〜彩の刻〜


 「亮太〜!!」
誰だ…俺の眠りを妨げるのは…
 「亮太ってば〜!!」
うるせぇなあ…もうちょい寝かせろ…
 「いつまで寝てるの…よっ!!」
(バコッ!)
 「いってええええ!!!」
頭に激痛が走り流石の俺もたまらず跳ね起きる。
 「はい、おはよう♪」
 「母さん…もうちょい普通に起こせねえのか?」
 「何言ってんの!普通に起こしたら起きないくせに…」
確かに一理あるので反論できず。
母さんはそう言うと、俺の部屋のカーテンを一気に開く。
 「…っ!!」
寝ぼけ眼に、いきなりの陽射しはこたえる…
俺は思わず目を細めた。
 「もうとっくに真奈美は起きてるわよ、あんたもさっさと起きなさい」
 「へいへい…」
俺はブツブツ文句を言いつつ階段を降りる。
俺の名前は牧野亮太、帝塔高校の2年生だ。んでもってさっき俺に強烈な一撃をくれたのは
牧野涼子、俺の母である。父さんは…俺が小学校の時、亡くなった。
 「あ、亮太。おはよう!」
 「よっす…ったく朝っぱらから騒々しい事だ」
 「起きない亮太が悪いのよ」
 「真奈美が早く起き過ぎなんだ」
この子は牧野真奈美、俺の双子の妹である。性格は…なんて言うか…あっさりって感じか?
なにかにつけて俺と比べられるのでちょっとうんざり思ってたりも…
ま、「真奈美と比べられちゃあしょうがない」と、思っているので大して気にはならないが…
 「ほらほら!さっさと食べる!!」
奥から母さんの気合のこもった声が聞こえてくる…
 (おい、なんか今日の母さんおかしくねぇか?)
俺は声のトーンを落として真奈美に尋ねる。
 (ほら、今日からお店がオープンでしょ?多分そのせいじゃない?)
なーるほど、俺は心の中で納得した。
家(店)の外にはいくつもの『祝・開店』と書かれた花輪が並べられている。
言い忘れていたが、俺の家は今時珍しい喫茶店である。
と、言ってもさっき真奈美が言った通り、今日から開店なのだが…
今時喫茶店なんて…それが俺の率直な意見だった。
もちろん真奈美もそう思ってるだろう。
だが、俺は止めはしなかった。いや、正確に言うと『止められなかった』と言うのが正しいか?
 『喫茶店を持つのが私とお父さんの夢だったから…』
そう聞いたら俺に止められるわけもない。母さん一人でやっていけるのか、と思ったが
喫茶店なら大丈夫だろう…いざとなったら…
 「あー!そうそう、二人とも、今日は学校終わったら急いで帰ってくるのよ?」
母さんが台所から顔をのぞかせてそう言う。
 「は?なんで?」
 「決まってるでしょ?店の手伝いよ」
 「なんで俺まで!?んなの真奈美だけで十分じゃねえか!」
 「ごちゃごちゃ言わずにさっさと帰ってくる!いいわね?」
もはや何を言っても無駄か…完全にノッてる…
台所から鼻歌まで聞こえてきてるし…
 「今日のところは諦めたほうがいいよ」
真奈美の声は『同情心』に満ち溢れたいた。 

 なんとか(?)学校に着き、自分の席で切らした息を整えていると教室の雰囲気がいつもと違う事に気付いた。
なにやらみんな落ちつかない様子だった…
いや、前言撤回、どうやら騒がしいのは男子だけのようだった。
 「一体なんの騒ぎだよ?」
と、前の奴に問い掛ける。
 「あれ?牧野知らねえの?今日、このクラスに転校生が来るんだってよ、それもとびっきり可
 愛い子」
 「へえー、なるほどな」
 「お前…相変わらずな…」
 「何が?」
 「なんて言うか…女の子に興味ねえところだよ」
 「はっきり言ってないね」
俺は突き放す様に言い放った。
 「ま、ライバルが一人減って良いけどな!」
 「ライバル?」
聞き返そうとするとちょうど先生が入ってきてしまった。が、騒ぎは収まるどころか一層増している。
 「静かに!!…みんなも知っての通り転校生の紹介をする。綾辻!」
 「はい…」
教室中の視線(主に男子)が入り口へ傾けられる。俺も自然と視線を傾けていた。
 「おお〜…」
 「か、可愛い…」
クラス中の注目を集めながらその子は教卓の前に立つ。
 「綾辻薫と言います。皆さんよろしくお願いします」
自己紹介が終わるのを口火とし、男子が一斉に歓喜の声を上げる。
先生が一喝をしなんとかその場は収まったが、休み時間、放課後の状況は恐らくすごいものになるだろう…
なんとか自分の席についた綾辻を俺はいつのまにかずっと目で追っていた。
ふと、目が合いそうになり慌てて視線を反らす。その後もクラス全員の自己紹介などがあり・・・・
やがて今日1日の授業が終わる…

 「さて…と…」
俺は大きく伸びをし、一息つくと。綾辻の席に目をやる。
その周りには相変わらずの人だかり、その数は自分の席から本人の姿が見えないほどになっていた。
 「母さんが早く帰って来いって言ってたけど…手伝いたくねえな…真奈美…すまん」
俺はそういうと、真っ先に屋上へと足を運ぶ。
 「うーん…やっぱ屋上は気持ちいねえ〜真奈美には悪いが寝てしまおう」
初夏の陽射しと、下の校庭からかすかに聞こえてくる声が俺の眠気をより一層引き出す。
 「・・・・・し。」
(・・・・・ん?)
 「・・・もし?」
(もし?)
 「もしもし!!」
はっきり聞こえてくる声に俺は目を覚ました。ふと気がつけば夕日が沈みかけていた。
 「あ…寝過ぎちまったのか…」
 「何回声をかけても起きないから、心配したよ」
 「ん?ああ、ごめんごめ…ん?君は…」
俺を起こしてくれた人…それは綾辻だった。
 「牧野君…だったよね?」
 「・・・・・・・・・・」
 「牧野君?…だよね?」
 「ん?…ああ!ゴメン、そうだよ牧野亮太」
 「よかったぁ…返事が無いから名前間違ってたのかと思っちゃったよ」
 「悪い、ボーっとしてた」
ホント言うと見とれていたのだが…
そんな事言えるはずも無かった、もしかしたらただ寝ぼけてただけかもしれないし。
 「で、綾辻はこんなところで何を?」
実を言うとこの場所は普段閉鎖されており(と、言っても扉は開いているが)
屋上へ続く階段にもしっかりと『立ち入り禁止』の立て札が下りている。
俺みたいな天の邪鬼ならともかく、普通の生徒はまず立ち入らない場所である。
ましてや昨日今日転校してきたばっかりの女の子は…
 「え?えーと…一回屋上を見てみたかったから…かな?」
 「よもやあの『立ち入り禁止』が見えなかったわけじゃあるまい?」
 「そんな…牧野君だって人のこと言えないよ〜」
 「冗談だよ、からかってみただけだ」
 「…意地悪…」
口ではそう言っていたが顔は笑顔に満ちていた。
 「さて…と、いい加減帰らないと夜になっちまうな」
 「あの…一つお願いがあるんだけど…」
 「ん?何だ?」
 「実は・・・・」

「・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・」
 「あのなぁ…家に帰れなくなったから道案内だぁ?一体朝は学校までどうやって来たんだよ」
 「ごめんなさい…まだこの辺の事よく分からなくて」
 「ったく…俺の家のすぐそばだったからよかったものの、俺の知らないところだったらどうするつ
 もりだったんだ?」
俺がそう尋ねると、彼女は真剣に考える。
 「う〜ん…学校に泊まってた…かな?」
 「・・・・・・・・・・・」
今思ったこと…こいつは変な奴だ…
屋上で会ったときからなんとなく思っていたことだが、再認識した。
 「そんなことしたら親だって心配すんだろうが…」
 「しないよ?」
 「??」
 「だって…親、いないから」
 「そっか…ごめんな?変な事言っちまって」
 「ううん、気にしないで知らなかったんだし」
親がいない辛さ俺は誰よりも知っている…それでも俺には母親がいる。
でも綾辻は…多分どっちもいないんだろうな。
それっきり二人はなんとなく話しを切り出しにくくなってしまっていた。
 「私ね、今は親戚のおばさんの家に置いてもらっているんだ」
最初に切り出したのは綾辻の方だった。
 「へぇ〜…大変そうだな」
 「うん、でもおばさんはとっても良い人だし優しいから…あ、でも帰ってくるのが遅いからちょっと大変かも。
 食事とか自分で作らなきゃいけないしね。あ、でもね私こう見えても料理得意なんだよ。それで…」
変な奴…さっきまでだんまりだったのに急に口数が多くなってきて…………もしかして俺に気つかってんのか…?
 「なあ…」
 「それで〜…え?何?」
 「いや、どうでもいいけど家、どこなんだよ?もう俺の家なんだけど」
気がつけばすでに家の前にたどり着いていた。下手すれば気がつかずに通り過ぎるところだった…
 「あ、ここが牧野君の家なんだ?…って喫茶店?牧野君…住みこみで働いてるの?」
 「どういう思考回路してんだよお前は…家と店がくっついてんだよ」
 「あ!ホントだ〜」
いちいち言わなきゃわかんない事だったのか…?第一普通住みこみって発想は出てこないと思うのだが…
まあこの際突っ込むのはよしておこう
 「で、どうなんだよ?家…帰れるのか?」
 「えっと〜…駅ってどっちかな?」
 「駅?駅だったらここ真っ直ぐ行けばすぐだけど?」
 「あ、だったら帰れるよ〜ありがとう!」
 「いいのか?なんだったら家まで送ってくけど?」
 「ううん、大丈夫〜」
綾辻はそう言うと誇らしげにVサインをだす。それを見た俺は…
 (心配だ…とてつもなく、限りなく心配だ…)
途中何度も振り返る綾辻を見ながら俺はそう思っていた。

 「ただいま〜」
カランカランとドアに飾り付けられたベルが鳴る…お客が来た時に判りやすくする為の物だ。
 「りょ〜〜〜た〜〜〜!!!!」
俺が帰ってくるなりすごい剣幕で寄ってくる真奈美。まあ理由はわかっているが…
 「よ、よお!ご苦労さん」
 「『ご苦労さん』じゃないよ〜!さては逃げたんでしょ?」
 「逃げたとは人聞き悪いな…」
 「え?違うの?じゃあ何してたのよ?」
 「立派な人助けだ」
 「人助け?」
間違った事は言ってないはずだ…事実俺がいなきゃホントに綾辻は学校に泊まりかねなかったからな…
まあ元々は逃げるつもりで屋上に退避したんだが、結果オーライということにしておこう。
 「そうだ、ちょっと間の抜けた転校生の水先案内人ってとこだ」
 「転校生?もしかして綾辻さんのこと?」
 「よく知ってんな…こりゃ驚きだ」
 「知ってるも何も、どこのクラスの男子もその話題で持ちきりだったんだよ」
 「へぇ〜…ま、そう言う事があったから手伝えなかったんだよ」
 「そう言うんだったらしょうがないけど…でも、亮太が女の子に優しくするなんて初めて聞いた気
 がする」
優しくしたというか…屋上で一夜を過ごされても俺の目覚めが悪いというかなんというか…
本人は冗談で言ったつもりなんだろうが…いや、あいつならホントにやりかねないからな…
 「もしかして亮太…」
一生懸命自分の中でいい訳をしている俺を見て真奈美は
 「その娘に惚れたとか…?」
 「ば、バカいうな!んなわけあるかっての…」
 「その反応は怪しいね〜」
 「どうでもいいけどあんた達…」
後からすさまじい程の視線を感じ俺と真奈美は思わずドキッとする。
「あ…」  「げっ…」
「手伝う気がないんならサッサと奥に行きなさ〜い!!!」
その夜、二人して母さんにこってり怒られたのは言うまでもなかった…

―後書き―

こっちの作品では始めまして!七瀬です。
転校生の美少女。今時の下手なマンガでもない気がするなあ〜この設定(苦笑)でも俺はこの薫ちゃん(ぉぃ)
結構気に入っています♪しかしこの小説を書いていて一つ気がかりな事が…
双子の兄妹ってあり得るのかなぁ?と、いうことです!!もしあり得なかったら…その辺は勘弁してください(笑)
それじゃあ次章をお楽しみに〜