、つまり私の目の前でくっついてしまうまで、首を右へ左へ激しく動かしている私がいました。そしてラスト、別れるところも。悩みに悩んだ末、ノルさんを捨て、ユリちゃんを観ておりました(ぶみ・娘役ファン)。ユリちゃんの方が先に花道に入る演出で良かった・・・
そうでなければ、ラストのノルさんの引っ込みが観れないところだった・・・
第三場 作品について語ったりする
柴田先生を信じて良かった。と文句なし思えました。感謝感謝です。まず、あの星組にこの作品を当ててくれてありがとうございました。
日本物でもとてもテンポがあって、飽きる事なくラストまで気持ちを持っていけました。人間関係など、わかりにくいところも、序詞役が芝居の雰囲気の中で語り、普通の台詞の中に説明文句がだらだら入り、流れを止めてしまう、なんて事はありませんでした。
役にも無駄がなく、星組&専科を隅から隅まで観せてもらえました。役不足〜という人がいると、それだけで満足感が失せてしまうので。(特にご贔屓の組では…ね)
第四場 当代一の美男子 在原業平 ‐稔幸‐
この人をおいて、業平を演じ得る人があろうか、と、客席で大見栄をはりたくなるほど、ノルさんにあっていました。
物語中、業平がもてるのは、業平自身が色好みだからなのではなく、周りの女人が彼を放っておかないから、という話が出てきますが、ほんと、その通り。客席で惚れました。
気がつくと、業平に思いを寄せてしまっている自分に気がつくのです。業平さんは高子さんしか見ていないのに。高子と手を握りあったりしていると、思わず嫉妬してしまいました。(私も梅若さんを目で追い回してるのに、おかしいなぁ)
のるさん、といえば“いっちゃってる芝居”が売りですが、トップになってからはそれが当たり前にみえていました。でもこのラストステージ(いや、ラストじゃないけどさ)を見て“いっちゃう”ためにどれほどのパワーを費やしているのかが、よくわかり、本当に今更ながら、ノルさん芝居の上等さに感服したのです。
“憂いを含んで初々しく、眼差しにほのかな夢と陰りを宿し〜”という形容をつけたくなる人。(by『うたかたの恋』)憂いを含んだ、下まぶたが本当に素敵。そして微妙なかかり具合のしけ。ツボでした。
第五場 情熱の姫君 藤原高子 ‐星奈優里‐
「この時期に柴田先生で業平をやるとお聞きして、退団を決意しました」と、BSお茶の間初芝居のインタビューで語っていたユリちゃん。そう、あなたにとってもこれがラストステージ(だから、違うってば)。
ほとばしる情熱が、目を引きました。ただ気が強いわがまま娘、というだけでなく、自分というものをしっかり持ち、自分は自分であり続けたい、と願う姿。その我が儘も柵も総て、藤原の名の上に成り立ってるわけですが、やはり周りの人たちが、何とかしてあげたい、と思ってしまうのです。
物語の進む中での高子の成長ぶりは、目を見張るものがあり、それを演じるユリちゃんの役者としての成長にだぶり、目頭が・・・うるうる。舞い姿や芝居はもちろんのこと、今回目を見張ったのが、歌。曲の音域がユリちゃんに合っていて、無理なく感情移入して歌えていたのに感動しました。
第六場 強力!専科軍団
お正月公演だから、とっても豪華な顔ぶれで嬉しいなぁ!、と、素直に喜べる自分ならいいのに。とも思うのですが、どうしてもひねくれ者の私には、新東宝こけら落としに見劣りしないように、の、客引き要員に思えてしまうのです。でも実際問題、舞台は華やかでしたよ。ナニ組か分からなかったけど。
藤原の権力体現者藤原基経 ‐香寿たつき‐ 雪組育ちのタータン(香寿)が、日本物で登場。前回に続いての悪役。(この頃大劇場へ行く度、タータンが出ていて嬉しい。)悪役といっても、基経自身は自分は悪い人だ、とは思っていず、彼の振るまい総てが、そういう時代だから、で成り立っている。
それが例え人の道に外れていても、基経にとっては、そういう時代だから。その自信に満ちた姿が、また魅力的にもみえてしまう。でも、あくまでも、主役の業平と高子を喰ってしまわない余裕が、タータンの恐るべき力量なのです。
今は市の人梅若 ‐絵麻緒ゆう‐ 元貴族だけあって、民衆達の中にいても、キラリと光る気品ある姿が目立ち、そして人々にも頼りにされている、とても魅力的な人物でした。残念ながら2番手役ではないけれど、のる&ぶんコンビのラストには、あの関係がとても好ましくて良かったのでは。
第8場B業平の館のシーンは絶品で、怒り、嘆き、頭を下げ、高子への愛を走り抜けようとする業平を、総て受け止める、梅若の大きさ。「おまえは何者なのか」という業平の問に、「潰された家にゆかりの者で、そして復讐からは何も生まれないと悟った」と静かに語る。その一言に、梅若という人の人生がみえました。
ぶんちゃん(絵麻緒)の公達姿も見たかったなぁ、と思ったラスト、業平の替え玉で、梅若さんが公達姿で登場!あぁ、柴田先生ありがとう。ぶんちゃんの公達姿。しかも業平の、のるさん、の替え玉・・・(うるうる。)本舞台、幕の閉まる直前に、それが業平でないと見破られた後、タータン基経に、軽く会釈して下手へ下がるぶんちゃんの、その“してやったり!”という気持ちを隠しての微妙な表情。素敵ですぅぅぅぅ。
業平のよき友人安倍清行 ‐初風緑‐ 業平の人柄に惚れて、慕っている友人の一人で、ガイチさん(初風)の持つ本当の優しさの様なものが、清行の人柄にそのまま現れていました。ガイチさんの日本物のお芝居って、いつ以来?と、思い出せないほどですが、さすが、身のこなしも美しく、目を引きました。
藤原の姓を持たない彼も、出世・権力に縛られず、むしろ、それでよしとして、自分らしい人生を送っているという、ある意味、羨ましい生き方にみえました。
第七場 まだまだ続く豪華キャスト 伴大納言‐鈴鹿照‐藤原権力の間を、するする〜と通り抜けているおじさまで、この時代はこうやって、殿上人は生きていたのね。と、参考に(?)なりました。ラストの引っ込みの時、暴れながら、物を投げつける小者さも合わせて… 藤原良房‐汝鳥伶‐ああ、またユウちゃんさん(汝鳥)の悪い人。でも、この方の悪役は、観ていて気持ちがすっきりします。上手な人は、素晴らしいと思いますね。 藤原国経‐夢輝のあ‐その息子ですが、いいとこのぼんぼんぶりが、かわいくもあり、憎らしくもあり。ばーんと、芝居が前に出てくるようになって、頼もしいです。 藤原良相‐英真なおき‐頂点は一つ、の宮中で、兄より先にそこにたどり着こうとしたばかりに、足下をすくわれる。決して、気の弱い人ではなく、いい人過ぎるわけでもないけれど、という、微妙な引き具合は、じゅんこさん(英真)らしくて好きです。 藤原時行‐安蘭けい‐その息子、でも、従弟のねったん(夢輝)とは正反対の人で、藤原の人であるために、逆に業平の生き様に憧れている。がむしゃらに何かをしているのではないけど、炭火の様に、絶えずひっそり燃えている、という人柄。おっとりした風体の公達姿が、本当によく似合っていました。さすが雪組育ち!と、瞳子ちゃん(安蘭)を手放しで褒めちぎりたくなる私は、ただの雪組ファンです。 多美子‐秋園美緒‐少ーし、役不足?の気もするけれど、入内のシーンで伯父の太政大臣に嫌みったらしいお祝いを頂いてるときの、おびえた表情に、クギヅケになりました。少ない登場でも、目を引く芝居はさすが。 順子‐朋舞花‐高子の叔母で、藤原の姫として、同じ道を歩かされた人。先代の帝の女御(中宮?)としての威厳や気品と、叔母としての高子への愛情とが、懐の大きな人物像ににじみ出ていました。 吉野‐万里柚美‐高子の乳母で、姫の喜びも哀しみも、総てが自分のもの。ただ、姫を見守り、じっと座っている姿は忠誠心を越えた、愛でした。ちよさん(朋)に対して、ゆずみさんは、こういう役が付くことが多いけど、やっぱりお似合いだし、ゆずみさんならでわの役作りに、毎度感心させられます。 恬子‐琴まりえ‐登場シーンに効果音がついていて「おぉ!」と思いましたが、物語中、思ったほど重要な人物ではないような…?ただ、内裏で高子と話すシーンは、高子にとっては重要なシーンなので。この物語、この役では、ろうろうとした台詞回しがよくあってました。 春景‐朝澄けい‐・秋宗‐真飛聖‐業平の家来で、主君を誇りに思い、心から慕っているという気持ちがこもっていました。二人がセットで使われるのではなく、それぞれに見せ場があり、二人ともそれを生かして、いい芝居を観せてくれました。 序詞役‐毬丘智美・鳴海じゅん‐二人とも組替え組で大劇場は初登場。歌の上手な二人だから、台詞もよく通り、場面の中で自然に解説、が、物語のわかりやすさを生み出していました。 しび‐にしき愛‐とね‐陽色萌‐常陸‐久城彬‐江口‐高央りお‐町の人々で、貴族の人々との対比がうまく出ていました。暮らしは安定していなくても、好きな人と、気の合う仲間と楽しく一緒に過ごせる幸せは、官位や家柄に振り回される宮中の人には、絶対に掴めないんだなぁと思えました。役者揃いで、アドリブも軽快。でも、それがはちゃめちゃでないから、宮中のシーンと全く別芝居にならず、流れが感じられました。 賊の頭‐大洋あゆ夢‐大劇場ラストの大ちゃん(大洋)。通し役ではなかったけれど、ソロ歌もあって、都の大路のシーンをかっさらっていきました。
第八場 娘役えりすぐり‐だらだらゆきます‐ 尚侍‐しのぶ紫‐と女官‐朝峰ひかり・原美笛・彩愛ひかる・毬乃ゆい・高宮千夏‐のうわさ話のシーンは、文句なしかわいい! 若葉‐映美くらら‐かよこちゃん(朝澄)とのラブラブシーンも「かわいい!」と、声をあげそうになりましたし、高子の侍女として、ちんまり座ってる姿も、可愛い過ぎで目がいってしまいます。 女官(歌い手)・伊勢の巫女‐花城アリア‐どのシーンも下級生とは思えない貫禄。 女官(歌い手)‐千琴ひめか‐待ってました、あなたの歌声。ほんの一節だけど、ラストに聞けてよかった。
第九場 このシーンが好きなのよ
私が、初めて星組を観た『紫禁城の落日』からずっと、ノルさんとぶんちゃんは、いつも一緒でした。誰がやってきても、誰がいなくなっても、ずっと一緒で、それが当たり前だと思っていました。特にノルさんがトップになってからは、間に誰もいないので、このトップさんにこの二番手でした。
なのに、ぶんちゃんは専科行き・・・そして星組公演なのに、専科としての出演。しかも二人の間には、タータンが・・・つまりぶんちゃんは三番手。るるるー、と泣きたかったけど、いいの。それは。今回の二人の関係は、何番手とか、そんなことは考えなくていい立場だったから。
そんなわけで、前置きが長いですが、ノルぶんコンビ、見納めにふさわしい、第8場 業平の館という見せ場は、客席で、手に汗にぎり、泣きが入るほど大好きです。上段、ぶんちゃんの梅若さんの大きさについて、べた誉めしていますが、その梅若に体当たりするノル業平。二人の魂のぶつかり合いに、
周りの人間・清行達は、ただ立ちつくすだけ。あの業平を受け止められるのは、梅若しかいないのです。それは、演じる二人の信頼関係によって裏打ちされ、リアリティを生み、ぶみは客席で泣くのです。
第十場 助演賞に輝くのは これを書いていて、自分でも意外に思うのですが、今回、心に残った役者、というと、高子の叔母・順子を演じたちよさん(朋)なのです。 当たり前のことですが、私は藤原の姫ではないので、順子や高子の様に、意に染まぬ結婚に逆らうことが出来ない、という立場になったことはありませんが、 順子の人生に、ものすごく共感してしまったのです。本当は許される事ではないけれど、高子の精一杯の愛を、貫かせてあげたい、とする順子の思いが、苦しいほど伝わってきました。 ふと思ったのが、雪組の『バッカスと呼ばれた男』のアンヌ王妃。シャルロッテ姫に「その方の胸に飛び込んで行きなさい」と言うアンヌ。自分がなし得なかった思いを、シャルロッテに果たしてほしいと、心から願う。 アンヌと順子がダブって見えたからでしょうか。結局、高子はシャルロッテ姫のようにはいかないけれど、人払いをさせ、自分もその場から立ち去る姿に、順子の“人生”というものが見え、主役二人が、ひしと抱き合っているというのに、 ちよさんが袖に入ってしまうまで、目が離せなかったのです。
第十一場 そしてリピート とてもいい作品だし、サヨナラだし(だから、違うんだってばぁ)、普通なら「うわぁ〜もう一度観たい〜」と、いつもの私なら叫ぶところですが、今回はこの上なく理想の観劇が出来ましたので、もう、あの席意外での観劇は、考えたくもないのです。 でも、質のよい作品は、公演中もどんどん成長していく物。この作品にかける、星組生の意気込みは、ものすごい物だろうと、公演を観ていて思いました。どんどん成長する舞台。楽日近くには、私の観た、極上!の物よりも、もっともっと上が観られることと思うのです。
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