検証・サターン、ドリームキャストのムービーコーデック
(セガ研究会富山大学支部資料)


以下はサターンで主に使用されているムービー形式のリストです。

シネパック(Cinepak)
トゥルーモーション(True Motion)
MPEG1(MPEGカードが必要)
MPEGsofdec(ソフトで行うMPEG伸長)
ルシッドモーション
ゲームアーツ独自形式

シネパック(Cinepak)

サターン創世期から現在まで様々なタイトルで使用されてきた サターンでもっともポピュラーなムービー形式。アニメタッチ の絵柄に比較的有効であると言われている(サクラ大戦は当初 トゥルーモーションの採用も検討したらしいが、アニメ絵に対す る特性の面を考慮した結果、シネパックに落ち着いたらしい)。 基本的に1枚の画像(フレーム)を4×4の領域に分割し、D CT(離散コサイン変換)を使用した圧縮をかける。また、フ レーム間圧縮も行っている。これは前後のフレームの絵柄がよ く似ている場合に、同じ部分はデータを共有してしまい、その 部分のデータ転送をはしょってしまおうというもの。これを使 えば、動きの少ない映像(極端な例は止め絵)などにおいて、 かなりかせぐことができる。ちなみにルナSSSでは、動きの 少ないシーンにおいては、ほとんど圧縮されていない(劣化の 少ない)画像を基準にフレーム間圧縮をかけることにより、高 い画質を維持しているらしい(これは、伝聞なうえにかなりい い加減な記述なので、くれぐれも話半分程度に読んでおくよー に注意して下さい。あしからず)。

一部では悪意を込めて別名「死ねパック」と呼ばれているが、 これはある意味シネパックそのものに対しての濡れぎぬである。 圧縮時のパラメータ設定や素材の特性(全て行程をデジタルで 処理された動画なのか、ビデオ映像からキャプチャーしたもの なのか、など)や圧縮作業にかけられる時間(べらぼうに時間 がかかるのよ、これが)、担当者の持つ技術やこだわり(パラ メータ調整の試行錯誤など)によって画質に大きく差が出るか らである。

以下に挙げたタイトルの中でも良くできているのは、天外魔境 第四の黙示録やルナ・シルバースターストーリーやシルエット ミラージュなどである。天外はフル画面でありながらかなりの 画質をキープしており、評判も上々であった。ルナは多少画面 サイズが小さいが、それまでにあったものよりも輪郭などがし っかりしていて、色ムラもほとんどなく(ただしこれは、デジ タルセルをそのまま圧縮したのも理由のひとつ)、1ランク上 の画質を維持しつつ滑らかな動きも維持(一説によると秒間2 4コマ程度?)している。シルエットミラージュは動きの滑ら かさではルナに少々譲るが、フル画面な上に画質も非常に素晴 らしく、一部ではシネパックであることを疑われたほど。

また、 グランディアプレリュード(体験版)でもシネパックが使用さ れていたが、製品版では別のフォーマットが採用され、画質、 フレームレートともに改善されるそうなので、ここではあえて 詳しく触れないことにする。しかし、これもシネパックである ことを疑われるほどの高レベルを保っていたことは念のために 書いておく。(個人的にはあのまま出しても、全然恥ずかしく ないデキだと思うのだが…。)

また、パンツァードラグーンツヴァイなども良好な結果を出し ているようだ。画面の上下は切れているが、動き、画質も上々 で、ゲームのイメージを良くすることに一役かっていたことは 間違いない。偉いぞ担当者!しかし、いずれにせよ圧縮作業に かけられる期間の長さや、担当者の技術と体力と根性とこだわ り、そして「愛」などが総合的にものを言うのは間違いない。 もっとも、冷酷に物理的かつ現実的なことを言うと、しっかり した開発環境(高速なハードディスクなど)がないと試行錯誤 すること自体が非常に難しいらしいのだが…。

さらに、97年以降にシネパック自体の改良が行なわれたようで、サクラ大戦2やルナ2のムービーは画質が格段に向上している。特に、シャイニングフォースVのオープニングはあの、日本のCGムービーの代表的存在である「リンクス」によって製作されており、秒間15コマであるにもかかわらずその画質、迫力は他のシネパックムービーとは一線を駕す。
なお、このムービー製作時、当初はトゥルーモーションの採用が予定されていたが、リンクスの独自技術による再生ドライバの改良によりトゥルーモーション以上の事をシネパックでやれる事が判ったため変更したらしい。

【使用タイトルの例】
(注):ソフトのパッケージ裏を見れば、シネパックを 使用しているかどうかがすぐにわかります。英語で 「Cinepak for〜」と書いてあるはずです。

RAMPO
クロックワークナイト上巻
(注:福袋中の上巻はトゥルーモーション使用)
パンツァードラグーン
パンツァードラグーンツヴァイ
魔法騎士レイアース
Dの食卓
真・女神転生デビルサマナー
機動戦士ガンダム
機動戦士ガンダム外伝シリーズ
デジタルピンボール・ラストグラディエーターズ
ガーディアンヒーローズ
新世紀エヴァンゲリオン
ナイツ
ラングリッサーIII
サクラ大戦
サクラ大戦2
天外魔境第四の黙示録
ルナ・シルバースターストーリー
シルエットミラージュ
グランディア〜プレリュード〜(ただし製品版では変更される予定)
バロック
ルナ2
悠久幻想曲
悠久幻想曲2nd
レイディアントシルバーガン
シャイニングフォースV.1.2.3

トゥルーモーション(True Motion)

バーチャファイター2やガングリフォンあたりからしだいに採用され始めた方式。じつはこれはセガサターン専用のフォーマットではなく、複数のCPUを対象にしている。例えば Win、マック、はては3DO上ですらも実装可能なのだ(笑)。 そしてたまたま、その中にSH2搭載のセガサターンが存在するだけである。そういうわけで、その気になればプレイステーション上でも実装可能のようだ(ダック社のホームペー ジを見て確認してほしい。ただし英語だけど(笑))。 なにかと理不尽なライバル意識をむき出しがちな、 極右系セガ狂信者の方には、そこのところ早とちりまたはお間違いのなきよう、 あらかじめお願いしておきたい。もっとも、 ここ を見ればわかる通り、ほとんどの場合、サターン用タイトルで使用されているのが現状なのだが…(ぶっちゃけた話、プレステではわざわざ金をかけてまで、TrueMotionを使う理由があまりないということでもある。ハードがやってくれる フォーマットが最初からあるし、それで充分奇麗だし、 TrueMotionはライセンス料もかかるからなあ、というわけだね)。

さて、True Motionは ダック社(DUCK Corporation) によって開発され、最近のサターンではこれを採用したソフトが増 えている。一般には、クッキリしたアニメ絵などよりも、自然画や、 色変化が滑らかなCGなどに適しているとされる。セガはムービー が弱いとされるサターンの弱点を少しでも克服するためにダック社 に積極的に働きかけている模様で、バージョンアップも頻繁に行わ れているらしい。圧縮アルゴリズムなどに関しては技術的な情報は 公開されていないので詳しくは不明だが、DCTを使用していない こと(これに関しては少し疑問が残るが)、フレーム単位の管理が 可能なこと、シネパックよりも圧縮時に設定できる(あるいは「し なければならない」)パラメータが多いこと、DK3/DK4なる サウンド圧縮伸長技術も含まれていることなどが伝えられている。 ついでに言えば、ライセンス料はCD1枚あたり30円らしい(昔 は60円だったとか)。

1996年12月時点での最新版はワープ社の「エネミーゼロ」で 採用された「3.5.1」。ちなみに、コナミ社の「ポリスノーツ」 の開発時にはこのバージョンは間に合わなかったらしい。また、圧 縮効率はシネパックの3/4、モーションJPEG(プレイステー ションがハードで行っている方式)の半分以下らしい。そのためか、 ワープの飯野社長をして「トゥルーモーションのおかげでムービー が倍入った」と言わしめた(この話はどこまで信用していいのかわ からないけど)。なお、1997年11月現在、TrueMotion2.0の存 在もアナウンスされているが、これがサターンに採用されるように なるのか(あるいはされているのか)については不明である。
先日、ドリームキャストの採用が決定したようだが使用タイトルがあるのか、もしくはあったのかは調査中である。

しかし、いいことづくめに見えるトゥルーモーションだが、万能と は言い切れない場合があるようだ。筆者の経験から言うと、ある種 類の色に対して妙に輪郭が崩れるような気がする。ネクロノミコン のムービーでタイトルの文字が妙に汚かったり、バーチャロンのム ービーデモで、各バーチャロイドの赤の部分にブロック状のノイズ が目立つようにも見える。いったいなぜなのかはわからないが、う まく再現できない絵が存在することだけは、確かなようだ。また、 セルアニメタイプの絵柄の場合、輪郭がぼやけがちに思える。その へんはシネパックが優勢なのだろうか。

オススメは、ガングリフォン、エネミーゼロ、バーチャロンなど。 とくにガングリフォンのCGムービーは、知る人ぞ知る日本CG界 の雄「リンクス」によって制作されており、画質自体の良さもさる ことながら、抑えた色調の中にその退廃的な世界観が見事に滲み出 ており、一見の価値がある。個人的には『このガングリフォンを見 習って、画質よりも内容をもっと良くしてくれ!』と他メーカーに 言いたい。俺は個人的には、VF2も、バイパーズも、コップ2も、 ムービーに映像作品としての面白さが足りないと思う。この点に関 しては、ナムコの鉄拳2やソウルエッジ、AC2などに大きく水を あけられていると思う。ストーリーメインの作品でない限りムービ ーはあくまでオマケでしかないのはわかってはいるが、もう少し熱 い内容にしてもバチは当たらないはず。頑張れセガ!なんならリン クスとかビルドアップとかと協力してカッチョイイ奴を作ってくれ〜。

なお、アニメ絵タイプのもので特筆なのがマクロスのムービーであ る。画面サイズはともかく、非常に素晴らしい画質である。とくに、 デジタルセルと3DCGをさりげなく、かつ巧みに組み合わせた新 規制作映像については、サターンであることを忘れさせるほどのク オリティが達成、そして再現されており、広告の「トゥルーモーシ ョンの限界に挑んだ」の言葉に偽りなしといったところか。このよ うに、作り方によっては例えアニメ絵であってもシネパックの平均 的なムービーよりもずっと良いものができる場合もあるということ がわかる。

【使用タイトルの例】

(注):基本的には、ムービー画面に入る前に トゥルーモーションを使用していることを示す ダック社のロゴが表示される。

バーチャファイター2
ガングリフォン
ファイティングバイパーズ
ポリスノーツ
3×3EYE’S
バーチャコップ2
電脳戦機バーチャロン
エネミーゼロ
デジタルピンボール・ネクロノミコン
超時空要塞マクロス〜愛おぼえていますか
同級生2
はるかぜ戦隊Vフォース
Mr.BONES
デビルサマナー ソウルハッカーズ(ただし、戦闘中のエフェクトはシネパック)
仙窟活龍大戦カオスシード
せがた三四郎・真剣遊戯
Piaキャロットへようこそ!2
Withyou〜みつめていたい〜
SONIC-3D.フリッキーアイランド

MPEG1(VIDEO CD)

サターンではあまりメジャーでない方式。なぜなら、再生するにはサターン 本体よりも高いMPEGカードが必要だからである(笑)。もっとも、最近 の新型は定価が18000円になったのだが…。これを採用している勇気あ る(?)ソフトもあるにはあるが、いかんせん値段の敷居が高いので、金が あまっている、あるいはもの好きな人間しか楽しめない。フル画面 (352×240)、30コマ/秒で、画質は家庭用VHSビデオ程度とい うもの。確かに、金を払ったら払っただけの価値はあるとは思うが、普及率 はたかがしれている。オプションハードなんて所詮はそんなものである。家 庭用ハードなんだから、最初から内蔵していたほうが良いに決まっている。 もしMPEGカードが最初からサターンに内蔵されていたらと思うと、ため 息すら出る。でもこれを最初からつけるとなると、べらぼうに高くなるのは 確実なんだよなあ…。

なお、これはムービーとは関係のない話なのだが、最近の動画キャプチャ技術の向上によりセガサターンをビデオCD再生専用機として使っている人もちらほら増えているようである。 特に、潟Aイオーデータ機器の「MPG-BOX/P」「USB-MPG」には、それの添付ソフトでビデオCDを作成する機能があるようで、現に友人がテレビ番組のMPEG化をやった後CD-RでビデオCDを作成、サターンで見るという事をやっている。ビデオテープでとっておくより場所をとらないしMPEGカードによるハード伸張であるため、PCでソフト伸張させるよりも画質が良いとの事を聞いた。(著作権は無論厳守して、だが)
確かに今、サターン自体5000円位にまで値下がりしているしそれにツインオペレータを付けても市販のプレーヤを買うより安い。画質はVHS標準程度とはいえ実用には十分な性能を有している。ゲームも出来て一石二鳥…なのか?(汗)。

【使用タイトルの例】

ガングリフォン(MPEGカードを自動認識して トゥルーモーションから切り替えるようになっている)
バトルバ(カードが無い場合はソフトMPEGになる)
サクラ大戦花組通信
ルナSSSMPEG版
サクラ大戦蒸気ラジヲショウ

MPEG sofdec

先に書いたMPEG(正確にはMPEG1)は専用ハードを サターンに取り付けて使用するというものだったが、こちら は専用ハードではなく、ソフトだけで行うMPEG伸長であ る。画質はMPEG1レベルのものだが、ソフトだけで伸長 を行う代償として、ハードの場合よりも画面サイズが小さく なり、1秒あたりの表示コマ数も落ちてしまう(12コマ/ 秒程度になる)。このMPEGsofdecを開発したのは、 確かな技術力を持ち、縁の下の力持ち的活躍でセガマニア(?) に熱い視線を注がれつつあるCSK総合研究所。(皆の知っ ているアレとかアレとかは、ここなしには語れないのだ。)

「でも、そんなに苦しい条件でしか再生できないなら、使わ ないほうがいいんじゃないの?」という声が聞こえてきそう だが、この方式の利点はもっと他のところにある。シネパッ クなどでは圧縮時に担当者がさまざまな作業を行わなければ ならない。面倒でしかも時間がかかり、そのわりにはできあ がりが保証されない場合がある。しかし、この方式の場合は MPEGデータに変換する作業は専門の業者に任せるのが一 般的らしく、その点で非常に楽である。しかも短期間で制作 できるそうだ。また圧縮率も抜きん出ており、かなりの圧縮 率を誇るらしい(一説には1/50?)。それにより実現される長時間再生は、もの によっては、かなり魅力的だろう。

なお、ドリームキャストでは、ムービー用としてこの形式が標準で使用されている。秒間30コマでなおかつビットレートがソフト会社が任意に画質、容量に合わせて変更可能なようで ある。 MPEGSofdecのドリームキャストにおける最初の採用作は「VF3」の添付されていた「シェンムー」の紹介ムービーである。ソフト伸張の関係上ちょっとした”アラ”はあったものの家庭用VHS標準以上の画質を維持していた。
他にも「ソニックアドベンチャー」「ダイナマイト刑事2」「電脳戦機ヴァーチャロン、オラトリオ・タングラム」などでも使用されている。

【使用タイトル例】

バトルバ(MPEGカードが無い場合)
サクラ大戦花組通信(MPEGカードが無い場合)
森高千里ラ・ラ・サンシャイン

ルシッドモーション

Lucid Motion

制作会社シーズウェアが独自開発したムービーフォーマット。 サターンでこれを採用しているのは1997年9月現在、同 社のパソコンからの移植作品である「デザイア」のみである。 ベタ塗りのアニメタッチの絵に限定さえすれば、非常にクオ リティの高いムービーを実現できるフォーマットのようだ。 できることならあちこちに提供してほしいくらいのフォーマ ットであるが、これを使える技術者がシーズウェアの開発担 当者2名しかいないのが現状で、今のところ貸出など全く無 理らしい(笑)。残念な話である。

見た感じの特徴としては以下のようなものが挙げられる。

1.エッジの再現性は非常に高い(アニメ絵の主線など?)
2.ブロックノイズが皆無(DCT系を使用していないため?)
3.フル画面再生が可能
4.色数が少ない?(グラデーション部分が色落ちする)
5.コマ数はさほど多くない(15コマ/秒程度か?)

現状についてはおわかりいただけましたか?まとめると、そ れぞれのムービー圧縮・伸長方式にはいろいろな特徴があっ て、言ってしまえば一長一短なのです。「こっちのほうが万 能で、どんな場合もこっちのほうが良い」などということは ありえないのです。 と、ここまで書いておきながら、いきなり突き落とすようで 申し訳ありませんが、ここで話をガラリと変えます。 なんだかんだ言って、 画質の善し悪しうんぬん以前に、もっともっと大事なことがある のです。それは、映像が画面内に作り上げる世界は、観る私達を 興奮させてくれるものか、我を忘れるほど感情移入させるような ものか、あっと驚かせてくれるものか、わくわくさせてくれるも のか?そういった「内容そのものの良さ」こそが何よりも大切だ と思います。わたしが思うに、次世代機が現れてから数年がたち、 書き込みやCGモデリングの技術がもてはやされ「奇麗だから凄 い」などと騒ぐ時代は過ぎ去りつつあります。つぎはきっと「テ クより魂」の時代です。「テク(=技術)」は「魂」を見せるた めの土台としての役割しか果たさなくなるのではないでしょうか。 ゲームは工業生産物の時代が長く、現在でもかなり先端に近い技 術が投入される分野ではあります。しかし、技術うんぬんという レベルの話でうかれていると、足元を救われる可能性も見えてき そうだと思います。書き込みなどの技術ばかり凄くて、その根底 にある思想などが薄っぺらな作品も、だんだんと見受けられるよ うになってきましたし。

本当にゲームを愛する人なら、ただの技術や画質とかじゃなくて、 その作品が表現する世界そのものを楽しみたいと思うはずです。 そのへんにもっと注目してゲームを楽しんで欲しいということを これを読んでいる皆さんに(僭越ではありますが)お願いしつつ、 むすびとしたいと思います。 参考資料

Develo(でべろマガジン)
最新MPEG教科書