十代詩篇 2
「氷」
踊り子の服を着た少女が
氷を頭にのせて
水と会話していた
しゅわ しゅわ ぱりん
首筋をつたう水が
輝きを増して転がってゆく
さら さら ぽたん
いつしかまつげについた
氷のしずくは
彼女にまだ見たことのない
海を思わせた
「灰色と赤はよく似合うというお話」
あと10分もしたら雨が降る
と言わんばかりに
空がにわかにかき曇り
風が冷たくなった
中庭のけいとうの花は
あんなに綺麗だったかしら
けいとうの花の名前は
今まで毛糸玉のけいとうだと思っていたのだけれど
それは間違いで
正しくは
にわとりの頭のけいとうだそうです
確かに
毛糸では雨が降ったら縮んでしまうし
鳥の羽なら水にぬれても大丈夫だから
それでいいのかも知れない
雨にぬれたけいとうは
きらきら光って
もっと綺麗
「ないものねだり」
なれるならば
今日の雨の一粒になりたい
そしたら
あの人の肩にそっと落ちるんだ
いつしか人間になれる日を夢見て
ねぇ仔ネコちゃん
今度あの人が家に来るとき
体をとりかえっこしようか
そしたら
私はあの人に
かわいいねって頭をなでてもらえるし
あの人のひざの上で
眠ることもできるから
たった一度だけでいいんだ
ねぇ仔ネコちゃん
「神様」
小学2年生ももうじき終わる3月
いつものようにエレベーターに乗ったら
7階辺りで止まってしまった
乗っているのは僕一人で
どうしていいか分からなくて
いっしょうけんめい背伸びして
非常ボタンを押したら
すぐに管理人さんから返事があって
「どうしたんだ」って言ったんだ
僕はいっしょうけんめい答えようとしたけど
そんなこと初めてだったから
脚がガクガクふるえて
一言も声が出なかったんだ
アクションヒーローに憧れていたけれど
こんな形じゃない
僕はずっとこのままなのかななんて
思っていたら がたんとドアが開いて
目の前に管理人さんが立ってて
「大丈夫か」って言ったんだ
僕はあのときいたずらだと疑わないでいてくれた管理人さんが
神様のように見えた
「女の子は早足で歩け」
女の子は早足で歩け
足が太くなるなんて
心配はご無用
女の子は早足で歩け
大人になるまで
早足で歩け
ミニスカートでも
ジーパンでも
運動靴をはいて
早足で歩け
なぜかって
初めて恋人と街を歩くとき
ちょっと気取ってハイヒールなんかを
はいたりするだろ
すると
今までみたく早足で歩けなくなって
イヤでもゆっくり歩けるからさ
ちょっとよろけたりしたら
恋人は守ってやらなくちゃって
思うだろ
ねぇ仔ネコちゃん
これは君だけに教える
恋のおまじないだよ
あなたが
私を好きになれば
いいのに
私はきっと
そんな女の
タマゴ
かな
頭のてっぺんで作られた
あなたへの想いが
つま先から
少しずつ
すごいスピードで
積もっていって
今ではもう
口から溢れ出てしまいそう
「19の恋」
あなたの部屋で
隠れるように
キスをした
少ない言葉の中で
愛を確かめ合う必要がない程
抱きしめ合ったよね
一つ一つのことを学びとって
私は
19の恋に夢中になっていた
「約束」
きっともう
他の誰も
好きになったりしないから
なんて
胸を張って言うには
まだ早すぎるかな
私の髪型なんて
どうでもいい人は
いっぱいいる
でも
あの人はそうじゃないって
信じたい
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