返品する人々

  コンビニに来る客は、もちろん人間である。人間である以上、間違うこともある。人間として、当たり前のことであるので、もし間違えて買い物をしてしまった場合でも、コンビニやスーパーでは返品・返金もしくは交換することができる。 しかし、コンビニで買い物をしていく人は、ちょっとした食べ物や飲み物など、すぐに消費してしまうものを買っていくことが多いので、この返品・返金を求められることはほとんどない。あるのは、外の自販機で買ったら、押したものと違うタバコが出てきた、という場合、その客が求めるタバコと交換してあげることくらいである。 自販機からなぜ違うタバコが出て来てしまうのか、というご指摘を受けそうだが、そこはやはり人間のすることである。自販機にタバコを補充するのも店員、つまり人間の仕事なのだから、間違うことももちろんあるのだ。

  しかし、ほとんどないとはいえ、コンビニでも返品・返金を求める客はやはりいる。それがまだ店を出る前であったり、バーコードは読んだが、清算はまだ済んでいない時であった場合は、難なく処理できる。しかしわざわざ会計を済ませ、お釣をもらった後で「これは泡の髭剃りクリームですか?」などとジェル状のシェービングジェルを指して言う婆さんがいたりする。そんなことは買う前に聞いてくれ!と思うのだが、そんな時も事情を説明し、返品・返金もしくは交換の処理を行う。こんな事くらいでかりかりしていたら、もっと悪質な返品を行う客に太刀打ちできない。

  以前うちにちょくちょくやってきたハートとあだ名された客は、ホープライトというタバコをいつも2つ買っていった。ところが、しばらくするとホープライトを2つ持って来て「これをマイルドセブンに交換してくれ。そして差額の10円をくれ。」と言ってくるようになった。この交換があまりにも頻繁に行われるようになり、店員たちも怪しく思うようになった。店長の推理はこうである。ハートは隣の病院に入院している患者であったので、同室の患者は動けないかなにかで、ハートが買い物にいく際、自分が吸っているタバコのホープライトを買ってくることを頼んでいたのだろう。また彼を見舞いに来た人がカートンで持って来ていたかもしれない。ハートは同室の患者の枕元に大量にあるホープライトを見て、閃いた。これをコンビニで交換してもらえば、タバコ代が浮く。しかも差額で10円得をする。果たしてそうであったのかは定かでないが、明らかに売っていないものの返品に応じるほど店員もバカではない。ハートのこの行為は、何度か行われた後オーナーに一喝されおさまった。

  ところが、ハートはそれで終らなかった。今から紹介するのはうちで起ったことではないが、うちの事情をよく知る別の店で働く店員が教えてくれたことである。ある日、コンビニにハートはやってきた。彼はレジカウンターに来ると、持っていたブラシを見せて「さっき買ったのだが、頼まれていたものとは違っていたので、返品してくれ。レシートはもらっていない。」と言ってきた。ハートの強引な態度に、その店員と一緒に働いていたその店のオーナーはしかたなくそのブラシを返品処理し、ハートにブラシ代として約1300円を返金した。ところが、その店のオーナーが後で売り上げを調べたところ、そのブラシが売れた形跡はなかったそうだ。つまりハートは、売り場にあったブラシをあたかも買って帰ったもののようにレジカウンターに持って来て、返品を求めたのである。こうしてハートはまんまと1300円を手に入れた。10円の小銭をためることより、一発勝負で大きく出たハートは見事成功したというわけである。

  もはや言わなくても分かると思いますが、それは立派な犯罪です。世の中にはどうしてこういう事ばかりに頭が働く者がいるのでしょうか。一般常識を備えた方なら、まず行うことはないと思いますが、返品・返金を巧みに利用した犯罪をするのはやめてください。

(2000.1.27)

 

 

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