ある晴れた日 |
今日はいい天気だ。 髪を梳く風にふと足を止め上を見やると、相変わらず桜の木が校門内に枝を並べていた。 まだ満開ってわけじゃないけど、もうだいぶ花を咲かせている。 久しぶりに見る学校の桜が懐かしくあたしは思わず見とれていた。 今日は三月一日。 ここにくるのはもう1年半ぶりくらいだろうか……。 ・ ・ ・ いつのまにか辺りに人は居なくなっていた。。 いけない、どうも遅れてしまったようだ。 あたしは慌てて胸に抱いた大切な宝物と一緒に卒業式と書かれた門をくぐった。 体育館の扉は閉まっていた。やはり式は始まってしまったようだ。 『卒業式に参加して欲しい』 そんな誘いに応じ来たものの、やはりどこか参加しづらかったあたしはすこしほっとしていた。 それでもせっかくこんな時間に来たのだからと思い、横手にある桜の木の下で式の様子を聞いている事にする。 桜の木をながめ、もれ聞こえる卒業式の様子をぼんやりと聞く。 そんな風にして久しぶりにゆっくりした時を過ごしていると、ふとあの日の事が思い出された。 あの日。 あたしは悠利のことを聞きたくて栞を屋上に呼んだ。 でも栞は泣いてあやまるばかりで答えちゃくれなかった。 なんだかこっちが悪いことをしてるみたいで、あたしは聞き出すのをあきらめた。 なぜかすこしほっとしながら、栞をその場に残し学校を出た。 あたしもずいぶん甘くなったもんだ。 少し自嘲気味にそんな事を考えながらとくに目的もなく歩く。 ふと気が付くといつのまにかまた悠利と初めて会った場所に来ていた。 あの事件以来とりまき達はいなくなり、悠利も修学旅行のときどこかへ消えてしまった。 一人になってしまったあたしは最近よくここにきていた。 ここは、からまれていたあたしが悠利に助けられた場所。 ここにいればあの日みたいにまた悠利がきてくれるような気がして…… 一人になっちゃったあたしをまた助けてほしくて…… 当然悠利は来てくれなくて、それでも悠利をまつためにここに来る。 毎日をそんな風に過ごしてる。 あたしの時間は修学旅行の時に止まったままだった。 足音が聞こえふと我に返ると誰かが近づいて来ていた。 いつのまにか滲んでいた涙をあわててぬぐいそちらを見てみると、来たのは御門と高原だった。 「どうしたんだよ、こんなとこきて。なんかあたしに用でもあるのかい?」 あたしはわざとはすっぱに声をかけてみた。泣いてたことに気付かれたくなかったからだ。 しかし二人はそんなことに気付かない様子で話し掛けてきた。 「ああ……話があるんだ」 「本当はまだためらってもいるのだけど、あなたにはやっぱり知る権利が…いえ知って欲しいと思って……」 「え、なんの事だい?」 「今日、栞から話をきいてな……やっぱり話しておくべきだとおもったんだ…… アイツの……杵築のことをな……」 「…………」 あたしは戸惑っていた。 確かに昼間栞にはそう言ったけど本当に教えてもらえるとは思ってなかった。 それに栞の態度で、悠利がもう生きていないってことはなんとなくわかっていた。 だからそれをはっきり告げられるのが怖くもあった。 ……違う、ほんのわずかな希望にすがっているあたしはそれがなにより怖かった。 だからあたしは断った。 「いいんだよ、そのことはもう。じゃあな、あたしは帰るよ……」 そう早口に言い捨ててあたしは二人の間をすり抜けた。 「えっ、おい……」 あわてて御門は止めたけど、そのままあたしは帰るつもりだった。 なんと言われようとも立ち止まるつもりはなかった。 でも高原の言葉はあたしの足を止めるのに十分だった。 「まって。辛い気持ちはわかるけど、でも聞いてもらいたいの。 あなたがお腹の子供と一緒に明日に向かって生きていけるように……」 「っ?…………」 そのことはだれにも言っていなかった。 家族でさえ知らないことのはずなのに…… 怒りにもにた感情を覚え、あたしは振り返って睨みつけた。 「ごめんなさい……偶然知ってしまったの……でも、だからこそ聞いて欲しいと思ったの……」 申し訳なさそうにしている高原をみて一時の激情は収まっていた。 でもまだ迷っていた。 「そんな……そんなこといわれたってさ……」 「あなたが何を怖がってるのかはわかるわ。 辛い思いをするだろうってことも。 でも、それ以上にこのままじゃいけないっておもうの…………」 そう…か、そうだよね。それを知らなきゃ歩き出せないか……。 真実を知るのは怖いけどこのままじゃ立ち止まったままだよね……。 あたしは一人じゃなかった。 おまえと一緒にいるんだもんね。 おまえのためにもあたしは強くならなきゃ……。 あたしはしばらく考えてから言った。 「ごめん…取り乱して…聞くよ。ううん、教えて。悠利のことを……」 今までのやりとりを黙って聞いていた御門はその言葉を聞いて話し始めた。 「そうか……ありがとう。 ・ ・ これから話す事はにわかには信じられないかもしれない。でもどうか最後まで聞いて欲しい…… ……始まりは平安の時代。俺達はそこで出会った。 全てはそこから始まったんだ……」 そしてあたしは知らなかった全てを知った。 "悠利はもういない" そして二人に告げた。 |
作品解説 これ、そもそもの初めはチャットの会話から生まれました。 会話の詳細は省くけど、このとき”高杉は既に杵築の子供を身ごもっている”っていう設定を思い ついたんです。 で、その後「久遠の絆」のアンソロジーコミックに載っていた高山瑞穂さんという方の「悠遠の響」 という作品を読んで、上記の設定と作品の設定が結びついて完成した訳です。 故にSSの設定とかは高山さんの作品のを借りてます。 実は子供の名前にも元ネタがあって、ヤングジャンプで連載してた「孔雀王」がそうです。 盗作ってつもりは無いんですけど、「けしからん」っていう方居ましたら、その旨メールなり掲示板で 言って下さい。 公開の中止を検討しますので。 |