プロローグ

 

 「これで…一通りは片付いたな」
新しく越してきたこの部屋を見まわして俺は満足げに頷く
大学生活をはじめて、はや2年目。1年間は自宅から通学していたが
なにしろ片道2〜3時間は朝が弱い俺にとって辛い
そしてなんとか親の承諾を得て、今年から学校からそれなりに近いアパートを借りて一人暮らしをする事になったのである
何気なくつけていたテレビから見慣れた声が聞こえてくる。フッと視線をやるとそこには見慣れた女の子が一人
今若者に大人気のアイドル、如月舞。俺はブラウン管越しの彼女を見るといつも違和感を感じる
なぜかと言うと…

 

 

 

 「ねえ、彼方!今度はあの店に行ってみようよっ」
よく晴れた日曜日、人でにぎわった繁華街に未羽の声が響く
 「なあ、まだ歩くのか?俺、もうくたくただよ…」
 「もう、だらしないなぁ〜男の子でしょ」
朝も早くから未羽に付き合わされていた俺は溜め息をついて空を見上げると、日がもう真上にまで達していた
まったくどうして女の子ってこんな無駄な買い物が好きなんだろう…と口には出せるはずもなく、心の中で呟く
それは俺達が高校三年の秋のことだった…
 「あ〜すっかり日も暮れたね〜彼方、お疲れ様」
 「ホント、お疲れだよ…でも楽しかったな」
 「これで受験勉強もはかどるよねっ」
 「うっ…まあそうだな」
 「あはは。一緒に同じ大学行こうね」
 「そうだな」
こんな俺達の約束も意外な形で終わりを告げた
デートの帰り道、雑誌の取材と言われて声をかけられた
話を詳しく聞いてみると、若者向けの雑誌の企画で『お似合いのカップル特集』とかいうのに載せたいらしい
俺達はその時はなんの抵抗も無く了解したのだが
この時の返事が俺達を変えるとは俺は思ってもいなかった…

俺達が載っている雑誌が発売されてから間もなく、俺は電話で未羽に呼び出されて近くの公園まで行く
 「どうしたんだ?こんな時間に」
 「あのね…わたし…」
 「??」
 「わたし…誘われてるんだ」
 「は?よくわからないぞ。もうちょっと詳しく話せよ」
明らかに動揺している未羽の口から途切れ途切れに言葉が出てくる
どうやらあの雑誌がきっかけで芸能界にお誘いの声が掛かっているらしい
…………
 「だから、わたし…」
 「それで俺に相談しようとしたのか?」
 「うん…」
 「で、未羽はどうしたいんだ?」
 「わたしは………」
 「やってみたいのか?」
 「うん、けど…」
 「だったら迷うことなんかないだろ」
 「でも、一緒の大学に行こうって約束したのに…」
そう言って顔を伏せる未羽
あんな、なんてことない口約束を今でもこいつは大切に思っていてくれていた
 「未羽のやりたいことすればいいじゃないか。別に全く離れ離れってなるわけじゃないし、電話だってできるし」
 「だから、俺のことなんか気にすんなよ」
我ながら精一杯の強がりだな…と思う
ホントは一緒にいたい
一緒の学校に行って、今まで以上に一緒にいたい…
けど、それは俺の我侭に過ぎない
離れるのは嫌だけど、俺の我侭やエゴで未羽を縛りつけるのはもっと嫌だ
だから俺は…俺は…

 

 「今みたいに一緒にいられることが少なくなっても、俺……未羽のことが好きだから。ずっと、好きだから」
 「ありがとう……彼方」

 

 

 ってな感じで今の俺があると言うわけで…
しかしまあ、振り返ってみると…かなり恥ずかしい事言ってるな、俺
思い出すだけでも恥ずかしいというかなんと言うか
そう思うだけ少しは歳をとったというのだろうか?
……っと言動がまるでオヤジだな
こんなんじゃ、また、かなみの奴に『オヤジ臭い』と言われそうだな
気がつけば何時の間にか未羽が映っていたテレビが違う番組に変わっていた
 「こんなこと思い出すなんてな。どうかしてるぜ…」
確かに、今の関係に不満がないといえば嘘になる
俺なんか立ち入る隙のないくらい、ぎッちりと詰まった未羽のスケジュール
たまに入ったオフなんかでも、事務所の関係で俺達は会って話をすることすらできない
たった一つだけ許されたコミュニケーションは電話だけ…しかも、制限時間のオマケ付き…
でもまあ当然といえば当然か
一方は今をときめく人気アイドル
かたや、どこにでもいそうな普通の何の取り柄もない大学生
そんな俺らの交際が周りに知られたら…それこそ未羽の人生そのものが台無しになる
電話ができるだけでも良しと思うべき…なのだろうか…?

 「あー!!やめやめ!!引越し早々なんで悩まなきゃいけねぇんだっ!?」
越してきたばっかりのワンルームに俺の声が響く
無造作に投げ出されたふとんに突っ伏し、俺は目を閉じた…

To be continued〜

☆後書き☆
この作品では、はじめまして!作者の七瀬です
本作品は恥ずかしながらかなり昔に書いた作品です
と、言ってもそのまま晒すのは流石に皆さんに悪いので少しだけ手を加えてはいますが…
え?どのくらい昔に書いたのって?詳しくは言えませんが、思春期の頃…とだけ言っておきましょう(笑)
果たしてそれが何年前なのか?それは皆さんのご想像にお任せします(笑)
この作品を見てくれた方、何か一言だけでも掲示板に残していただれば幸いです
登場人物のイメージ画像なんかもいただけると更に嬉しさ倍増です(笑)
それではまた

執筆日:2001/10/17