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2011年5月24日
東京電力株式会社
取締役会長 勝俣常久 殿
前取締役社長 顧問 清水正孝 殿
静岡県沼津市岡一色501
市民文化の会・沼津
公開質問状

 3月11日の事故発生から2ヶ月以上が過ぎても,東京電力福島第一原子力発電所は悲惨な状況にあります。日々の発表によると,終息への道はますます目的から遠ざかりつつあるように見えます。工程表に沿って冷温停止を目指すのは至難の技と思います。廃炉が完結するまで,20年も30年もの時間がかかると言われています。恐らく,あなたがたお二人がご存命のうちに全ての問題が解決することはないでしょう。ご心労を察します。
 さて,今回の事故では,当該原子力発電所周辺のたくさんの人々が突然待避を迫られ,いつ戻ってくることができるのか目処が立っていない状態です。福島は東京電力のサービスエリア外です。発電所からなんの恩恵も受けていないにもかかわらず被害のみを受けた地域の人々の苦しみを思うと,息苦しくなります。ある日突然住み慣れた土地を立ち退くようにと言われるのはどれほど苦しいことでしょうか。農業や自営業で暮らす人たちにとってこれは,生業をも捨てるということを意味します。家族がばらばらになり,避難所を次々と移らなければばらならないなんて,想像を絶します。
 今回の事故ではまだ死者がでていないという言説がありますが,間違いです。地震と津波直後にまだ息のあった被災者が見捨てられなければならない状態に置かれました。すぐに駆けつければ助かった人も多かったに違いありません。遺体の捜索さえずっとできない状況でした。また,原発の南西約4キロにある双葉病院(福島県大熊町)の患者の皆さんのうち,約45人が避難中や避難後になくなったとのことです。事故さえなければ,これらの人々が命を無くすことはなかったでしょう。
 東京電力福島第一原子力発電所は,約10万人の人々に塗炭の苦しみを与えつつあります。東京電力を代表する方々として,お二人が怨嗟の対象となるのはやむを得ないことです。
 爆発によって死の灰は,20キロ圏30キロ圏だけではなく,広く日本中,世界中に散らばりました。放射性物質の悪影響には閾値がないと言われています。5年10年と時を経る内に,病におかされる人が増えるでしょう。特に子どもたちは放射線の影響を強く受けます。東京電力福島第一原子力発電所の事故は,現世代ばかりではなく,日本人の次世代を危険に陥れたことになります。お二人にはお孫さんはいらっしゃいませんか。もしもいらっしゃるとすれば,子どもを抱えた両親や祖父母の心配が想像できるはずです。
 4月4日に,東京電力は「低濃度」と称して,大量の汚染水を海洋に投棄しました。原子炉等規制法64条1項に基づくとのことですが,その法律には,汚染水を海洋に投棄して良いとは書いてありません。産業廃棄物の海洋投棄は犯罪です。放射性物質の海洋投棄は,国際法違反ですらあると思います。日本が真に法治国家だとすると,東京電力,そしてその代表者であるあなた方お二人は,きびしくその罪を問われなければなりません。
 大気中や海に垂れ流された放射性物質は,農業や漁業に多大な損害をもたらしました。放射能汚染という事実がある以上,「風評被害」と称して,あたかも消費者に問題があるような言説は許されません。今まさに進行中である放射能による大気,水,農産物,海産物の汚染の原因は,福島第一原子力発電所の所有者である東京電力にあります。
 農産物や海産物ばかりではなく,工業製品の輸出すら影響を受けています。チェルノブイリ事故の際に日本が欧州の物産の輸入に制限をかけたように,外国が日本からの輸入品に制限を設けるのは,自国民を守るという原則からすれば,当然のことです。日本製品,そして日本そのものが国際的信用を失い,輸出が大きなダメージを受けたことの責任も東京電力にあります。
 東京電力福島第一原子力発電所の周囲10キロ圏20キロ圏は,チェルノブイリ周辺にあるような人の住めない地域となってしまうかも知れません。日本は国土を失うことになるのでしょうか。民族主義の立場にある人々が,東京電力,そしてその代表者であるお二人を「国賊」としてののしることも理解できます。
 フクシマの地名は,世界中に知られることとなりました。スリーマイル,チェルノブイリと並んでフクシマが,東京電力の名前と共に世界史に記録されるでしょう。
 原子力発電を推進する人たちは,発電所の安全運転に細心の注意を払うべきでした。なぜなら,重大事故は,原子力発電の推進を大きく阻害するからです。東京電力福島第一原子力発電所の破局的事故は,日本のみならず世界中の原子力発電事業にブレーキをかけることになりました。なにがなんでも,費用がどれほどかかっても重大事故を避けるための準備をするべきだったのです。細心の上にも細心の注意が払われるべきでした。今まで原子力発電所を推進して来た人たちが今回のできごとを無責任にも「想定外の事故」と言うなら,それは自らの敗北を完全に認めたことにほかなりません。故障を重ね耐用年数を過ぎ,本来廃炉にすべき発電所を使い続けたこと,大地震,大津波の到来について警鐘を鳴らす人々の意見に耳を傾けなかったこと,これらの責任は,東京電力の経営トップの位置にいるお二人にあります。
 そもそも原子力発電所は,建設がはじまる前の段階から,地元の人々を推進派と反対派に引き裂きました。反対派に対する不当な圧力と選挙干渉は,目にあまるものでした。電源三法に基づき札束の力で強引に物事を進めようとする姿勢は,決してほめられるものではありません。
 発電所の運転にたずさわる労働者の被曝の問題も重大です。下請け,孫請け,ひ孫請けと複雑な労使関係の中で,末端の労働者は劣悪な条件,わずかな賃金,そして健康を害する恐れのもとで働かなければなりません。今回の事故の終息のために働く人たちすら劣悪な条件のもとにあると報道されています。原子力発電所は,多くの人々の犠牲に基づき,またその犠牲を無視することで今まで続いてきました。こんなことはもう許されません。
 さらに,核燃料サイクルというもくろみは,もはやほとんど破綻しています。高速増殖炉「もんじゅ」はナトリウム事故で14年間停止し,再開したと思ったらマヌケな事故でまた止まってしまいました。試運転することもできず,かといって廃炉にすることもできない状態です。「にっちもさっちも行かない状態」というのは,まさにこのことかと思います。写真で見ると,建物全体が,すでに赤さびて恐ろしいほどボロボロです。
 おまけに,高濃度核廃棄物は,その地中埋設の候補地すら決まっていません。現世代だけが電気の恩恵を受け,次々とたまってゆく核のゴミを次の世代に託すなんて,あまりにも虫の良い話です。処理しきれないこの廃棄物のことを考えれば,原子力発電と核燃料サイクルがすでに破綻していることは明かです。たとえ反対する人がひとりもいないとしても,原子力発電は必ず行き詰まります。早く見切りをつけなければ,負担ますます大きくなるばかりです。
 今回の破局的事故の被害を,東京電力は補償しなければなりません。その総額がどれほどになるのか,事故がまだ終息しない今,見当がつきません。また,どれほど補償したとしても,失われた,あるいはこれから失われるであろう健康と命の補償は,お金ではできません。
 政府がこの事故に対して適切な対応をしたとは,恐らく言えないでしょう。発電所で働く人の累積被曝限度の上限を250ミリシーベルトにあげるとか,非難圏外の学校の放射線限度を3.8マイクロシーベルト毎時に引きあげるなんて,対策とは言えません。このことは,そもそも原子力災害には,そのための事前対策がありえないということを示しています。既存の対策マニュアルはほとんど無力だったし,どれほど綿密な対策を立てたとしても,実行できるものではないでしょう。
 1979年から今日までの約30年の間に,スリーマイル,チェルノブイリ,フクシマと,破局的な原発事故が繰り返されています。どこで起こるかは特定できませんが,次の事故もかならず起こるでしょう。もうこのことを,だれも否定できません。
 さて,そこで,お二人に一点だけ質問させていただきます。

 このような被害,苦しみ,そして不幸にもかかわらず,お二人は,まだ原子力発電は推進すべきものだとお考えですか。

 この質問,そしてお答えは公開させていただきます。お忙しいことと思います。お答えは簡潔なもので結構です。しかし,必ずください。
 今,おそらく大変な苦しみの中にいらっしゃることと拝察しますが,くれぐれもお身体をいたわり,この破局的事故の一刻も早い収束に向けて努力してください。
東京電力からの回答

平成23年6月24目
東京電力株式会社

市民文化の会・沼津 様

 このたびの福島第一原子力発電所の事故により、立地地域のみなさま、さらには広く社会の皆さまに大変なご迷惑とご心配をおかけしておりますことを、心より深くお詫び申し上げます。

 当社は、事態の収束に総力を挙げて取り組んでおり、今後とも持てる力のすべてを注ぎ込み、早期にみなさまのご不安を取り除けるよう努力してまいる所存であります。また、今回の東北地方太平洋沖地震と津波の総験を踏まえ、緊急時の電源確保や防潮堤の設置などの安全確保対策を早急に実施するとともに、非常災害に対するリスク管理体制等について検証を行ってまいります。

 なお、当社は、事故の状況に鑑み、福島第一原子力発電所1号機から4号機の廃止と7号機及び8号機の増設計画の中止を決定いたしました。今後の原子力のあり方等につきましては、事故の調査結果や国のエネルギー政策全体の議論、さらには地域のみなさまのご意見も踏まえ検討してまいりたいと存じます。

以  上
署名なし/印なし

市民文化の会・沼津からの申し入れ書

2011年8月18日
東京電力株式会社
取締役会長 勝俣常久 殿
前取締役社長 顧問 清水正孝 殿
取締役社長 西澤俊夫 殿
静岡県沼津市岡一色501
市民文化の会・沼津
代表者 藤巻謙一
申し入れ書
 2011年5月24日付け公開質問状にお答えをいただきました。原子力発電の今後について,個人としてのご意見がうかがえなかったことがたいへん残念です。
 まずは,御社が置かれている状況を,しっかりと認識されるようお勧めします。
 「福島第一原子力発電所1号機から4号機までの廃止と7号機及び8号機の増設計画の中止を決定しました」とありますが,1号機から4号機までの廃止は,御社が決めて廃止するということではありません。状況がして,それの選択をせざるを得なくしたのです。また実際は「廃止したくてもできない」のが現実です。もしもできるなら,原発敷地を今日にも更地にして見せてほしいものです。福島第一発電所は,1号機から4号機まで,御社の管理下にはありません。せいぜい暴走状態をなんとかくい止めていると言ったところです。廃止もできず,さりとてもちろん再起動することもできません。次々と出来する「事象」に振り回され,どうしようにもない状態に置かれているのが現実です。「循環注水冷却」というような単語には,失礼ながら失笑を禁じ得ません。絶えず注がなければならない水が漏れ,漏れた水を浄化し再利用するというだけのことに過ぎません。そのシステムスすら期待された処理能力に達せず,おまけに発生する放射性物質まみれのフィルターをどうしたらよいか,見当もつかない状態です。「冠水」なんて,格納容器がこわれれいるのですから,できるはずもありません。最近改訂された工程表に「その必要なし」という表現を見て苦笑しました。「不可能だと分かった」が正しい表現です。それどころか,格納容器ばかりではなく,その下のコンクリートにも割れ目が入り,汚染水はきっと海に漏れていることでしょう。御社の作業が綱渡り状態にあることを,しっかり把握してください。
 さらに,核燃料はいったい今どこにあるのでしょうか。圧力容器の下部ですか。それとも格納容器の下部ですか。複数の研究者の指摘にもかかわらず,御社がメルトダウンを認めたのは事故発生から2ヶ月を経てでした。御社原子力部門の無能力(あるいは,真実を隠そうとする悪意)から考えて,燃料はすでに格納容器を突き抜け,地中にあると見るのが妥当でしょう。これをいつ認めるか見ものですが,だとしたら「冷温停止」の状態に持ち込むなんて言うことは,できっこありません。
 福島第一原子力発電所事故の収束には,今後も数十年の時間が必要でしょう。そして,その作業には,当該発電所が作り出したもの以上のエネルギーを必要とすることでしょう。御社の信用と資産は全て無に帰することでしょう。今後数十年間,エネルギーを費やすだけの,徒労とも言えるような,しかしやらざるを得ない仕事に御社は従事することになります。
 あるいは「原発推進は国策だった」と言い訳をされるかも知れません。「国策」が成功したためしはありません。その「国策」に安易に乗った東京電力経営陣は愚かだったのです。この期におよんでもまだ原子力発電を続け,自らの愚かさに気付かないとしたら,はなはだ失礼ながら,もはや救いようがありません。
 原子力発電所は,立地が公表されるだけで,住民を引き裂きます。
 たくさんの労働者に被曝を強います。
 処理のできない廃棄物を大量に生み出します。
 事故が起これば,回復不可能な被害をもたらします。
 そこで,申し入れます。
1.東京電力は,所有する全ての原子力発電所を速やかに停止すること。
2.発電と送電に関するもの以外の事業から,速やかに手を引くこと。
3.発電と送電にかかわるもの以外の資産は,速やかに処分すること。
4.テレビ,新聞などのマスメディアへの広告掲載を,ただちに,一切やめること。
5.福島第一原子力発電所の事故を原因とする被害に,いわゆる風評被害を含めて,完全な補償をすること。
6.福島第一原子力発電所の事故を原因とし,今後起こるであろう住民の健康被害に,完全な責任を持つこと。
以上