99.07.12 deepgreen 更新履歴 99.07.13 恐れ入りますが、固定ピッチフォントで表示してください。 字句の訂正 組合せ論を使って、アルカンの構造異性体の数を求める方法です。 0.準備 0.0 用語の説明 ・アルカン CnH2n+2という組成の有機化合物 便宜上、n=0(水素分子)も含めることにする *アルカンの大きさとは、アルカンに含まれる炭素原子の数とする *大きさNを持つアルカンの構造異性体の数をB(N)と表記する (表記例) 炭素の結合状態のみを表示する(水素は省略) C C | | C−C−C C−C−C−C | | C C 炭素同士の2重結合や、ループはない。 C=C C−C | | C−C グラフ論でいうと、(根のない)木に対応する(目印となるような部分がない) (炭素数に着目した表記) ある炭素に着目したとき、まわりの炭素の数をa,b,c,dとすると これを明示するときは以下の表記をする c | a−X−b | d ・アルキル基 アルカンから水素原子を1つ取り除いたもの 便宜上、n=0(水素原子)も含めることにする *アルキル基の大きさとは、アルキル基に含まれる炭素原子の数とする *大きさNを持つアルキル基の構造異性体の数をA(N)と表記する (表記例) 炭素の結合状態のみを表示する(水素は省略) C C | | −C−C−C −C−C−C−C | | C C グラフ論でいうと、「根のある木」に対応する (水素原子が不足している炭素が目印となる) (炭素数に着目した表記) ある炭素に着目したとき、まわりの炭素の数をa,b,cとすると これを明示するときは以下の表記をする b | −X−a | c 0.1 カラーリング n本(n=2−4)の足を持つヤジロベーを考える。このヤジロベーの足はどの2本 をとっても入れ換え可能とする(つまり、n本の足に順序性はなしとする) このヤジロベーの足をK色のパレットで塗り分ける方法の数をΦn(k)とするとき、 Φn(k)を表す式を求める。 (n=3の例) [カラーパレット] +−−−(1) C1,C2,...Ck | □−+−−−(2) (1),(2),(3)の足にはカラーパレットの中の 支点 | 任意の色を割り当てることができる。ただし、 +−−−(3) C1C2C3とC3C2C1は同じ塗り方である (足は任意に入れ換えることができるので) n=2の場合 ・1色で塗る方法は、 k通り ・2色に塗る方法は、(C1C2とC2C1の区別はないので)2色を選ぶだけ kC2 = k(k−1)/2通り 従って、 Φ2(k) = k + k(k−1)/2 n=3の場合 ・1色で塗る方法は、 k通り ・2色に塗る方法は、ある足の色の選びかたは k通り 残りの足2本の色の選びかたは (k−1)通り 全体としては k(k−1)通り ・3色に塗る方法は、kC3 = k(k−1)(k−2)/6 従って、 Φ3(k) = k + k(k−1) + k(kー1)(k−2)/6 n=4の場合 ・1色で塗る方法は、 k通り ・2色に塗る方法は、(1,3)に塗る場合と(2、2)に塗る場合がある (1,3)に塗る場合 ある足の色の選びかたは k通り 残りの足3本の色の選びかたは (k−1)通り 全体としては k(k−1)通り (2,2)に塗る場合 2色の色を選ぶだけなので kC2 = k(k−1)/2 ・3色に塗る方法は、2本の足に塗る色は k通り 残りの2本の足にぬる2色の色を選ぶ組合わせは(k-1)C2 全体としては k(k−1)(k−2)/2通り ・4色に塗る方法は、kC4 = k(k−1)(k−2)(k−3)/24 従って、 Φ4(k) = k + k(k−1) + k(kー1)/2 + k(k−1)(k−2)/2 + k(k−1)(k−2)(k−3)/24 0.2 重心 アルカン構造体は、目印となるような特異点がないので、数え上げが困難となっている。 以下の定義の重心をアルカン構造体の目印として考える。 (重心の定義) ある点Xを基準としたとき、上下左右にある炭素の数をa,b,c,dとする。 一般性を失うことなく、a>=b>=c>=dと仮定できる。 アルカン構造体の重心とは、aが最小となるような点Xと定義する。 たとえば、以下の構造体では、C4が重心である。 C3 | C1−C2−C4−C7 | C5 | C6 (重心となる為の条件) c a2 c | | | a−X−b ====> a1−Y−−X−b | aを詳細化 | | d a3 d ただし、a>=b=>c=d a1>=a2>=a3 とする aの最右端の点をYとすると、Yを基準とする最大のノードは、X,b,c,d によって構成されるはずである。Xが重心であるためには、aが最小でなければな らないので、a<=(1+b+c+d)が成り立たつことが必要である。 (1)a <(b+c+d+1)の場合 Yは重心とはなり得ないので、重心は点Xのみである。 (2)a = (b+c+d+1)の場合 Yも重心となるので、重心はX,Yの2つが存在することになる。(第3の 重心は存在しない)この場合、(炭素の数の観点から)左右のバランスがとれ ている事を意味しているので、X,Yの中間に仮想的な点Z(炭素は存在しな い)を考えて、Zを仮想重心とする。 (アルカン構造体の分類) 以上により、アルカン構造体が与えられた場合、ただ1つの重心(or仮想重心)を 定めることができることが判明した。 言い換えると、大きさNのアルカン構造体は重心を基準とすることによって重複なく 分類できることになる。重心をヤジロベーの支点とみると4本足または2本足のヤジ ロベーとなる。 (1)a <(b+c+d+1)の場合 (2)a = (b+c+d+1)の場合 +−−− a | X−+−−− b Z−+−−− a 支点 | 支点 | +−−− c +−−− a | +−−− d (重心の位置の決定) この話は構造異性体の数を求める話とは関係ないが、一応説明しておく。 任意の点Xを選び、a,b,c,dを求める。a>(b+c+d+1)ならXは 重心ではないので、aの中の最右端Yを新たなXとして上記の手順を繰り返す。 a<=(b+c+d+1)となった時点で終了する。 1.アルキル基の構造異性体の数 − A(N) アルキル基を下図のように、より小さなアルキル基の結合したものと考える。 C C C C | | | | −−C−C−C−C ===> −C−C−C | | | | C−C−C C C−C−C C | | C C この例の場合、大きさ11のアルキル基が、それぞれ5、4、1の大きさのアルキ ル基に分解されている。 大きさa,b,cのアルキル基から構成される大きさNのアルキル基の構造異性体 の数をA(a,b,c)で表すことにする。 b | N = a+b+c+1 −−X−a ただし、 a>=b>=cとする | c これは、Xを支点とする3本足のヤジロベーであるから、A(a,b,c)は、3 本の足をそれぞれ A(a),A(b),A(c)のカラーパレットで塗る場合の数 に等しいことになる。a≠bの場合、A(a)とA(b)は全く別のカラーパレット と考えられる。a=bの場合は、同じカラーパレットである。A(a,b,c)を 求めるには、a,b,cの異同に着目する必要がある。 a=b=cの場合 n=3、k=A(a)のヤジロベーの色塗りであるから、Φ3(A(a)) a=b,b≠cの場合 a,bの部分は Φ2(A(a))となる。cの部分は A(c)であるから 全体は、Φ2(A(a))A(c) a≠b,b=cの場合 aの部分は A(a)。 b,cの部分は Φ2(A(b))であるから 全体は、A(a)Φ2(A(b)) a≠b、b≠cの場合 A(a)A(b)A(c) □ A(N)の計算式 N=a+b+c+1,(ただし、a>=b>=c)となるすべての(a,b,c) の組合わせについて A(a,b,c)を計算して累積すればよい。 A(N)= ΣA(a,b,c) = Φ3(A(a)) (a=b=cのとき) +ΣΦ2(A(a))A(c) (a=b,b≠cのとき) +ΣA(a)Φ2(A(b)) (a≠c,b=cのとき) +ΣA(a)A(b)A(c) (a≠b,b≠cのとき) ただし、Σは、N=a+b+c+1,a>=b>=cをみたすすべての a,b,cの組合わせについての和とする Φ3、Φ2は、準備のところで定義した関数である 2.アルカンの構造異性体の数 − B(N) 既に準備のところで述べたように、アルカンの重心をヤジロベーの支点とすると 4本足 or 2本足のヤジロベーとなる。足の部分は、大きさがa,b,c,dの アルキル基となっている。 既に、大きさNのアルキル基の構造異性体の数A(N)は求めることができたので これをもとにB(N)を導くことにする。 (1)a <(b+c+d+1)の場合 +−−− a | X−+−−− b 支点 | +−−− c | +−−− d 大きさa,b,c,dのアルキル基から構成される大きさNのアルカンの構造異性体 の数をA(a,b,c,d)で表す。 a=b=c=dの場合 n=4、k=A(a)のヤジロベーの色塗りであるから、Φ4(A(a)) a=b=c,c≠dの場合 a,b,cの部分は Φ3(A(a))となる。dの部分は A(d)であるから 全体は、Φ3(A(a))A(d) a≠b,b=c=dの場合 aの部分は A(a)。 b,c,dの部分は Φ3(A(b))であるから 全体は、A(a)Φ3(A(b)) a=b,b≠c,c=dの場合 a,bの部分はΦ2(A(a))。 c,dの部分は Φ2(A(c))であるから 全体は、Φ2(A(a))Φ2(A(b)) a=b,b≠c,c≠dの場合 a,bの部分はΦ2(A(a))。 c,dの部分は A(c)A(d)であるから 全体は、Φ2(A(a))A(c)A(d) a≠b,b=c,c≠dの場合 上記と同様であるから A(a)Φ2(A(b))A(d) a≠b,b≠c,c=dの場合 上記と同様であるから A(a)A(b)Φ2(A(c)) a≠b,b≠c,c≠dの場合 A(a)A(b)A(c)A(d) (2)a = (b+c+d+1)の場合 Z−+−−− a 支点 | +−−− a N=a+b+c+d+1であるから、N=2aとなる。つまり、Nが偶数の場合 に左右同数の炭素数に分割できる構造のパターンがこの場合である。 これは、n=2,k=A(a)のヤジロベーそのものであるから Φ2(A(a)) □ B(N)の計算 N=a+b+c+d+1,(ただし、a>=b>=c>=d)として、 a<(b+c+d+1)となるすべての(a,b,c,d)の組合わせについて B(a,b,c,d)を計算して累積すればよい。 さらに、Nが偶数のときは、一度だけΦ2(A(N/2))を加算する。 B(N)= ΣB(a,b,c,d) (a<(b+c+d+1)のとき) + Φ2(A(N/2)) (Nが偶数のとき一度だけ) = Φ2(A(N/2)) (Nが偶数のとき一度だけ) + Φ4(A(a)) (a=b=c=dのとき) +ΣΦ3(A(a))A(d) (a=b=c,c≠dのとき) +ΣA(a)Φ3(A(b)) (a≠b,b=c=dのとき) +ΣΦ2(A(a))Φ2(A(c)) (a=b,b≠c,c=dのとき) +ΣΦ2(A(a))A(c)A(d) (a=b,b≠c,c≠dのとき) +ΣA(a)Φ2(A(b))A(d) (a≠b,b=c,c≠dのとき) +ΣA(a)B(b)Φ2(A(c)) (a≠b,b≠c,c=dのとき) +ΣA(a)A(b)A(c)A(d)(a≠b,b≠c,b≠cのとき) ただし、Σは、N=a+b+c+d+1,a>=b>=c>=d かつ a<(b+c+d+1)を満たすすべてのa,b,c,dの 組合せについての和とする Φ4,Φ3,Φ2は、準備のところで定義した関数である 3.その他 □ B(8)の計算例 A(0)−A(4)が既知として、B(8)を計算してみる。 ( A(0)=1,A(1)=1,A(2)=1,A(3)=2,A(4)=4 ) N−1=7をa,b,c,dに分けて、B(a,b,c,d)を計算すると (2,2,2,1) −> Φ3(A(2))A(1) = 1 (3,2,1,1) −> A(3)A(2)Φ2(A(1))= 2 (3,2,2,0) −> A(3)Φ2(A(2))A(0)= 2 (3,3,1,0) −> Φ2(A(3))A(1)A(0)= 3 (4,3,0,0)は、a<(b+c+d+1)が成立しないので対象外 Nは偶数なので、さらに Φ2(A(4))= 10 上記の和をもとめるとB(8)がえられる。 B(8)=18 □ 参考資料 「組合せ論入門」G.ポリア、R.E.タージャン、D.R.ウッズ著 近代科学社 「アルカンの構造異性体の組合せ論的数え上げ」入谷寛先生の論文 (http://cssjweb.chem.eng.himeji-tech.ac.jp/jcs/v5n2/a3/abstj.html)