コンビニトレジャーハンティング
ついに再開しました。新生コンビニエッセイ。ネタを提供してくださる「お客様」に、ささやかな復讐を胸に抱きつつ、笑顔で接客。アイラブコンビニの精神、いまだ衰えず!?
さて、夏である。夏になるとどういうわけか色々な業界が商売に熱を入れる。文庫本然り、コンビニ然り。このクソ暑い中、さらに熱を入れてどうする。などというツッコミに、まるで耳も貸さず、夏のフェアや夏のキャンペーンが実施される。
6月からバイトを始めたコンビニ(広島奮闘編とは違う店)でも、割引クーポンなるものが配布された。クーポンの扱いについては、広島でのバイト先がそもそもクーポンのパイオニアであるコンビニであったので、ほとんど何の心配もなく、少々礼儀の欠けた客がクーポンを持ってきても、どうということはなかった。
ところが、こちらが神経をどんなに鍛えても、やはりそれを上回る客は現れるのである。
今の店では、クーポンは所詮二番煎じである。バイトの私でさえそんなことが分かるのだから、コンビニ本部のお偉いさんたちが気づかないわけがない。そこで考案されたのが、割引クーポンの上を行く、「無料引換券」である。これは、クーポンが使えるキャンペーンの前に行われた、別のキャンペーンでプレゼントされたものである。先に行われたキャンペーンで、次のキャンペーンで使えるものをプレゼント、しかも「無料引換券」とくれば、客はまた店を利用してくれる。なかなか良いアイデアである。プレゼントだから、持っている人は限られている。しかし、この「無料引換券」が当たった人は、私の予想をはるかに上回っていた。こんなにたくさんの人に当たるのだったら、私もはがきの一枚も出しておけばよかった。そして、それを使う人が増えれば、それを正しく使えない人が含まれる率ももちろん高くなる。「無料引換券」、客を増やすことにおいてはいいアイデアだったが、客の質を上げることにおいては必ずしもいいアイデアとは言えない。
この「無料引換券」は、客が手にしていたものを見る限りでは、50枚ほどの券が一綴りになっているようである。これが割り引きクーポンであったのならば、客は自分の欲しい商品、もしくは買う可能性の高い商品のクーポンをあらかじめ切っておいたりするのだが、なにしろ「無料引換券」である。「無料」である。「タダ」である。悲しいかな、多くの人間は「タダ」という言葉に弱い。「もらえるものはもらっとけ」精神である。「無料引換券」を持ってくる客の多くは、一枚に綴られたままの券を、ひどいのになると、プレゼントとして送られてきた封筒に入れたままでレジに出すのである。だから私は、実物を手にしていなくても、「無料引換券」のほぼ全貌を知ることができたのである。
クーポンにしろ無料引換券にしろ、こんな客ばかりではもちろんない。一枚ずつ切ったクーポンを出してくれる客も、「クーポンがあります」とあらかじめ言ってくれる客も、「これでお願いします」と言って無料引換券を出してくれる客もいる。また、数枚の無料引換券とカゴを手にして店をうろつき、いくつかの商品をカゴに入れたが、まだ見つからないものがあるらしく、「すみません、これはどこにありますか?」と聞いてくる客もいる。彼/彼女等は、クーポンを正しく使っている。「そんなもんにルールなんかあるか!」と「正しい」という言葉に語弊があるならば、クーポンを使うのに最低限の礼儀を備えた客だと言える。
だが、例によって、礼儀のれの字も知らないような輩も来るのである。
クーポンが使える期間が終わりに近づいたある日、やつはやってきた。手にはほぼ完璧な状態に綴られた無料引換券を持っている。やつはカゴも持たず、商品を探しに店内をうろつくでもなく、まっすぐレジカウンターにやって来た。そして、綴られたままのクーポンをカウンターに投げ、ついでにこう言い放った。「これ下さい。もう使えなくなるから使っちゃおうと思って。」
・・・ここでまたくどくどクーポンの使い方を説く気はありません。この時はさすがに叫びそうになりました。「自分で探せ!!」
私はその言葉をぐっと飲み込み、もう一人の店員とカゴを手に店中を歩き回り、商品をかき集めました。その様はまるで、コンビニというジャングルをさまよい宝物を探すトレジャーハンターそのものだった。その間、やつは何をしていたかというと、何もしていないのである。そのままレジの前にぼんやり立っていたり、雑誌のラックをぼんやり眺めていたり、買う気もない商品をぼんやり眺めて、時に触ってみたり、とそんなことである。店内を奔走している店員など、気にもせずに、本当に何もしていなかったのである。
そしてやつは結局3千円弱の商品を無料でもらって帰っていったのである。いいご身分である。が、オマエは何様のつもりだ!?オマエはその券一枚で店員を自分の自由に使えるとでも思っているのか!?
言わなくても分かるかと思っていたが、やはり言わなければ分からない輩もいるようなので、言わせてもらうが、クーポン券や無料引換券は、対象商品だけに有効なのであって、店員やサービスにまで及んでいるわけではない。自分は何もせず、券だけ出して「下さい」とか「探して」とか言うな!!客はオマエ一人ではないのだぞ!オマエ一人にどうしてそんなに時間をかけなければならないのだ。そんなやつらにアドバイスだ。クーポン対象商品を探すのは、確かにめんどくさい。しかし、発想を逆転させてみれば、コンビニという小さなところで、まるで大冒険をしているような気持ちになれるかもしれない。来年の夏のキャンペーンのコピーは「この夏はコンビニでトレジャーハンティング!」
確かにクーポンは、サービスの一環だ。それを使うために店に来てくれるのは、店員としてありがたい、ととりあえず思う。だが、それらを使う人間に問題があっては、ありがたいと思うどころか、二度と来るなと思ってしまうのだ。
(2001.7.6)
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