ロキは、まゆらの手を取った。
左手の薬指の自分の口を近付ける。
まゆらのほうに視線を落として、囁きかける。心の中で。
『…これは誓いの口付け…』
『…君のココロに一番近い場所へ…』
彼女を見つめる瞳は妖しく光り、眼差しには決意のような意思が宿っている。
──そう、これは、『儀式』。
君を、ボクの…
(待てよ)
ついとロキは思い当たり、まゆらの腕を元の位置に戻した。
すっと腰を屈め、さらり…と、まゆらの髪に手をかける。
視線の先には、彼女の白い首すじ。そこへ顔を近づけていく。
(儀式なら、ここにしなくちゃね)
目を瞑り、唇が首筋に触れる──直前。
まゆらはパチリ、と目を開けた。
まゆらが起きた気配を感じ取ったロキは、その瞬間、ぎくぅと顔を強張らせ、
さっと彼女から身を離す。
ふわぁと、まゆらは欠伸を一つして、半身を起こした。
「あ…やだ、私、寝ちゃったんだー」
まだ半分寝ぼけ眼でキョロキョロと辺りを見回すと、どうやら、ここはロキの仕事部屋?で。
目元に視線を落とすと、自分はソファに横になっており、毛布が掛けられてある。
「あ、そか」
闇野さんが入れた紅茶を貰った後、余りにも暖かくて気持ちがいいから、ついウトウトしてしまったんだっけと思い出したまゆらは、『えへへー』とバツの悪い表情でロキのほうに顔を上げた。
「ごめんね、ロキ君。私、眠っちゃったのかなー?」
また呆れられるのかな?と思ったけれど、何故か、どうやらロキのほうがバツの悪そうな顔をしている。
「? ロキ君? どうしたの?」
何故にそんな顔をしているのか分からないまゆらは疑問一杯の目でロキを見る。
何だか顔も赤いようだし…気のせいかしら?と首を傾げながら。
「あら?」
と、ロキを見つめていて、ふと感じた疑問。が、もう1つ。
「ロキ君、何で服が肌蹴てるの?」
「え…」
ロキは益々ぎくぎくっと。まゆらから後ずさる。
まさか、…ようとして、でも出来なかった(まゆらが制服を着ていることからも一目瞭然)──なんてことは口が裂けても言えない。
「ロキ君?」
「あ…えと、これは……そう、フェンリル! フェンリルがボクに、じゃれてきたからだよ」
──苦しい言い訳。だが、素直(いうか鈍感)なまゆらは「そっか!」と納得した様子で、表情をパッと明るくさせた。
「仲がいいのね」
ロキとフェンリルがじゃれ合っている微笑ましいシーンを想像しながら、にこにこと、そう答える。
「あ、ああ」
ロキは頷く他ない。
──と、ある日の燕雀探偵社。の午後の、ひと時。のワンシーン。
<あとがき>
ギャグで落としてしまって、すみません!ひびきさん!!
それと、ロキがまゆらにしようとしたことは…もちろん、プロレスごっこぉ!です(笑)
ひびきさん仕様のロキに仕上げました〜(つもり)
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