『初雪』




しんしんと。
空から舞い降りてくる白いもの。
窓の外から見える景色は徐々に色を無くしていく。

休日の午後。
さくらと小狼の2人は、部屋の中で読書の真っ最中。
本当は外へ出掛ける約束をしていたのだが…
さくらが小狼のマンションを訪ねたとき雪がハラハラと落ちてきて、
止みそうにない様子から動物園は無理との判断を下し、
部屋でゆっくり過ごすことになったのである。

静かに時が流れる中。自分の手にある本を熱心に、夢中に読んでいる2人。
テーブルの上の2つのティーカップからは湯気が立ち昇り、
ほんのりと良い香りが、時折カップを口元に近づけた2人の鼻を微かにくすぐる。

窓の外は変わらず白いものが落ちいくのが見て取れて。
暖房で温まった部屋の中にはパラリ…と本を捲る音だけが静かに響いている。

──だったのも、僅か30分。

ふわぁと一つ、大きな欠伸をして、さくらはパタンと本を閉じた。

チラリと隣りを見てみれば、そこには黙々と本を読んでいる小狼の姿があり…
さくらが本を閉じたことも気付かないほど集中しているようだ。

「小狼君」

何となく名前を呼んでみる。

「ん?」

小狼が口を開いたのは、1…いや3呼吸ほど置いた後。
しかし、視線は本に落としたまま。

「その本、面白い?」

さくらは本をテーブルの上に置き、頬杖を付きながら尋ねる。

「…ああ」

一泊の間の後、小狼の口からは肯定の言葉が返ってきたが…変わらず顔は下を向いたままだ。

「どこが面白い?」

更に、さくらは問い掛けてみる。

…が。

「…ああ」

暫しの間の後、返ってきたのは同じ台詞。

それに、ちょっとムッとしたさくらは最初と同じ質問を投げかけてみる。

「本当に面白いの?」

「…ああ」

少し間を置いての返答はやはり同じ言葉。
さくらのほうに顔を上げようともせず、目は相変わらず本の台詞を追っている。

「…つまんないの?」

質問を変えて問い掛けても──

「…ああ」

返ってきた言葉には何の変化も見られず、
そんな小狼の態度に、ついに、さくらはガタン!とソファーから勢いよく立ち上がった。

「小狼君!!」

近寄り、大きな声で名前を叫ぶ。

「わぁっ!」

さすがに耳元で叫ばれては気付かずにはいられないようで、
小狼はビックリした顔で本から目を離し、さくらのほうに顔を向けた。

「な…なんだ?」

目をパチクリさせて、さくらの顔を見ると、何故か『むー』と不機嫌一杯の表情で自分を睨んでおり…
理由がサッパリ分からない小狼は『???』とハテナ顔。

「ど、どうしたんだ? さくら」

オロオロと尋ねてみるが。
さくらは次の瞬間、小狼の腕を取って、にこっと微笑み、口を開いた。

「ね、外に行こっ!」

「え?」

突然の台詞に、小狼はキョトン…とさくらを見つめる。

「だ、だが、今日はもう動物園は…」

「動物園じゃなくて! 雪が降る中、お散歩したいの」

確か今日は、と言いかける小狼の言葉を遮って答えるさくら。

「ね?」

再びニコリと微笑んで、小狼の腕をぐいっと引っ張った。

「あ、ああ」

いつまでたってもさくらの笑顔に弱い小狼は思わず頷き、
本をテーブルの上に置いて、自分も椅子から立ち上がる。

何で突然…と思いつつも、コートを手に取って外に出掛ける支度を進める。

「はい!」

と、ふわりと柔らかな感触が首元辺りを覆った。

「あ…」

見ると、グリーンのマフラーが自分の首に巻かれており…
さくらのほうに顔を向けると、
「風邪、引かないようにしなくちゃね」と手袋も差し出してくれている。

「…ああ」

小狼は微笑を浮かべ、さくらの手から手袋を受け取り、
自分もマフラーを首に巻くさくらの姿を優しい瞳で見つめた。

(まあ、いいか)

くすりと笑みを零し、玄関へと向かう。

ガチャリとドアを開けると冷たい風が頬を刺すが…

「行こっ、小狼君!」

はあっと息を白く吐きながら、さくらは明るく小狼のほうに振り返り、足を前に出す。

「ああ」

小狼はさくらのマフラーを頬のほうまで巻き直すと、さくらと一緒に外へと出た。

ガチャリ、と閉じられたドア。

さくらのはしゃぐ声が誰もいなくなった玄関の中にも木霊し、静かに響いていく…


<ひびき@管理人コメント>

フェリシアさんから、お年玉を頂きました〜vvわーいvv
こちらのお話の元ネタは『さくらちゃんが小狼君に”かまってかまってvv”と強請るイラスト(長っ)』
です。(…別名『デ●コちゃんに怒られるぞ〜(笑)』イラスト。←はぃ?)

本に夢中になっている小狼君にヤキモキするさくらちゃんが可愛いですねvv
軽〜く(小狼君の読んでいる)本に嫉妬してみたり?(微笑)
で、結局は小狼君はさくらちゃんの”お願い”と”笑顔”に弱いとvv
日常生活のほんの一コマ…でも二人にとっては、大切な時間…と言う事で。
寒い冬も、二人なら暖かく過ごせそうですねvv いいなぁ…(つい本音が:笑)

フェリシアさん、本当にありがとうございました――vv

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