あだ名をつけるぞ

  さて、順序がおかしくなってしまったが、おそらく今年最後のエッセイとなると思われるので、最後くらいは悪口ではないもので締めくくろうかと思う。しかし、私のやることだから、美談というわけにもいかないだろうが・・・。

  うちの店では、一部のインパクトのある客にあだ名をつけている。私は他のところでの長期のバイト経験がないので、断言はできないが、このようなことは何もうちの店に限ったことではないと思う。眼鏡をかけていれば「博士」とか、筋肉隆々の人がいたら「マッチョ」とか、もしかしたら「マドンナ」なんて呼ばれている女の人もいるかもしれない。 店の中で客の話題になった時、店員と客という不思議な関係の中では、はっきりとした名前など分かるはずもなく、その客の特徴を事細かに捉えて説明するのでは、本題になかなか入ることもできない。客にあだ名をつけるという行為は、客に対する親しみの一表現なのであろう。

  ただ、うちの店の場合は、そのあだ名がかなり個性的なのである。

  うちの店のバックルーム(倉庫兼事務室のようなところ)には、在庫を置く棚の最下部に、本が置いてあり、図書館と呼ばれている。で、この本がまたうちの店らしいというか、いわゆる、かなりマニアックなもので、その蔵書の一例を挙げてみると、『北斗の拳』『セイント星矢』『キン肉マン』『空手バカ一代』『ゲッターロボ』・・・等々。これらは店員たちの休憩時間のいい相手となったり、また店内で突然行われる「人気キャラ、名場面、名せりふランキング」のテーマのために、店員の必修科目のテキストとなったりする。ちなみに、私はこのために『北斗の拳』を全巻読破した。

  あだ名の話で、なぜ店内図書館のマニアックさを披露するのかというと、既にお分かりの方もいると思うが、客のあだ名が、これらに由来しているものが多いからである。 一例を挙げてみることにする。

  まずは外見からそのあだ名がついたパターン。「ハート(様)」これは『北斗の拳』の登場人物の一人である。彼が初めて来た時に、レジに立っていた男性店員に対し「男前だ、男前だ」と連発し、かなりのインパクトを与え、それを店長に訴えようとした際、たまたま目に入ったハート様の姿に似ていたためについたあだ名である。 次に「ゲッター3」ゲッター3とは、ゲッターロボがキャタピラで動くタイプに変形したものである。この客は隣の病院の入院患者であるらしく、特殊な車椅子に乗っており、電動で動くその姿がまさしくゲッター3なのである。私はこのゲッター3に「競馬で儲けたらアンタの結婚くらい面倒見てやる。」と言われたことがある。そんなこと、他人に面倒見られても・・・。同じく入院患者で、明らかにそれと分かるような、病的に白い顔をした「ホワイト」。しかし彼は最近見かけないので、退院したものと思われる。確かに店に来る毎に顔色が回復していたようで、段々「ホワイト」と呼びづらくなってきてはいた。その他このパターンには、みなさんご存知のミゼットもいる。

  次に、その行動からあだ名がついたパターン。「トレーニング」この客は、年のせいなのか何かの障害のせいなのか、体が痙攣しており、店内をうろつく時も、お金を出す時も常に体がプルプル震えているらしい。初めて来た時に、あまりにもお金が出しにくそうだったので、店員が手伝おうとしたところ「これは私のトレーニングだから・・・」と言い、いらいらする店員などお構い無しに、プルプルしながらお金を出したというのだ。私はまだこのトレーニングを見たことがないので、近いうちにぜひお目にかかりたいと思っている。

  また、その他の例として「プチハート」というのがいる。これは「ハート」が頻繁に来るようになった少し後に来るようになった客で、「ハート」と同じくらいうっとうしいことをやらかしたのでついたものである。(あ、なんか悪口になってきた?) そして、あだ名がつくほどではないが、一風変わっているためにちょっとしたインパクトを与える客に対しては「小宇宙―コスモ―」という言葉を使う。これは『セイント星矢』からの言葉である。常人にはおよそ感じられない何かがある、といった意味であろう。

  冒頭で、悪口は言わないようにとか、あだ名は親しみの一種とか述べたが、どうも客をけなしているような気がしてきた。まぁ、インパクトがあるということは、店員に対してよっぽどいいことをしてくれるか、嫌なことをしてくれるかのどちらかなのだから、けなすこともあるだろう。 私は今でこそこのように人をあだ名で呼んでいるが、他の店でも同様のことが行われているのなら、私も何らかのあだ名をつけられている可能性がある。しかも最近私が通う学校の前にコンビニができ、毎日のように昼に食べるものを買っていくので、店員の記憶に残っているかもしれない。そこで、私につけられているであろうあだ名を考えてみた。@「時計」たいてい同じ時間に行くので。A「苦学生」いつも安いものしか買わないので。B「V3」いつも白いマフラーをしているので。

  だからなんだ、という感じだが、私はこれらのあだ名の名付け親である店長の、底知れない能力を改めて尊敬する。次はどんな輩が現れるのか、楽しみでもある。

 

(1999.12.23)

 

 

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