white memories〜プロローグ〜

【裕介編】
雪が降っていた…
俺はある場所へと足を運んでいる…
俺にとってかけがえない大切な場所…
かけがえのない遠い過去の記憶…
でも、悲しくて忘れたい過去の記憶…
この季節になるといつも思い出す…
頭の中で記憶の扉が開かれる…
何重にも鍵をかけたはずなのに…
そして…俺はここにいる…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なにやってるんだろうな?俺は…
溜息をつきながらそう自分に問いかける…
ふと思い出す、過去の記憶を……
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 『ねえ…裕介は冬…好き?』
 『さあ…どっちでもないな、綾香は?』
 『私は大好きだよ』
 『理由は?』
 『ん〜なんとなく…かな?』
 『なんだそれ?理由になってないぞ』
 『あははは、ホントだね。じゃあ…綺麗だから…じゃダメかな?』
 『綺麗って…何が?』
 『ここから見える街の景色の事だよ』
 『…別に冬じゃなくても一緒だろ?』
 『わかってないなあ、裕介は…』
 『…別にわかりたくもないな』
 『ふふふ、裕介らしいね』
 『…バカにしてるのか?』
 『どうだろうね?』
 『そろそろ帰らないと日が暮れるぞ』
 『うん…でも、もう少しだけいようよ…ね?』
 『・・・・・・・・・・・・もう少しだけ・・・・・・・・・・・・・』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
綾香…わかったことが一つだけあるぞ
 「俺は…冬が嫌いだ」
俺はそっと呟く、別に誰に言うのでもなく…
もちろんまわりには誰もいない…はずだった
 「あなたも…冬、嫌いなんですね…」
ふと声のした方を向くとそこには…
 (あ、綾香…?)

【深雪編】
雪が降っていた…
思い出を全て覆い隠してしまうくらいの雪が降っていた…
でも…やっぱり私は自分で掘り起こしてしまう…
悲しい思い出を…
でも私は楽しい記憶を掘り起こそうとはしなかった…
一層悲しくなるから…
壊れるくらいに悲しくなるから…
だから思い出そうとはしなかった…
だけどそれは結局無理で…
私は約束の場所へ向かって歩き出す…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
直樹…いつまで待ってればいいの?私…
女の子こんなに待たせるなんて、最低だよ?
今日も待ってるから…
あの場所で…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 『確か明日は深雪の誕生日だったよな?』
 『覚えててくれたんだね』
 『当たり前だろ、プレゼント、期待してろよな』
 『うん、期待してる』
 『って言うかまだ何にするか決めてないんだけどな』
 『そうなんだ?私はなんでもいいよ直樹がくれるものだったらなんでも…』
 『よし!それじゃあ明日あの場所で待っててくれよ、とびっきりすげえプレゼント持
 ってくるからさ!』
 『うん、期待して待ってるよ。でも…』
 『でも…なんだ?』
 『遅刻…しないでね?』
 『わかったわかった!努力はするよ』
 『じゃあ明日ね?』
 『おう!またな!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
直樹…私、もうあきらめちゃうよ?
と、静かに口には出したが、もちろん心の中ではそう思ってはない…
 「直樹…会いたいよ…プレゼントのお礼、言いたいよ…」
必死に涙をこらえながら私は呟いた…
私はあれから泣かないようにしている…
ずっと笑顔でいれば、直樹が帰ってくるような気がするから…
笑顔で『ありがとう』って言いたいから…
ふと、『あの場所』に人が立っているのが見えた…
 (直樹…!?)
驚きと同時に期待がこみ上げてきた…
でも、そこには直樹はいなくて…
一人の男の人が立っていた…
何でだろう…その男の人がふいに直樹に見えてしまった…
 「俺は…冬が嫌いだ」
彼はそう呟いた…
私と…同じ?
無意識の内に私は彼にこう言っていた…
 「あなたも…冬、嫌いなんですね…」

【裕介編】
 「ああ、嫌いだ…」
視線を元に戻し、俺はそう答える…
わずかだが心の中に焦りがあった…
あの女の子が、一瞬だが、綾香と重なっていた…
俺はそんな焦りを隠すので精一杯だった…
 「どうして…ですか?」
ふいに、そう訊ねられる…
 「寒いから」
視線を変えないまま俺は答える
 「…嘘です」
 「なんでそう言い切れるんだ?」
 「寒いのが嫌いなら…こんなところにはいないからです」
確かにそうだな…不覚にも自分で、そう思ってしまった
 「でも、寒いのも嫌いだぞ」
 「私もです…」
端から見たら変な光景である…
まったくの見ず知らずの二人がこんなところでしかもこんな雪が降っているのに
傘もささずに、くだらない会話をしている…
でも、不思議と俺はそんな会話が懐かしく感じた…
忘れかけていたこの感触…
さっき綾香と重なって見えたのはそのせいだろうか…
似てる…綾香と…なんとなくだけど…
 「じゃあ君はなんで嫌いなんだ?」
初めて俺はその女の子の方を向いて話しかけた…
 「え?」
 「冬…」
その女の子は俺の顔を見て驚いた様子だったが、すぐに表情を元に戻し
 「…寒いからです…」
 「やっぱそうだろ?」
 「…はい…」
 「・・・・・・・」
 「・・・・・・・」
それっきり会話はなかった…
俺はここから見える街の景色を眺め…
女の子は大きな木の下でじっとしていた…
お互い寒さに身を震わせながら…
 「なあ…?」
相変わらず俺は視線を変えずに問いかける…
 「…はい…?」
女の子は今にも消え入りそうな声で返事をする…
こんな場所じゃなかったら決して聞き取れないくらいの声で…
 「景色…綺麗だよな…?」
そう言うと俺は再び女の子の方に視線を向ける…
 「…ここからじゃ見えません…」
そりゃそうだ、俺が立っているところから女の子が立っているところまでは
20m位は離れている…
 「ここ…来て見てみろよ」
俺は無意識の内にそう言っていた…
なんでだろう?見ず知らずの女の子に俺達…俺と綾香だけのとっておきの場所を
彼女に見せようとしていた…
 「・・・・・・・・行きたくありません・・・・・・・・・」
 「どうして?」
 「ここで、待ち合わせをしているからです・・・・」
 「そっか…じゃあ待っている人が来たらここに来て見てみろよ」
なんで俺はこんなに強く勧めてるんだ?
嫌だって言うならそのほうが、見られない方がいいはずなのに…
見てもらいたい?…ふと自分の中にそんな感情が芽生えているのに気付く…
どうして…
 「…はい…持っている人が来たら…見てみます…」
女の子の頬を涙が伝い…真っ白な雪にとけ込んでいく…
それをまた雪が覆っていく…
でも、女の子の涙が止まる事はなく、次々と白い雪の中に吸い込まれていく…
 「わ、悪かった…なんか変なこと言ったみたいだな…」
 「そんな事…ありません、私が…勝手に泣いただけですから…謝らないでください」
 「ゴメンな…」
 「大丈夫ですから…」
そう言うと女の子は笑って見せた…
無理に笑っているのは十分見て取れる…
 「あなたは…?」
今まで泣いていたせいか、ちょっとだけ鼻声で俺に聞いてきた…
 「なにが?」
 「ここにいる理由…」
俺はしばらくその問いに答えずにこの場所から見える景色を眺めていた…
いつのまにか日は暮れ、街には所々に光が灯っていた…
 「綺麗だから…」
俺は光の灯り出した街を見ながらそう呟いた…
 「そう…ですか」
 「・・・・・・・・・・・」
 「・・・・・・・・・・・」
静寂が空間を包み込む…
かけがえのない場所を…
俺達の、そしておそらくあの女の子にとってもかけがえのない場所を…
雪はただそっと静かに降り注いでいた…
 「俺…帰るけど…君はどうするんだ?」
どのくらい時が経ったんだろう…
辺りはすっかり闇に包まれていた…
 「私も…帰る事にします、今日はもう、来そうにありませんし…」
 「そっか…じゃあな」
俺はそう言うと綾香が愛したこの景色に別れを告げて歩き出した…
何かが胸を奥に突っかかっていた…
そしてそれは自然と言葉に出ていた…
 「なあ…?」
 「あの…?」
真っ白な雪の空間に二人の声が見事に重なる…
 「おかしいな…?」
 「そうですね…」
その時、俺ははじめてその女の子笑顔を見た気がした…
作り笑いではなく、本当の笑顔を…
 「俺、藤村裕介…君は?」
 「深雪…」
 「変わった名前だな…」
 「そうですか?」
 「深雪ってことは、苗字が『深』で名前が『雪』なのか?」
 「全然違います…」
俺の冗談に真顔で突っ込んでくる女の子…
 「違うのか?じゃあ…」
 「…立花…」
 「ん?」
 「立花深雪です…」
 「なんだ、立花って苗字があるのか…ビックリしたよ俺はてっきり深雪がフルネームだ
 とばかり…」
 「普通はそんな風に考えません…」
こんなやり取り…もう随分忘れていた気がする…
やっぱり…綾香に似てる…なんとなく雰囲気が…
 「それじゃあまたな…立花」
 「はい、さようなら、藤村さん…」
自然と『またな』と言う言葉が出ていた…
なんとなくだけどまた会えるような気がしたから…
俺はそう言って別れを告げた…
・・・・・・・・・・・・・・・・・
家に帰っていつもどおりの事をして、ふとんに入り静かに目を閉じる…
今日はなんか眠れそうだ…
立花…か…また、会えるかな…

【深雪編】
私がそう言うと男の人は一瞬私の方に目を向けた…
でもすぐに視線を戻し…
 「ああ、嫌いだ…」
と、だけ答える
やっぱり私と同じだ…
 「どうして…ですか?」
なんで私、こんな事聞いてるんだろう…
まったく知らない人なのに…
すると男の人は相変わらずのままの向きで
 「寒いから」
私は心の中で少しだけ笑った…
こんな気持ちになったの久しぶりに思えた…
 「…嘘です」
 「なんでそう言い切れるんだ?」
私にもわからなかった…なんで言いきれるんだろう…
でも、それは確かな『確信』だった…
とりあえず適当な理由をつけて答える…
 「寒いのが嫌いなら…こんなところにはいないからです」
一番もっともらしい理由だった…
でも、心の中の考えとは違った答えだった…
男の人は自分でもそう思ったのか
小さく頷きながら納得しているのが私からでも見えた
 「でも、寒いのも嫌いだぞ」
 「私もです…」
私、何やってるんだろう…
こんなところで傘もささずに見知らぬ男の人と
なんでもない、どうでもいい話…してるなんて
でも…なんとなく、なんとなくだけど楽しい…
まるであの人と話しているようで…
つい目の前にいる人を直樹と重ねて考えてしまう…
バカだよね私…もう直樹はいないのに…
それでも私は待ちつづけてる…
ずっと…
 「じゃあ君はなんで嫌いなんだ?」
その人の顔がはじめてまともに私に向けられた
一瞬ドキッとした感覚にとらわれる…
(どうしてって…直樹がいないから…)
そんな事言えるはずもなかった…
言ったところでどうしようもないから…
直樹が帰ってくるわけがないから…
私は適当に理由を作る…
 「…寒いからです…」
 「やっぱそうだろ?」
 「…はい…」
再び静寂がよみがえる…
男の人は、この丘から見える景色をじっと眺め…
私は『約束の場所』であの人を待つ…
来るはずのないあの人を…
 「…なあ?」
 「…はい…?」
かすかに私を呼ぶ声が聞こえてきた…
今にも雪にかき消されそうな声で…
 「景色…綺麗だよな…」
男の人はそう呟いた
見たくもなかった…実際ここからでは見ることもできないけど…
 「…ここからじゃ見えません…」
また、心にもないこと言ってる…
 「じゃあ、ここ来て見てみろよ…」
どうして?なんで、私なんかに構うの?
放っておいてくれればいいのに…
一人になりたいのに…
でも…
不思議と嫌な感じはしなかった…
なんでだろう…ただ寂しいから一緒にいたいだけ?
それとも…
 「・・・・・・行きたくありません・・・・・・」
もう…限界だよ、これ以上私に構わないで…
心の中でそう呟いた…
 「どうして?」
それでも、その男の人は訊ねてきた…
 「ここで、待ち合わせしてるからです…」
なんで、どうして…私は素直にそう答えていた…
もう、なんだかわからなくなってきて…
 「そっか…じゃあそいつが来たら一緒に見てみろよ…」
 「!?」
開けてしまった…悲しい記憶の扉を…
泣いちゃいけない…でも…もう限界だった
せきを切ったように涙が溢れてきた…
もう止まらなくて…止められなくて…
 「わ、悪かった…なんか変なこと言ったみたいだな…」
 「そんな事…ありません、私が…勝手に泣いただけですから…謝らないでください」
 「ゴメンな」
 「大丈夫ですから…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「もう帰るけど…君は?」
 「私も…帰る事にします、もう、来そうにありませんし…」
今日も来なかった…
わかってたことだけど…
それでも私は待ってる…
『奇跡』を信じて…
そんなことないなんてわかってる
『奇跡』なんて起こらない事を…
起こらないから『奇跡』なんだと言う事を…
私はこの『奇跡』という言葉のせいにしてるのかな?
でも…
 「そっか…じゃあな」
待って…一人にしないで…
心の中でそう思っていたのか…
 「あの…?」
 「なあ…?」
(え?)
二人の言葉はほとんど、いや、ぴったり重なっていた…
 「おかしいな…?」
男の人は陽気に笑った
 「そうですね…」
私も笑ったのかな…
なんか久しぶりな気がする
笑ったのなんて…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 「俺、藤村裕介…君は?」
 「深雪…」
 「変わった名前だな…」
 「そうですか?」
 「深雪ってことは、苗字が『深』で名前が『雪』なのか?」
 「全然違います…」
おかしな人…でも、やっぱり似てる…直樹に
こんな冗談を言うところなんか特に…
 「違うのか?じゃあ…」
 「…立花…」
 「ん?」
 「立花深雪です…」
 「なんだ、立花って苗字があるのか…ビックリしたよ俺はてっきり深雪がフルネームだ
 とばかり…」
 「普通はそんな風に考えません…」
だから余計に悲しくなる…
似てるから…重ねてしまうから…
でも、一緒にいると、なんか楽しい…
 「それじゃあまたな…立花」
 「はい、さようなら、藤村さん…」
彼は『またな』と言った…
また…会えるのかな?
この場所で…
私はこの時、『奇跡』が起こっていたなんて
まだ気付いてはいなかった…
真っ白な雪がくれた、とびっきりの『奇跡』を…
              〜To be continued〜

                 ★後書き★
 始めまして!作者の七瀬です。どうでした?なんか悲しい物語ですよね?
初めて主人公、ヒロインの両方の視点から書いてみました。書いてみてわかったことは…
女の子の視点で書くのは難しいと言う事です…(涙)女心を文にするのって思ったより難しかったです。
と言うわけで一章からはおそらく裕介視点だけで進めていくと思います(笑)。
深雪視点の方は…「書いてください!」という要望があれば考えてみたいと思います…(笑)。
読者の皆さんの頼みとなれば、俺も頑張れます!それじゃあ、またお会いしましょう!

                ★作者の独り言★

なんか某鍵系のゲームと被ってるねこれ…(謎苦笑)
良い訳のようですが、これを書いたのはゲームをプレイする前の作品なので
石は投げないでください(爆)