何故タイトルが「ミス・サイゴン」なのか

 「ミス・サイゴン」は意訳すると「逃避の夢のはじまり」になると思います。

  ミス・サイゴンはエンジニアが仕立てたクイーン。ぼろい商売で、とても儲かったらしい。これが切欠で、エンジニアはアメリカンドリ〜〜ムっつー、アメリカに行けば成功できるという過剰な自信と夢を抱いたのです。その前から、アメリカでの暮らしは夢見ていたかもしれませんが、手に入れられると思い込んだのは「ミス・サイゴン」がきっかけなのだと思います。
 同時に、キムの夢のはじまりでもあると思います。
 アメリカに渡って、平和な暮らしをする。その夢の芽は、もともとあったのでしょう。その夢が現実みを帯び、うっかり成長してしまったのは、ミス・サイゴンコンテストに明け暮れるエンジニアのバーに行ったから。そしてそこで、クリスと会ったから。
  人間は、「もの」というのは一旦手に入れた気になると、手に入らないと思っていた時より、さらに欲しくなるものなのです。オークションとかに参加すると実感できそうな感じですね。ちょっと興味があったものが、すごーく欲しくなっちゃうのですよ。
 そんなワケで、エンジニアはそこそこ成功したことにより、キムはクリスから言質を取ったことにより、アメリカンドリームに深い部分で絡みとられてしまうのです。
 だから、ミス・サイゴンは夢のはじまり。物語のはじまり。不遇な運命のはじまり。

 もうひとつ考えてみる。ミス・サイゴンの乱痴気騒ぎは何のために行われたか。
 現実逃避以外のなんでしょう。
 GIたちは精神的に疲弊している。明日死ぬかもしれない、人が死ぬのをたくさん見てきた。素に戻れば心が深い部分に落ちてしまう。それを、一時の快楽に耽って忘れたい。
 女性たちにしてもそうです。 あいつら口ばかり〜♪ 彼とのニューヨーク♪ お金もある〜〜♪ IGに抱かれて今を逃げよう〜♪♪
 一緒にアメリカに渡る夢と一時の享楽。2つの現実逃避と、生活の糧を得るためにGIに抱かれる女性たち……。やっぱり現実逃避。生活の糧を得ると同時に、ではあるけどね。
 生きていくことのために、現実逃避が必要。男はほんの一時、女は継続して、それが必要。そしてそれを生んだのは戦争。「ミス・サイゴン」が主題なのは、乱痴気騒ぎの意味が物語そのものを象徴しているからなのかもしれません。あのドリームランドでのミス・サイゴン騒ぎの延長にあり、かつめいいっぱい拡大したものが、クリスとキムの関係なのかもなぁ。

 だからそのふたつを統合して、戦争が必要性を生んだ現実逃避の夢がここからはじまっちゃうよーんってことで、タイトル「ミス・サイゴン」。はじまりだけでなく、ラストも暗に示しているかもね。ミスのまま、最後までミセスにはならず、ベトナム人女性として終わるんだよと。キムは結婚したつもりだけど、実際のところ結婚してないんだもんね……(ほろり)。

 あとはミス・サイゴン=ジジが歌う「我が心の夢」が、この物語の方向性を示している、というのもあると思います。映画の夢を探すってね。映画は夢〜〜ってね。ただこれは、まずタイトルが先にあって、あえてミス・サイゴンに選ばれたジジに作品全体を象徴する歌を歌わせたような気がします。

 ようするにあれだ。我が心の夢=アメリカンドリーム≒ミス・サイゴンなんだよ。結局のとこ。

 地名が入ったほうが、何となくわかりやすいってのもあるし、いくら内容に相応しくてもタイトルが「アメリカンドリーム」じゃあねぇ。ちょっとは捻ったのをつけたくなるよねぇ。と現実的なことを言ってみる。このタイトル、すごーくいい感覚でつけたらたなぁと思います。ぱっと聞くと、華やかさが足りんというか捻りなさそうというかなんだけど、それでいてテーマがしっかり込められてる。そーいうの好き。
  あえてミス・サイゴンがキムでないところがいい。とかいいつつ、単にキムのこと言いたいって可能性もゼロじゃないんだけどさ。結婚式の時、どういう意味でかミス・サイゴン! ってお姉さんたちが言っていたし。

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