三苫浩輔『物語文学の伝承と展開』その他
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 【書誌】
 発行年月日 平成十九年十月十日
 発  行 所  鰍ィうふう
          B6版 445頁



 民俗学の知識と方法を駆使して、文学作品の基層に迫り、そこから「読み」と「解釈」を展開して見せる。それが、筆者の一貫して採用してきた方法であり、筆者の論考の魅力となっている。
 方法は、時代や地域の制約を受けず、例えば「物怪物語と沖縄霊異記」(平成十一年五月 おうふう)では、『源氏物語』を始めとする平安朝の文学と沖縄の伝承とが、考究の場を共有している。
 物語文学の研究家として知られる筆者に、異色と言っていい「至情ー「身はたとへ」と征った特攻隊員」という著作がある(平成十七年一月 元就出版社)。吉田松陰の遺詠と歌の第一句を同じくする特攻隊員の遺詠を扱ったものである。こうしたモチーフの取り扱いにも、既存の“専門”の領域に拘らない、筆者の研究姿勢が示されているようである。
 この度上梓された「物語文学の伝承と展開」は、主に近代の作品を論じた「第一部 母と子と犯す国津罪の文学」と、「第二部 源氏物語論稿」とより成る。両者を一書として、文学をカテゴリー化する筆者の主体性は、ここでも貫かれている。第二部では少し後退するように見えるが、本書の主題は、「国津罪」への関心に関わる。それは「母と子と犯す」男の“罪”である。
 谷崎潤一郎『夢の浮橋』、川端康成『千羽鶴』などへの考察に交じって、「芥川龍之介偸盗の非道の物語」の一節が設けられている。『偸盗』は、芥川作品の中でも評価が低く、研究対象になることも少なかったのではないかと思われる。しかし、温気に平安京の街全体が腐敗していくような描写が印象的で、個人的には最も好きな作品の一つであった。本書では、やはり「国津罪」をキーワードに作品を読み解いて行く。このような読み方があるのかと、新鮮であった。