日本語の分からない人(その1)

  コンビニではしばしば、プレゼントが当たったり、割引で買い物ができたりするキャンペーンが行われる。 その際必ずと言っていいほど必要になるのが、レシートである。 店によっては普段からレシートの受け渡しを厳しくしつけられているところもあるが、キャンペーン期間中は、うちのようなお気楽な店でも、レシートを必ず渡すようにと厳しい指導が行われる。

  ところが、レシートというものは、生真面目に家計簿をつけている主婦以外の者にとっては、おおよそ必要のないものであるといっても過言ではない。客からして見れば、キャンペーン中は普段はもらうことのないそのレシートを、突然渡されるという感じを受けるかもしれない。しかし、店員としてはあくまでも仕事をまっとうしているだけなので、客の顔をいちいち確認して、レシートを渡したり渡さなかったり、そんな器用なことができるわけがない。レシートが必要のない人の手に渡ってしまったとしても、それは店員の知ったことではない。レシートの後処理は、人それぞれが行うことである。

  人それぞれ、丁寧に財布にしまい込む人、おつりの小銭とともにポケットにねじ込む人、カウンター横のごみ箱に放り込む人、方法は様々である。その方法の一つに、店員の逆鱗に触れる行為がある。会計を済ませ、店員がおつりとともにレシートを渡す。客はおつりの小銭を財布に流し込み、手元に残ったレシートをなにも言わず、カウンターに残していく。こちらが渡したものを、すぐにごみ箱に捨てる行為には、全く腹は立たない。それは「ごみはごみ箱へ」というマナーにかなった行為だからだ。しかし、こちらが渡したものを、黙ってすぐに突き返すとは、どういうことだ!?オマエは「いりません」一言も言えないのか!? だいたいこの行為は、全く礼儀に反しているものであり、レシートの後処理の方法の一つだと考える方がおかしい。コンビニでの買い物が、ちょっとしたものであれ、急いでいるのであれ、レシートをもらう際「いりません」と言うほどの余裕もないとでもいうのだろうか。黙ってレシートをカウンターに返す奴は、「いりません」という日本語が分からないとしか考えられない。

  またレシートを受け取るまいとして、客がする行動に、レシートとおつりの間に手を入れようとするものがある。レシートを渡す際、たいてい片手にレシート、片手におつりという格好になる。レシートの要らない客は、何とかおつりだけを受け取ろうと、おつりを持った手の下に自分の手を挟み込もうとする。ところがタイミングが合わなかったりして、レシートを持った手をよけようと、客の手がどんどん上に上がっていく。こうなるとおつりを渡すのも一苦労である。こんなことをするなら、初めから「いりません」の一言を言ったらどうだ!私が相手をしているのは、おそらく大半は、大よその日本語が分かっている人間だと思っている。それが、たった5文字の言葉も言えないというのはどういうことなのだろう。オマエの口は何のためについているのだ!?オマエの口は、ものを食べることと、空気を出したり入れたりするだけしか能がないというのか?

  昼ラッシュの客が立て込んでいる中でも、ご丁寧にレシートをカウンターに残していかれる客がいますが、少しはこちらの仕事も理解していただきたく存じます。あなたにとって必要のないものをお渡ししてしまったかもしれませんが、あなたの手に渡った以上は、それはあなたのものです。あなたなりで結構ですから、マナーにかなった後処理をしていただくようお願い申し上げます。初めから受け取る気がない場合でも、その際せめて「いりません」の一言を添えていただくだけで、こちらの感じ方は随分変わってきます。間違っても、黙ってカウンターに残していくのだけは、お断りでございます。

(2000.6.1)

 

 

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