In The Snow, In Your Arms

 

 

 

今頃何をしてますか?

そこにも雪は降りますか?

小狼君---

 

 

 

「小狼君!小狼君ってば!!」

 

小狼ははっと顔を上げた。

 

「あ、ああ。なんだ?」

「さっきからずっと呼んでいるのに返事してくれないんだもの。いったい何を考えてたの?」

 

ちょっぴりすねたような口ぶりでさくらは小狼の目をのぞく。

小狼は笑いながら窓縁にもたれていた身体を起こした。

 

「いや、なんでもないんだ。ただ、今日は天気がいいな、と。」

 

ふざけているのかそれが本当なのか・・・さくらは怪訝そうに小狼を見つめる。

 

「ほんとにそれだけ?」

「ああ。」

「変なの・・・。小狼君、普段はお天気のことなんか気にしないのに・・・。」

 

まだ不審そうな顔でさくらはつぶやいた。

小狼は手を伸ばすとさくらをそっと抱き寄せる。

 

「さくらと香港に戻ってからもう半年になるな・・・。」

 

小狼はテーブルの上に置かれたフラワーアレンジメントから洋紫荊を一本抜き取った。

この花は香港を象徴する花で自然の状態では冬に咲く花だ。

もうすっかり春も過ぎた今、ここにあるのは当然ながら栽培されたものだった。

李家の手広く経営されている事業にこうした方面に関係するものもあったのだ。

 

「あれ?この篭、さっき私が部屋に来たときはなかったよ。」

 

さくらが花篭を見てたった今気づいたというふうに声を上げる。

小狼はうなずきながら手にした洋紫荊をさくらの髪に挿した。

 

「さっき、さくらが庭に出てたときに届いたんだ。『若奥様にさしあげてください。』って言われた。」

 

小狼はその時のことを思い出したように声を立てて笑う。

 

「俺、最初誰のことだかわからなくて・・・。ここじゃみんなおまえのこと名前で呼んでるだろ?」

 

通常、屋敷のものは二人のことを小狼様、さくら様と呼んでいた。

思わず「それ誰だ?」と聞き返してしまったことは内緒にして小狼は話を続ける。

 

「若奥様は慣れない土地で大変でしょうからって・・・。こんな花でも慰めになればって言ってたぞ。」

 

香港に戻ったということはゆくゆく二人が李家の跡取りになることを意味していた。

それ故、二人に対する周りの気遣いも必要以上にいろいろとなされる。

しかしそれは押しつけがましいものでなく、心から皆が二人のことを思っていることが伝わるものばかりだった。

 

「そうなの・・・。みんな私のこと心配してくれてるんだね。」

 

さくらは髪に留まった花にそうっと触れた。

 

「今度その人が来たらちゃんとお礼言わなくちゃ。それから私はとっても元気だから大丈夫だって。」

 

小狼はさくらの言葉にうなずく。

 

「だけど、もし何か困ったことがあったら必ず俺に言うんだぞ。」

 

確かめるように小狼はさくらの頬に手を添えてその顔を見つめる。

さくらはしっかりと首を縦に振った。

 

「うん。でも小狼君がいっしょにいてくれるんだもの。私、それだけでなんにも心配ないよ。」

「さくら・・・。」

 

さくらは微笑みながら小狼の胸に頬を寄せた。

 

 

 

 

「どこに行くの?」

 

夕方、急にドライブに行こうと言い出した小狼に連れられてさくらは小狼の運転する車で郊外に延びる道を走っていた。

 

「もうずいぶん家から離れちゃったよ。どこまで行くの?」

 

わずか半年の期間ではまだまださくらには知らないことが多かった。

この道も今日初めて通る道だ。

故に小狼がどこを目指しているのかさくらには皆目見当がつかないでいた。

 

「もうすぐ着く。・・・多分あと十数分くらいだ。」

 

辺りはもう暗くなってきている。

かといって周りの景色は夜景を楽しむという風情でもない。

車は都市部から離れた田舎道に入っていく。

 

「見えた。あそこだ。」

 

小狼はあごで前方を指す。

何か白いぼんやりとしたものが薄闇の向こうに見える。

 

「さくら、先に降りてあの看板のところでちょっと待っててくれ。」

 

小狼は数メートル離れた木の看板を指し示す。

看板には公園の名前と【ここから先は車両の進入は禁止】と書かれていた。

 

「それはいいけど・・・。でも小狼君は?」

「ちょっと、な。」

 

時々見せるいたずらっぽい瞳で小狼は応える。

 

「??」

 

妙に思いながらもさくらは車を降りた。

夜のとばりは刻一刻と厚くなっていく。

 

(こんな夜に公園に来るなんて小狼君、何しに来たんだろう?)

 

さくらは首をひねった。

う〜ん、う〜んとうなってみたもののさくらには小狼の意図は読めない。

 

「待たせたな。さ、行くぞ。」

「えっ?うん。あっ!!」

 

ポンとたたかれた肩に振り向くとさくらは驚きで目を丸くした。

さくらの前の小狼は式服を身にまとい、右手には宝剣を持っていた。

 

「ど、どうしたの??」

 

そんなかっこうして---と続けようとしたが、その前に小狼が歩き出したのでさくらはあわててついて行った。

小狼はさくらが並んだのを横目で見ると口を開いた。

 

「おまえ、覚えてるか?」

「何を?」

「昔、まだ俺が香港にいたとき・・・。」

 

手紙に書いてあった---

 

『こっちはとっても寒いです。

今日も雪が降りました。

香港も雪が降るのかな?

毎日毎日、小狼君は今頃何してるのかなって考えてます。』

 

「香港で雪が降るかなんて聞くのはさくららしいと思ったけど・・・。」

 

小狼の足が止まった。

 

「その時、思い出したんだ。香港の雪を・・・。」

 

小狼は懐から一枚の札を取り出した。

横で息もせず小狼を見つめているさくらに優しい瞳を向けると小狼は言った。

 

「いつか見せたいと思ってた・・・。さくらに香港の雪を・・・。」

 

風が回る。

二人の足下から白いものが舞い上がった。

ふわりふわりとやわらかな雪がさくらの周りを踊る。

大きな瞳を見開いていたさくらはゆっくりとその表情を笑顔に変えていく。

 

「綿毛の雪・・・。」

 

紅綿木の落としものが今、香港の雪になる。

さくらはその雪を抱きしめると小狼の腕の中に飛び込んでいった。

 

 

 

-----Fin-----

 

コメント

ひびきさんのイラスト3枚からお話を作らせていただきました。

甘さ控えめですが(笑)大人な二人のある日の光景ということで・・・。(^^;)

お気に召していただけるといいのですが・・・。ダメ?←(聞くな!)


■管理人コメント■

翔 飛鳥さんから(私の)B・Dプレゼントに、素敵なお話を頂きましたーvv
一つ年取って良かったvv←こんな時だけね(笑)

甘さ控えめ…との事ですが、十分に甘いですよvvだって新婚さんですものvvvv
うふふふvv←??
何気ない日常でも、この2人に甘く優しい時間が流れているが伝わってきますねvv
さすが、飛鳥さんです。

挿絵イラスト…邪魔だなっと思いつつも一緒にアップしました。
ラストの小狼君の式服(?)イラストはこちら

飛鳥さん、本当にありがとうございました!