顔の見えないお付き合い

  店には時々問い合わせの電話がかかってくることがある。欲しいものがもしかしたら売っていないかもしれないという思いから、そういう電話をかけてくる客は、わざわざ店に来たのに、目的のものがなく、無駄足を踏むことがない。また、たとえコンビニといえど、売っていないものもあるだろうと考える分、コンビニには何でもかんでも売っていると思い込んでいる輩より、はるかにおりこうさんである。しかし、こういう客の中にも、やはりおバカさんは存在している。

  ある日、店に一本の電話がかかって来た。店員がいつも通り「ありがとうございます。○○店です。」と電話に出ると、相手は「もしもし」もなくいきなり「そこに△△はあるか?」と言ってきた。この時聞かれた商品は、店員も聞いたことのないものであった。店員の「申し訳ありませんが、当店では扱っていませんが・・・」と、お詫びの言葉を聞いているのかいないのか、電話の相手は何やらぶつぶつ言っているようである。そして結局ないと分かると「ああそう。」ガチャ。

  その数時間後、またしても店の電話が鳴った。「ありがとうございます。○○店です。」「そこにコピーの機械はある?」「・・・ありますよ。」「どのくらいの大きさまでコピーできるの?」「B5からA3までです。」「それはどのくらいの大きさ?」ううむ、これは難しい。今やコピー用紙の大きさの言い方など、ほとんど常識になっていると思っていた店員は、とりあえず「普通のノートなどがB5の大きさになりますが・・・」と答えてみたが、相手は聞いているのかいないのか、とにかく自分のことしか頭にないのか、それを言い終わらないうちに「一番大きいのはどれくらいの大きさなの!?」ときた。店員は目分量で「一番大きいので30×40くらいでしょうか・・・」と自信なさげに答えたところ、「ああそう。」ガチャ。

  どうしてこんなことまで言わなければならないのだろうかという思いが出てこないわけではないが、オマエ等は一体今までどんな教育を受けてきたのだ!?どうしてそんなに自己中なのだ!?いくら顔が見えないからって、やっていいことと悪いことがあるだろう。こんな礼儀のれの字も知らないような人間が、今までどうやって生きてきたのか、全くもって不思議である。もちろんこんな態度で電話をかけてくる客は、極一部である。中にはとても丁寧に「お忙しいところすみません」から始まって「どうもありがとうございました」と切ってくれる客もいる。コンビニの店員相手に、バカ丁寧に電話をかけてこいとまでは言わないが、最低限の礼儀くらいはわきまえて欲しいものである。

  また、コンビニでのオンラインショッピングサービスが始まって以来、電話での問い合わせが増えた。新しいサービスというのは、テレビCMや広告だけでは客にとってなかなか分かりづらいものである。一応応対マニュアルなどは読むのだが、店員だって実際やってみないと分からないのだ。だから、前もって電話をかけてくる客の気持ちは分かる。ところがこのオンラインショッピングでは、店はあくまでも仲介でしかない。つまり客がインターネットや店にあるオンラインショッピングの機械を操作して、欲しい商品を扱っている別の会社や店などに予約し、その会社や店から商品がコンビニに送られ、客はコンビニでそれを受け取る、というシステムなのだ。だから商品そのものの問い合わせなど、コンビニにされても答えることができないことがある。

  オンラインショッピングで最も多い問い合わせは、コンサートやイベントのチケットに関することである。これらのチケットに関しては、店頭にチケットの情報誌が毎月置かれている。しかし、この情報誌にはアーティストのちょっとしたインタビューや、プレゼントの企画などが掲載されている上、無料ということもあってあっという間に店頭から姿を消してしまう。だから店員は、その情報を得ることができなかった客の問い合わせに答えなければならない。けれどその問い合わせはたいてい同じ応対で処理される。以下はチケットに関する問い合わせの典型である。

「ありがとうございます。○○店です。」「そちらで□□のチケットは買えるんですか?」「当店で行っているのは発券のみでして、チケットの場合先に予約受付のところにお電話していただくようになるのですが・・・」「それは何番?」「チケットによって異なりますので・・・チケットセンターにお電話していただければ確実ですので・・・」とチケットセンターの電話番号を教えて電話を切る。中にはそこでおとなしく電話を切らずに、予約方法や果てはまだチケットが取れてもいないのに座席のことを聞いてくる客もいるが、それを行っているのはコンビニではないのだから、そんなこと分かるわけないじゃないかと思いながらも、丁重にお断りする。そんなに好きなアーティストのコンサートなら、チケットの購入方法など予め知っていてもよさそうなものである。しかも、このオンラインショッピングが始まって、もう2年近く経っているような気がする。それでもまだ購入方法が客に普及していない。釈然としない思いを抱えながら、私は店の電話が鳴っているのを耳にする。ああ、そう言えば今日はチケットの予約受付開始日だったっけ・・・。

(2001.1.11)

 

 

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