<若き叛逆ジャンプ仮面の悩み>


 オレ、カイン・ハイウインドは今、とても人には言えぬ悩みを抱えている。
 この悩み、オレの繊細な心で独り背負うには重すぎる。かといって、他人にも打ち明けられぬ。
 そこでオレは、海より深く、宇宙よりも遠大な悩みを、日記というものにぶつけることにした。日記というものは不思議なもの。1枚の紙を自分の考えで埋め尽くす、ただそれだけの行為。本当に、それだけの行為にも関わらず、1文字綴るごとにスーッと心が軽くなっていく。
 この日記、生涯何人にも見せるつもりはない。
 これはオレの、柔らかき心の証、秘めた心の形だ……。


   ☆月○日 曇り −エンディングから1年数ヶ月後のある日−

 あー。オレは日記というものなど、生まれてこのかた付けたことがない。文章を書くことも苦手だ。竜騎士隊の日誌を埋めることに丸三日を費やしたことがあるくらいに。よって、多少の誤字脱字や、文の乱れは許して欲しい。いや、こんなことを書くこと自体、変な話か。この日記を他人に見せるつもりなど、毛頭ないのだし。

 まあよい。とにかくだ。

 オレは今、試練の山で修行をしている。
 成果は出ている。
 レベルはつい先日99に達した。最大HPも9999。因みに装備はドラゴンメイル、ドラゴンシールド、ドラゴンヘルム、ドラゴンの小手。そして、武器はホーリーランス。必要最低限のアイテムを所持している。この辺りの敵では、今のオレに大きな傷を与えることはできない。非常に残念だ。

 はっ!

 いや、別に、これは、その! 単に弱すぎて修行にならないから、残念だといっているだけだぞ。オレはサディストでもマゾヒストでもないからな……! 勿論、マザコンでもファザコンでもなければ、ブラコンでもシスコンでもない。ショタコンでもなければ、ロリ……。
 あ、いや。うん。

 今日はこの辺りで筆を置こう。続きは明日書く。


   ☆月○+1日 晴れ −ようするに次の日−

 今日は良い日だ。
 天気も良いが、それより何より。
 彼女に逢えた。
 だから、良い日なのだ。

 オレは今、人生の悦びを噛みしめている。
 彼女は、双子の弟を伴って、薬草を届けに来たのだ。
 勿論、一人で来てくれたほうが嬉しい。だが、未来のおと……いやいや、それはさすがに気が早いかな……早くないかな。まあ、ともかく彼女の家族と親睦を深めることも大切だからいいじゃないか、と自分を無理やり納得させる。
 近頃は傷を負うことも少なくなり、薬草も、彼女の治療も殆ど必要なくなった。逢う機会も自然減り、たいへん寂しく感じていた。今日逢えて、本当に嬉しかった。

 いや、だから、それでだ。

 昨日は日記に綴ることするできなかった我が悩み。今なら、今なら、彼女の心のように真っ白いこの紙に、打ち明けることができる気がする。

 オレには、愛する娘がいる。
 念のために言っておくが、ローザではないぞ。あれは、過去のことになっている。
 では、誰なのかって? それは……。
 麓のミシディア村で白魔道士を目指すうわ若き少女。
 オレたちが月の地下渓谷で生死を賭けた過酷な戦いを強いられていた時、必死に祈りを捧げてくれた、清らかな乙女。
 彼女たちの祈りが、願いが、オレたちを勝利へと導いてくれた。戦いの、影の功労者である少女だ。

 ローザへの恋の花は、儚くも散った。
 失恋の傷を抱えたオレが、また違った雰囲気を持つ少女に惹かれるのは、当然の成り行きだったのかもしれない……。彼女がローザと同じく白魔道を修めるもの、というのは、なんともいえない運命の皮肉だが。

 彼女は現在、戦士と共に戦う白魔道士として修業中だ。数年後には賢者テラをも凌ぐ白魔法の使い手となることは、間違いない。これは愛ゆえの盲目などではない。あの双子は、本当に素晴らしい才能を秘めているのだ。それは、万人が認めるところ。
 素晴らしいのは、才能だけではない。容姿も素晴らしく愛らしい。彼女は間違いなく美女になる。成人の暁には、彼女を手に入れるため、国一つ滅ぼす憐れな男が出現しても不思議ではないほどに、可憐で優雅な花となることだろう。

 オレは、その彼女と釣り合う人間たろうと努力した!
 賢者と共にあるだけの力も得た。
 ローザへの想いが届かなかった最大の原因であろう無粋な仮面も外し、美しき素顔を露にした! 
 確かに外したばかりの時は日焼けの後もくっきり……ここだけの話、パンダさんのようだった……で、とても見られたものではなかった。だが、今は! 彼女と並んでもヒケはとらないくらいの外見の筈!! 

 ああっ、だのに何故! これだけ努力しても、何故に、何故に年齢の差だけはいっこうに縮まないのだ!!
 オレはロリコン野郎エッジとは違うのに!
 いや、待てよ……。
 そうだエッジ!!
 エッジは若く見えるが、確か27歳の筈……。そしてリディアは、老けて見えるがまだ8つだ。
 その年の差といったら、何と19!
 オレは今22で、マイ・ハニーポロムは6つ。
 その差は、たったの16!!
 そのくらい、エッジとリディアの歳の差に較べたら! ないに等しいではないか!!

 ああっ。オレは今のいままで、何を悩んでいたのだろう。日記を書いてみてよかった。頭の中を少し整理するだけで見えてくる単純なことを、人に相談などしていたら、笑われていた……。

 ……。
 ……そうだ!
 そうとなれば、前は急げ!
 早速、彼女に我が想いを伝えようではないか!
 いますぐだ、いますぐ! 

 修行の効果によってパワーUPした我がジャンプ力ならば、ミシディアと試練の山の頂上に、距離なんてないに等しいのだ。

 よし、行こう!
 ……と思ったが、やめておこう。
 きっとマイ・ハニーポロムはもう寝ている。子供は寝る時間だからな。
 うーん。どうしようか。
 ちょっと早いが、オレも早く寝て、明日に備えるとしようか。
 彼女は、逃げはしないのだから……。
 マイ・ハニー。夢で逢えるといいね。


−カインが眠りに落ちた時分−

「おっかしいなぁ、ここに忘れたんだと思ったんだけどなあ」
「ばっかねぇ。明日提出の宿題、やってあったんでしょう? そのノートに」

 夢の中。
 マイ・フォーエバー・スウィート・ハニーの声が聞こえる。
 彼女の似顔絵を枕の下に置いたから、だろうか。彼女への想いばかりを綴った日記を手にしたまま、眠りに落ちたから、だろうか。
 本当に、夢に出てきてくれた。

「あっ! カインのあんちゃん、もう寝ちゃってら。子供みてーだな」

 馬鹿弟まで付属しているのは気に入らないが、まあ、ポロムが出てきただけで満足するとしよう。贅沢を言ったら、キリがない。

「シッ! きっと疲れてらっしゃるのよ。そっとしておいてあげなさい」
「わかってるよ」

 ああ。マイ・ハニーは、夢の中でも優しいな。
 起き上がり、声をかけたい。でも、そしたら、儚くも夢から覚めてしまいそうで、怖い。臆病なオレを許しておくれ、ポロムよ。

「あ、ねえ。あのノートじゃない? カインさんが握って寝ている……」
「あっ、本当だ!」

 夢の中で、馬鹿弟が、オレの手から日記を剥がした。頁を捲る。

「ね、ね、姉ちゃん……これ……カインのあんちゃんの日記みたいでさあ……」
「え? そんなもの、読んだら駄目じゃない!」
「いや、でも、これ……読んだほうが、いいよ。姉ちゃん……」
「な、何よ。青い顔をして……気になるじゃないの」

 2人はオレの想いを知り、打ち震えているようだ。

「……パ、パロムぅ〜」
「姉ちゃん。僕が姉ちゃんを護るよ」
「うん……」
「……」
「……」

 二人は、何事かを耳打ちしあい、そそくさと山を降りていった。

『また、明日……な』

 オレは口の中で呟き、その慌しい後ろ姿を見送った。
 これは夢の話……。

   ☆月○+2日 雨 −カインの日記は三日坊主−

 現在、午前5時ジャスト。
 オレの胸は、最高に高鳴っている。
 こんな経験は生まれて……2度目だ。
 時間の経過が、やたらに遅い。
 今すぐ彼女の元へ行って、想いの丈をぶつけたい。
 ああ、マイ・ハニーポロムよ。早く目を覚ましておくれ。
 君の起床時間はちゃんと知っているけれど。
 君の安らかな眠りを、破りたくはないけれど。
 ああ、でも、オレは……! 
 1分、1秒だって、もう……待ちたくはないんだっ!
 だが、彼女の迷惑には、もっと、なりたくない……。

 くぅ。

 彼女の起床時間まであと10分、あと10分だっ!
 花も用意した。髪もバッチリセットしたし、オレが一番よく似合う……君もそう言ってくれた、ドラゴンの装備で決めている。
 鏡替わりの水面に、オレの顔を映してみる。

 ああ、今日もいい男だ。うっとり〜。

 うん。こんなにいい男なんだから、大丈夫! 上手くいく! だから、言えるさ。よし、言える。
 言えるぞ、結婚してください。うん、言える。大丈夫だ……。

 ああっ、あと1分!

 オレは、ジャンプするための助走に入る。
 続き……結果報告か……? は、また後で書くとしよう。

−1時間経過−

 何故だ! 何故なんだ! 何故マイ・ハニーポロムは、オレが行くまで待っていてくれなかったのだ。

 パロムと、パロムと共に、修行の旅! だとぉ〜〜〜〜〜。

 ガキの分際で、生意気なり、パロム。マイ・ハニーを攫うも同然に連れて行くとは! 修行の旅なら、一人でいけ! 姉を撒きこむな!
 大体、手紙を一つ置くだけで、真夜中に出ていった……だとぉ。
 それでは、それではまるで、駆け落ちで……は……。

 はは。まさか、な。

 いくら可愛いとはいっても、姉だ。しかも、双子の……。近親相姦に留まらず、ナルシストにもなるぞ!

 だ、だが……。

 あの、変態そうなガキなら、ないことではないかも知れぬ。合意の上の駆け落ちはありえないが、修行なのだと、言葉巧みに誘って……騙して連れて行くことは、あるかもしれない!

 おのれっ!

 あんな奴に可愛いポロムを渡してなるものか……!
 覚悟するがよい、パロム! 
 地の果て……そう、幻界までだって、追っていくぞっ!
 それまで、ポロムよ……どうか、無事でいてくれ……っ。

 と、いう訳で、これからのオレはパロポロ姉弟捜索のため忙しくなる。よつて、日記など書いている暇はなくなった。

 結局、たったの三日。

 だが、よい経験だったと思っている。
 それでは。
 サラバだ! トウッッ!!

お・し・ま・い♪

 アホな話ですみません〜〜。
 因みに、これ書いたのは、FFX辺りがSFCで人気だった頃……な気がする(うろ覚え〜)。多分Yが発売される前だ。うわー、何年前!? 載せるにあたって、加筆修正……するにはしましたが、なんせ、用語をきれいさっぱり忘れている。よって、間違えあっても、わからないぃ(死)。直しようがない〜。
 つーわけで、ツッコミは不可(逃げっ)!

 

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