坐が決まりましたら次に目の置き所を定めます。顔は正面を向いたまま、眼は約一メー
トル前方を見ます。そうしますと自然に半眼を閉じた形となります。決して眼を閉じては
いけません。
また、口は閉じて上下の唇と歯を合わせ、下を上顎(うわあご)につけます。首筋や肩
の力を抜き、リラックスした状態で息を整えます。この息の整え方は腹式呼吸です。肩で
息をしたり胸で息をするのではなく、気海丹田と呼ばれる下腹、おへその下三寸先と呼ば
れる部分でゆっくりと呼吸をします。
坐禅ではこの呼吸法を数息観(すうそくかん)、髄息観(ずいそくかん)と呼んでいます。
まづ数息観から始めることとしています。
数息観は一から十までの数字を一つ、二つと数を数えるのです。これは息を吐くことから
始めます。その要領は、「ヒトー」と声を出さずに念じながら、腹のなかの空気をすっかり
吐き出すのです。これ以上吐く息がなくなるという状態になったとき、息を吸います。吸
うという意識がなくて自然に吸う状態になったとき「ツー」で外の空気を腹の中に吸い込
みます。引き続き「フター」で吐いて「ツー」で吸います。このようにして「トー」まで
行きましたら、再び「ヒトー」で始めます。これを繰り返し繰り返し続けます。これが数
息観です。
この時、腹の中には、丸い卵が一つあると仮に想像します。呼吸はこの卵の気持ちにな
って、まろやかになだらかにするのです。これを呼吸を調(ととの)えるといっています。
このようにして数息観ができたところで髄息観に移ります。これはとくに息を数えずに、
出入りの呼吸に心を集中、これになりきるのです。髄息観は、呼吸と一体になる方法です。
だいたい呼吸という言葉の呼は息を外に吐く意です。そこで、下腹部の圧力で胸底から上
腹部まで、カラッポになるまで吐くのが呼吸の要領です。多くは逆に吸う方に力を置いて
いますが、これは誤りです。スポイトのように、中の空気を吐き出しますと自然にインク
が入ってくるのと同じです。このように、吐く息は長く、吸う息は短くするのです。