○●囲碁・「中国ルール」と「日本ルール」 日本と中国の「囲碁ルール」の違い はじめに 本文は、今年(2010年)のアジア大会に於いて、囲碁が頭脳スポーツとして初めて正式競技種目に採用されたのを機会に、碁打ちとして知っておく価値は有るものと思い、記述したものである。 決して両ルールの良し悪しを比較するものではない事を、予めご承知置きの上、一読頂ければ幸いである。 1.寄って立つ基盤 囲碁は、日本では“領土(地)の囲い合い”、中国では“石の生存権の争い”(アマチュア棋界の大御所、故・安永一翁の言。)のゲームとして伝承されて来た。 この原点の違いが、碁盤の目の奇数と相俟って、ルールの違いは基より石の先着価値、置碁に於ける置石の効用等、様々な違いを生じる事となる。具体的には (1)互先に於けるコミの目数の違い。 (2)中国ルールでの先番に於ける黒の有利性。 (3)置碁に於ける黒の有利性。 (4)ダメの価値・マイナス手の有無。 等である。以下順次比較し、まとめてみた。 なお、説明の都合上、目数は「日本ルール」を前提に表現した。 又、調査過程で、HP「中国ルールの勉強」を見付けた。ご参照あれ。 2.ルール上の比較 (1)互先(コミ)の比較(日本ルールの6.5目=中国ルールの7.5目) 「互先のコミは、日本では6.5目なのに、中国は7.5目なんだってね。」 こんな話をよく聞く。 単純に比較すれば、黒番は日本ルールより中国ルールの方が厳しい事になる。果たしてそうだろうか? 結論を先にすれば否、これで対等なのである。どうしてか? −1− 囲碁において、コミとは先着の有利性を対等化する目的で制定されたハンデキャップで、その目数が6〜7目と評価され、日本ルールでは、ジゴを回避する目的も有り、現状6目半と制定されている。 中国ルールのコミは、これに先着価値1目が加わり、7.5目となる。 しからば先着価値とは何か? 碁盤の目数は、何路盤でも奇数である。因みに 19路盤では19×19=361目、13路盤では13×13=169目有る。 ところで中国ルールでは、勝敗は地+残存石数の和で決まる。 故に日本ルールのダメも、中国ルールでは1目の価値を有する。 今黒から打ち始め、順当に終局すれば、最終手番は黒で終わる。 これが先着価値で、この1目が加算されて初めて 日本(6.5目)と中国(7.5目)のコミが等価となるのである。 (2)先番の比較(中国ルールでは日本ルールより、黒が1目有利。) 上述の通り、中国ルールでは、先着価値が加わる事で、先番は 日本ルールより黒が1目有利になる事がお分かり頂けるはず。 (3)置碁の比較 (置石の偶数・奇数で黒の有利性が異なる。) 置碁の場合は、置石の数だけ黒の有利性が加わるが、置石が奇数か 偶数かによって、白の先着価値の有無が異なる。即ち @ 置石偶数の場合(日本ルールより、置石の数−1目黒が有利。) 置石によって盤面の残目数の奇数は変わらず、従って白に先着価値 1目が生じる事によるものである。 A 置石奇数の場合(日本ルールより、置石の数だけ黒が有利。) 置石によって盤面の残目数は偶数となるが故に、白の先着価値は 生じないからである。 (4)マイナス手の有無とダメの価値 中国ルールにはマイナス手が無い。即ち、日本ルールに於いては 自陣に手を入れば地が減る(−1目)が、中国ルールではその分 終局時に残石が増える(+1目)ので、マイナス手は生じない。 同じ理由で、ダメも1目の価値有る事はお分かり頂けると思う。 −2− ところで、中国ルールでは、ダメを全部埋めないと終局とならない のかと言う疑問が残る。 参考迄に、中国囲棋協会の囲棋競賽規則・第7条第1項には 「棋局下到双方一致確認着子完卒時,為終局。」(碁は双方が着手の 終了を確認した時、終局となる。)とある事を記して置く。 なお本文の執筆中、以下のような疑問が生じた事を記述しておく。 @ 中国ルールの先着価値(先番)・置石(置碁)の有利性に対する コミの有無。(無ければ「日本ルール」より上手が厳しい。) A アジア大会での対局中の離席(トイレ、喫煙等)許可の有無。 B 中国ルールでの作り(計算)は立会人が行うのか? C 日中対局では日本・中国どちらの碁石を使うのか? (因みに中国の碁石は「扁円」−囲棋競賽規則・第1条第2項) D 中国ルールで対局中のアゲ石の処理は日本と同様か? E 日本で開催する場合、或いは仮にオリンピック種目に採用される 場合は、どちらのルールを採用するのか? −3− 中国ルールでの終局と計算 1.中国ルールでの勝敗は、白・黒どちらかの盤上の“活石+空地”の 合計目数が盤の総目数の1/2 より多い(勝ち)か少ない(負け)か によって決まる。これを半子計算と言う。 2.従って双方のアゲ石、盤上の死石は生存圏に関係なく、計算過程では 盤外に除外される。 1図・この一団の黒の評価(地ではない事に注意。)は 活石14目+空地3目=17目。白の死石一子は、計算時に除外。 3.尚、実際の計算に当たっては、 2図・このように、全ての空地を黒石で埋めて計算してもよく 3図・このように黒石を削除して、計算し易い空地(×印10目)を作り 残りの石数(7目)と合せて計算(=17目)する事も出来る。
4.競技の進行中は、微妙な所(ダメ、セキ等)を除けば、日本ルールと 変わらない。尚、ここでは紙面の都合上、内容の詳細は省略する。 4図・11路盤での終局直前図。 5図・白1〜9まで、全てのヨセ、空点を打ち終った4図の終局図で 黒△は計算時に盤外に除外され、進行中のアゲ石共々計算外となる。 5.中国ルールには“ダメ”は無く、最後まで交互に打つ事に要注意。
−4− 6.勝敗は白・黒どちらか一方を数えて結果を得る。従って他方は そのまま放置される。 7.公式戦では立会人が数えるが、通常は対局者のどちらかが数える。 尚、白・黒どちらを数えるかは決まっていないようだ。 8.此処では黒を数える事とする。又、白の活石及び空地はなるべく削除 又は動かさず、そのままとして説明する。 6図・終局図(5図)を整理した結果、空地は30目(×印) これを記憶しておく。 7図・次に石数を数え易くする為に、△・◇に有った活石を、それぞれ 黒△・黒◇に移動する。
結果は黒石30目。従って、黒の生存圏は 活石(30目)+空地(30目)=60目となる。 9.ところで、11路盤の総目数は11×11=121目、その半分は60.5目。 10.従ってこの碁は、60.5目−60目=0.5目となり、盤面黒半目負け となったのでした。 中国ルールでの半目負けは、日本ルールでは1目負け。 但し、この碁は中国ルールで打たれた為、双方のアゲ石の数が不明で 日本ルールでの検証が出来ないのが残念。 −5− |