Hitomi Tsukikage STAGE HISTORY |
宝塚ミュージカルロマン バッカスと呼ばれた男
作・演出/谷正純 |
1999年11月12日〜12月20日/宝塚大劇場 2000年2月11日〜3月19日/1000days劇場 2000年4月14日〜5月7日/全国ツアー |
ぐんちゃんの役/アンヌ・ドートリッシュ |
ぐんちゃんの今までの歴史の中で、一番高貴な身分・フランス王妃の役でした。王妃といえば、マリー王妃(『カサノヴァ・夢のかたみ』)を演じてますが、王妃としてはお飾りでした。新人公演のポンパドゥール公爵夫人(同じく『カサノヴァ〜』)は、政治に関与していても「平民出の女」と蔑まれていたし、オーストリア皇后エリザベートは、自分の人生を生きていた。 今回の、フランス国王ルイ13世妃アンヌ・ドートリッシュは、わが子幼王14世の摂政として、政治を司っている。ただ、身分が高いだけではなく、国を動かしているわけで、威厳も必要とされました。登場は下手花道から、たくさんの従者を従えて。登場の音楽に合わせて、侍従(未来)が王妃を称える歌を歌います。宮殿で貴族達がかしづく中、王座に着くアンヌ。赤のベルベットのドレスに、黒いベール。その下の黒い髪はスペインの血を思い出させ、ドレスに映えます。 「皆のもの」という第一声は、初日開いてばかりは、すごく力んでいましたが、日が経つに連れ、また東京では、とてもやわらかく、上品な物言いになりました。 バッカスの扮装をしたシャンソニエが、戦勝の祝いの席にやってきて、水を差すような歌を歌います。他の貴族は怒ったりおびえたりしますが、王妃のぐんちゃんだけは、壇上からひたすらにそのシャンソニエを見つめているのです。 その、轟さん演じるシャンソニエこそ、アンヌが愛した人、ジュリアン・グランジョルジュ伯爵なのです。仮面を付けてはいても、アンヌはその声、ただ一言でジュリアンと分かります。 その瞬間の「信じられない」という表情。そして、ジュリアンが近衛兵たちと剣を合わせている混乱の時も、ただひたすら見つめる目。剣を突きつけられた時の、すがる様な表情。 アンヌのぐんちゃんはジュリアンにクギヅケですが、客席の私は、ぐんちゃんの表情にクギヅケでした。王妃としての威厳を保ちながらも、ジュリアンと二人で向き合い、ジュリアンに魂をぶつけてしまう。その兼ね合いもとても微妙な演技で、引き付けられました。
2場面目。ジュリアンが、アルザスの人質・シャルロッテ姫(貴咲)を王宮から連れ出すシーン。姫を見張っていた王妃とは、中庭ではちあわせをする形になりました。このシーンは、光るサテンの長袖のドレス、色はラベンダーパープルで、同色のベール。公式の面前に出る衣裳と違い、やわらかい色合いでした。 従者との恋に苦しむシャルロッテに、自分の身の上を重ねて語るアンヌ。自分は幼すぎて、意に染まぬ事すら気づかずフランスへやって来たけれど、あなたの年なら、私はどうしたか… 切々と気持ちを語るシャルロッテを、あたたかい眼差しで見つめ、「そなたの心は美しい」と、自信を持たせる。 まるで、自分自身を励ますように。その後、姫に聞かせたアンヌ自身の物語は、紛れもなく、“そのお方”、ジュリアンに聞かせるものでした。 ぐんちゃんの、自分の気持ちを吐き出す演技は、やはり絶品です。誰もがきっと、シャルロッテの気持ちになって聞いていたことでしょう。幕切れの、「ジュリアン・・・」という切ない、押し殺した叫びは、胸に突き刺さりました。
3場面目。言い争いをする、マザラン(汐風)とオルレアン侯(飛鳥)。そのなかに割ってはいるアンヌ。「双方とも下がりなさい」という台詞は、迫力に満ちて、とてもパワーが必要だったと思います。その後、マザランと二人きりになると、肩の力もぬけました。 マザランに対して、少々呆れたように、憎まれて何が楽しいのか、と問うと、マザランは全て王妃様の為に、と答える。いわば、マザランに告白されてしまったようなシーン。 それに対しては少しうろたえるけれど、王妃の威厳は忘れない。その愛も受け止め、感謝するのです。それから後の、さらりと流したような会話へのつながりは、芝居上手なぐんちゃんならでは。 ここでやっと、ジュリアンの意図が見えたのでしょう。戦争を終わらせたのは、酒の神・バッカス、と、楽しく笑いながら退場。 このシーンのドレスは、水色の、タフタのようなハリのあるドレス。衿と袖のカフスの白が、鮮やかな水色とともに、とても映えました。 髪型も、最初は少し垂らした感じでしたが、いつの頃からか、大きく結い上げたスタイルに。どちらの髪型も、素敵でした。
そしてラストシーン。重厚感のある、紺色のドレスで、息子の幼王(山科)に従って、王宮の広間へ登場。守るべき息子と、一緒に舞台にいるせいか、最初のシーンとはまた違った威厳が感じられます。 “女としてではなく、母として生きる”。ジュリアンが定めてくれた、新しい人生の目標。一人になると、愛しいその人に思いを馳せる。「ジュリアン、これでよいのですね。」 そして思いがけず、ジュリアンとの再会。気持ちは揺れるけれども、でも、自分の生きるところはここだ、と決めたアンヌは、縋りもせず、弱音も吐かず、ただ、ジュリアンと対面する。 この愛は、時の流れにも消えることなく、永遠なのが、アンヌにも分かるのでしょう。 雪が舞ってきた時の、ぐんちゃんのみせる、一瞬の表情。懐かしく、そして永遠の思い出になる雪。少女のような、輝く笑顔で雪を手のひらに取る。 だからこそ、その後の別れが切なく、悲しく、やるせないのでしょう。 人目を忍んで、思い出の雪の中、抱き合う二人。ホリソンド奥で、仰け反るぐんちゃんを抱きしめるイシちゃん。その美しい姿、万感の思いが、劇場中に溢れ、客席は号泣。 きっと二人には、永久の別れになるのでしょう。銀橋を一人行くジュリアン、見つめるアンヌ。どちらを観ても、溢れる涙を止めることは出来ませんでした。ぐんちゃんの頬にも、毎回涙がこぼれていました。
さて、この作品。ぐんちゃんの登場シーンは、たったの4場面。4着とも新調のドレスでうれしいなぁ〜と、ドレスマニアは喜びました。 でも、よく考えると、歌はラスト、イシちゃんと二人で歌うだけ・・・残念。月影ファンは、不服にみちていました、ら。
東京公演、場面とドレスとソロ歌が増えました!それが増えたおかげで、物語も、より、分かりやすくなりました。
最初のシーンの赤いドレスで銀橋を行きながら、♪許されざる愛の最初を歌います。そして、1年前、ジュリアンが居なくなる直前に、時がさかのぼります。 先王崩御で、政治を任されることになったアンヌ。それまでは、ジュリアンに守られて、宮廷で過ごしていたのでしょう。 「私にはそんなことは出来ない」と、当たり前の様に、必死でジュリアンに縋ります。けれど、そんなアンヌを、ジュリアンは別の形で支えていこうと、宮廷を去るのです。 おどおどした、支えを求めるアンヌの姿は、前場面で、威厳に充ちた王妃と全く違い、1年という時の重さ以上に、アンヌにとってのジュリアンの大きさを、その一場面でみせてくれたのです。威厳のある役、今までのぐんちゃんからは、想像がつかなかったのですが、公演を観て納得。素朴な少女でも、一国の王妃でも、役者・月影瞳が演じれば、それは一人の人間になる、のです。 その役の一人の人間として、舞台に乗っているぐんちゃん。それはいつもとかわりませんが、どんな役にも、全力投球のぐんちゃんの姿勢に、また、新たな感動を覚えた作品でした。
2001.10.1