君に抱かれて女になりたい

「skaters」

彼らは迷うことを知らない
車輪は
心地よい響きと共に
タイルを駆け抜け
やがて
跳ね上がる
まるで
太陽を目指すかのように

 

 

君を愛して
女になりたい
君と出会って
女になりたい
君に抱かれて
女になりたい

 

 

「IT」

夜がもっと長くて
暗く
優しかった時代に
今の私と
同じ年だった君には
きっと涙みたいな血が
流れていたのだろう
今の私が
自分の血をそうだと疑っているみたいな
透き通ってなまあたたかい血
そして
君もやっぱり
誰かを愛していたのだろう

 

 

「溺」

いっそのこと
このまま死んでしまえれば―

だけど
夢とか希望とか
ありきたりな浮力が
私に働いて

いつまでも
現の中を
泳ぎ続ける

 

 

「AR」

ぼんやりとしていない
確かな確かな
不安を抱いて
私は
生きるための薬を飲み込む

 

 

「愛に飢える」

くちびるが
どうしようもなくどうしようもなく
渇いて
くちづけをせがみます

あのひとは
私のものではないのだと
宥めても
「その前に いまだ という言葉が
つくのでしょう」

聞く耳を持たない

いいえきっと一生
あのひとは
私のものにはならないでしょう

そう言うと
ようやく落ち着いたので
今度は私が
些か申し訳ない気持ちになりました

それならば
せめてあのひとの好きな
フランスのお茶でも淹れましょう

くちびるは
黙ってそれをすするので
これをあのひとが好きだというのは
私の憶測に過ぎない
ということを
ついつい私は飲み込んで
フランスのお茶で流してしまう

渇いているのは私の方です
飢えているのは私の方です

 

 

「KM」

つまりはこの重さ の
檸檬をおなかに乗せて
私は本になる

あの人の
腕に抱かれるのなら
それでもいいやと
思った病床

 

 

「秋の長雨」

一晩で降り積もって
あたりいちめん
真っ白に覆う
冬の雪

目に見えない姿だけれど
あたりいちめん
確実に潤す
春の霧雨

雷とともに現れて
あたりいちめん
虹でなぐさめる
夏の夕立

雨はまるで
君みたいだと
言い続けてきた私を

今夜こそ
この雨のように
長く激しく
愛して欲しい

 

 

「マナー」

たくさんの
ナイフやフォークを前に
たじろいでいるのなら
他の道具を使えばいいだけのこと

自分に合ったもの
使い易いもの

そこにはルールなんてないのだから

好きだと伝えるのも
同じこと

フルコースにしろ
君にしろ

要は 食ってしまえばいいのだから

 

 

空よ
あなたの悲しみを
木々が受け取る

あなたの涙がかれても
その悲しみにふるえ
木々はまだ涙を流す

君が悲しいと
私も悲しいように

けれど木々は
その涙が
恵みだと知る

空もまた
晴れ間を見せる
虹色の微笑をたたえて

 

 

「DO」

「生まれてきてすみません」
迷惑ついでに
あの人の胸に身を投げよう

いつまでも
いつまでも
波紋が広がるほどに

 

 

「オニヤンマは低空飛行」

青く澄み渡った空の
ずっとずっと下
触れそうで触れぬ
地面の上
せわしなく飛ぶ
オニヤンマ

この世に澱む
何をお前はすするのか

その名の通り
鬼が好むもの
即ちそれは
倦怠 怠惰 惰性 性欲 欲情

ほら
この世のよどみで満身創痍の
お前の体は
警告の色をしている

だけどこの世には
その色に魅せられる者が
多くいるのだ

 

 

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