くちづけ

雨ふり
雪ふり
傘さして
あなたの首が
とても寒そうに見えたので
私は傘を打ち捨てて
あなたにそっと
駆け寄りました

雨ふり
雪ふり
傘さして
あなたと私
傘さして
あいあい傘だと照れながら
二人ならんだ足跡を
静かに残してゆきました

 

 

「にわか雨」

まるでバカみたいな天気の後で
慌てて部屋を飛び出したんだ
虹を探しに

さっきまでの雨は嘘ですよと
言っているような空の下で
濡れた地面だけが
嘘くさい事実を語る

虹は出ていなかったけれど

これでもかと照りつけるお日さまに
目はチカチカ
胸はポカポカ
暖房が効いている部屋にいるより
ずっとずっと
暖かな気がして

そこで初めて
上着もはおらず
外に出ていたことに気づいて
まるでバカみたいな歌が
口をついて出てきたんだ

心の中に曇天が広がっているなんて
自分を過小評価するのは
ねぇ
いい加減
やめにしないかい

濡れた地面も
やがて乾くのだから
そのくらいの嘘に
寛大でいられるうちにさ

 

 

「Tea Room」

タバコを吸う女
金勘定をする女
マフラーを巻いたままの女
化粧直しをする女
チョコレート・パンをほおばる女

まさしくここは
女の巣窟

男たちは肩身も狭く
壁際の隅の席につく
―――しかも禁煙席ときたもんだ!

まさしくここは
女の巣窟

外はアイスナインであふれている
席を立ったらたちまち
凍りついてしまうぜ

煙と金と暖と美と甘に満たされた
女の巣窟

 

 

「装備」

はき慣れぬ
ヒールの音に
街は
異国の趣き

交差点で
向かい合う紳士の
口論はやがて
銃声に変わる

そんな街に生きてるんだ
防弾チョッキを忘れるな

ヒールの音も高らかに
駆け抜けてやる

 

 

種二つ

私の心に

君蒔いて

春よ こい など

歌い育む

Two Seeds

You Planted

In My Heart

We Grow them

Singing Spring, Spring, Spring!

 

 

「年度末ラバー」

つぎはぎだらけの道路で
愛を語ろう
ボロは全て
アスファルトが取り繕ってくれるからさ

つぎはぎだらけの道路で
愛を語ろう
嘘は全て
コンクリートが塗り固めてくれるからさ

ねぇ
この世でいちばん
君が好きだよ
つぎはぎだらけの道路でなら
こんな僕でも
信じられるだろう?

 

 

坂道を駆け下りる自転車
背中から音がする
翼の根っこが
心臓にまきついて

きゅう

ああ
私やっぱり
君が好きだ

 

 

病床
ますます冴える五感

天井のほこり
水滴の音
昨日の食べ残し
枕元のお茶
ふとん

こんな時なんだ
君がそばにと思うのは

 

 

「夢」

情熱が走り出す
赤信号でなんか
止められない

真夜中
仰ぎ見る 月

両手には
君のぬくもり

 

 

「バラ」

裸の私が
君を思いきり抱きしめたら
体中傷だらけだね
棘があることを
忘れていたわけじゃない
流れる血で思い知るのよ
痛みも知らずに
君を愛そうなんて
無理な話だと

 

 

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