この「金を掴む者は人を見ず、鹿を逐う者は山を見ず」の句は、同じく虚堂禅師の教え
です。この語は同じく「虚堂録」の中に見られます。
 大金をつかもうと一生懸命になっている人は、そばに人がいるのに少しも目に入らない。
鹿を追いかけている猟師はあたりの山がどうであるか、見ているゆとりがない。欲に目が
くらむとたちまちにして洞察力が失われるという教えです。
 一度に大金を手に入れることを「一攫千金(いっかくせんきん)」といいます。濡(ぬ)
れ手で粟(あわ)を掴んだとき、即ち苦労をせずに金を手にしたときは、必ず身を滅ぼし
ます。
 うまい話をもちかけられ、それに乗じてしまいに失敗するのも金銭欲のため目が見えな
くなってしまい、正しい判断力が働かなくなってしまうからです。とかく自分のことに打
ちこむとき、周囲のことを忘れるものです。常に全体の姿を見ることが大切です。「木を見
て森を見ず」といいます。何時も全体の姿を洞察するために、欲のために目が見えなくな
ることのないよう無心になれと説いているのです。何事も幅広い考え方、時と処に合った
行動をとるようにつとめることが大切です。
   枝葉末節 チラチラ見える
        我欲のために 幹見えぬ

 

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