バレンタイン・パニック

 「ただいま…」
 「あ、お兄ちゃん。お帰り…ってどうしたの?」
いつもとは違う浩平の様子に、瑞穂は訝しげにたずねる。
 「タワシにやられた…」
 「え?なにそれ?」
浩平はそう言い残し、おぼつかない足取りで自分の部屋へと向かっていった。
後に残された瑞穂の顔に『?』が終始浮んでいたのは言うまでもない
 「はぁ…」
部屋に入ると無気力にベットに倒れこむ浩平。
部屋の中は規則的に聞こえる時計の音しか聞こえてこない
そもそもどうしてこんなに疲れているかというと…




「試合、おつかれさまでした!!そんでマネのみんなでお弁当用意したからどうぞ食べてくださいっ!」
「うおぉぉおおお!マネージャーありがとうーーっ!!!」
部員達はベンチの周りにおかれたお弁当を取ると思い思いのグループになって昼食を始める。

「ねぇねぇ♪一緒に食べよっ♪」
「お、いいぞ!」
 翠と浩平は木陰に向かうとそこでお弁当を広げる。
「う、うまい!これ美味いなぁ……!」
「だってみんなで作ったんだもん♪美味しいに決まってるよ♪」
「うん、最高だよ!特にこの唐揚げが!」
「そうだね…それはあたしは作ってないんだけど……ねぇ!他に美味しいのは…無い?」
「えっ!?……え、あ…う〜ん…あ、これこれ!この出汁巻き卵なんて最高だな!隣のタワシみたいなハンバーグが霞んで見えるほどだよ!!」
「…そう……そうだよね……でも…その『タワシ』があたしの…なんだけど……」
「な、なにぃいい!?このタワシみたいのが!?」
「……そこまで言わなくてもぉ……」
気まずい雰囲気……
「あ、あたしちょっと用事思い出しちゃった!」
「おい!翠まてよ!」
「ごめんなさい!」
タッタッタッタ……どうやら翠を深く傷つけたようだ……
「あ〜あ〜…翠を傷つけちゃったな!」
呆然と口を開けたままな浩平をからかう声が聞こえる…
「うっさい!黙っててくれ……」




と言う出来事のせいである…

 「お兄ちゃん、さっきから元気ないよ?なにかあったの?」
晩飯のため下に降りてきた浩平に向かって瑞穂が聞いてくる
 「なあ、もし…もしおまえが料理が下手だとしてだな」
 「え?どうしたの、急に」
 「いいから聞け。もしおまえが料理下手で、それでも一生懸命作ってきた料理を
  『タワシ』みたいとか言われたら…どう思う?」
 「お兄ちゃん、おかしなこと聞くね」
 「………」
 「怒るに決まってるよ」
 「……やっぱり、そうか」
半ばわかっていた事とはいえ、こうもあっさりと言われてさすがの浩平もうなだれる
 「でも、場合によるよ」
 「…場合?」
半分耳には入ってなかったが、それでもかすかな希望を胸に抱いて浩平は全力で耳を傾ける。
 「うん、その料理を作ってあげた相手の人が自分のとって好きな人だったりとかだっ
  た時はやっぱり、『怒る』と言うよりか『悔しい』って感じると思うよ?」
 「…どういうことだ?」
まったく女心をわかっていない浩平に、瑞穂は少なからず呆れながら更に詳しく説明をしだす。
 「………と、言うわけだよ」
話に夢中ですっかり二人の箸は止まっていた。食卓の上に並んでいるおかずなどの類はすっかり冷めてしまっている。
 「うーん…なるほどな。恐るべし女心…」
 「バカな事言ってないで、早くご飯食べちゃってよ。すっかり冷えちゃったじゃない」
 「ああ、悪い…」
我に返った浩平は冷めたおかずに箸をつける
 「で…翠ちゃんとそんな事があったんだね」
突然の核心をついてきた瑞穂の言葉に浩平は口の中のものを吹き出す。
 「な、何でわかったんだ!?」
 「お兄ちゃん…わからない方がおかしいよ」
相変わらず、隠し事が下手な浩平であった…こんなことだからいつもいつもあらぬ誤解(?)を受けるのだ、と浩平は心の中でそう思っていた。
 「うるせえな…ああ、そうだよ。悪いか」
半ばヤケになって浩平は言い返す。ほとんど逆ギレだ
 「うん、悪いよ。お兄ちゃんが完全に悪い」
 「………」
部活では部長として、その類まれ(?)な統率力で纏め上げてきた浩平にも弱いものがあった。それは、翠と…この小憎たらしい妹の存在であった…



 「うーん…」
その夜。七瀬家の廊下には奇妙な光景が繰り広げられていた。
もうかれこれ2時間はその光景が継続していた
 「生きるべきか死ぬべきか…それが問題だ」
ちょっと気取って見せた浩平だが、その場の雰囲気が全てぶち壊している
電話の前に正座をして、何かにずっと頭を悩ませている浩平。
あの出来事に対して翠に謝る電話をするべきかということですでに2時間も電話の前で悩んでいた。
 「まさか…自殺とかはないよな…」
もはや正常な思考は今の浩平には無理らしい。
こうして七瀬家の夜は終わりを告げた…


そして翌日…
 「…先輩。」
 「よかった…生きてたか」
 「え?」
 「いや、なんでもない。あ、……『この前はごめんな』って電話しようと思ったんだ
  けど…なんか気まずくて…」
 「ううん。いいのそれは……」
 「そうか?…いやぁよかった!で、今日はどうしたんだ?そんなに思い詰めた顔で?」
 「え〜と……う〜ん……はい!これ!」
 「え?なんだ?」
 「今日はバレンタインでしょ?だから…作ってきたの!」
 「翠が?」
 「あ…今、困った顔した……まぁいいけどね食べてよ♪今回ばっかりは自信作なんだ
  から♪覚悟しておいた方がいいよ?…お世辞抜きで『美味しい!翠見直したよ!』
  って言わせてやるんだから♪」
二人にとってはこんな出来事がもう普通の出来事になっているらしい…
だって…
 「み、翠…これは…」
ここから先になにが起こったかはあえて伏せておくとしよう…

後書き

この作品は…某所のネタなんですが、そのままオリジナルストーリーとしても楽しめるかな?
と、思ってUPしました 一応主人公は浩平君です
あ、言っておきますが僕じゃないですよ?名前が思い浮かばなかったので引用しただけです
つーかバレンタインを貰えるだけ幸せ者ですね(笑)