記録に挑戦する人

  うちの店のおでんがセルフサービスであることは、前のエッセイで述べた通りである。昼のラッシュ時などは、本当にそうでもしないとやっていけないのだが、夕方から夜にかけては、そのシステムは店員の仕事を軽減してくれる。決して楽ができると喜んでいるわけではないので、そこら辺は注意していただきたい。しかし、そのシステムの中でも、ある場合においては結局店員の仕事が増えてしまうことになる。

  一人の客がおでんを取っている。店員はそれに気がつき、カウンターでふたなどの準備を始める。ところが、予想外にもその客はなかなかレジに来ない。おでんカップのふたが置かれているカウンターに、別の買い物客が来てしまった。とりあえずその客をさばく。すると、おでんを取っていた客が、慎重にレジにやってくる。カウンターに置かれたおでんカップには、大根やらちくわやらが山盛りになっている。おでんを取るのに時間がかかっていたのは、たくさん取っていたからであり、レジまで慎重に来たのは、上の方のおでんが落ちてしまわないか不安だったからであろう。しかし、これではふたが閉まらない。しかも、レジに打ち込むのに下の方に何が入っているのか分からない。店員はしかたなくおでんカップをもう一つ持ち出して、おでんの山を崩しにかかる。その際一応「カップが2つになってもよろしいですか?」と客に一声かける。

  だが、時々なぜこんなことを聞かなければならないのだろうと思うことがある。カップに山盛りのおでんを持ってこられても、ふたが閉まらないのは当然のことである。それが、ふたが閉まらなくないほどのはみ出し具合ならまだいい。また、チクワなどは多少ふたで押さえられても問題はない。しかし、カップのふちから2,3cmも高くなるほどおでんを詰めてきたり、カップから牛筋の串がはみ出していたりしてはどう考えてもふたは閉まらない。だいたい落ちそうだと心配になるなら、初めから落ちない程度に入れてくればいいのだ。カップだって自由に使えるようにしてあるのだから、無理して一つにしなくても、二つ使ってくれて一向に構わない。そんなことおでんを取っている時に気付いてもよさそうなことであるが、客の中には、やはりそういうことが分からない者がいるようである。

  セルフサービスとは、おでんは自分の好きなように取って下さいということであって、決して一つのカップに詰め放題!ということではない。だいたい詰め放題と言ったって、おでん一つ一つに値段がついていることくらいは客も知っているはずである。それとも何か、オマエ等は、一つのカップにどれだけのおでんを詰めることができるかという記録にでも挑戦しているのか!?目標を持って生きるのはいいが、もっと普通のことにしてもらいたい。どんなにたくさん詰めてこられても、結局店員におでんの確認とともに、ふたが閉まる状態に直されてしまうのだから。

  確かに、おでんを好きなように取れるかもしれないが、オマエ等は買い物に来た客なのだから、全ての買い物の会計を済ませてからでなければ本当の自由は得られないのである。本当の自由のためにも、取った後で店員の目に触れるということを忘れないでいただきたい。

(2000.4.6)

 

 

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