white memories〜第二章

 「あ、裕介おかえり〜!」
…新種の空き巣か?台所に立って飯を作ってくれるという、新種の…
もちろんそんな奴がいるわけない。
空き巣かと思った奴の正体は言うまでもない、梓の奴だった。
 「…おい」
 「え?なあに?今、ちょっと忙しいんだよ」
忙しいのは見ればわかるが…そもそもこいつ、料理できたか?
 「一つ、いいか?」
 「ちょっと待って、ええーと…これで良しっと!で、何かな?」
丁寧に鍋にふたをしてこちらを向く
 「何でここにいるんだ?」
俺は当然の質問をする。
 「何でって…お夕飯作ってるからだよ」
 「………」
うかつだった。俺の『当然』がこいつに通じるはずもない。
 「だから、何でお前が飯を作ってるのかを聞いてるんだ」
 「だって、私、おばさんに頼まれたし」
 「だから、俺は頼んでないって言っただろ」
 「でも、私、約束は守るようにしてるから」
 「そりゃ、良い子だな」
 「うん。だから座って待ってて。すぐできるから」
ぱたぱたぱた
そう言うと梓は再び台所に立つ。
俺はしかたなく自分の部屋に戻り、着替えを試みる。
途中、『ああ〜!お鍋が〜』と訳のわからない悲鳴が聞こえてきたが、この際無視することにする。
再び俺がリビングに戻ると、真っ先に気になることが一つ…
 「なんだ、この匂いは…」
異様な匂いが台所を通り越してここにまで到達している。
台所へ視線をやると、奮闘している梓。
俺は確信した。
 「こいつは料理、ダメだ」
俺は何も見なかった事にし、テレビの電源をつける。
他愛のない番組。俺は何度かチャンネルを変える。
 「な〜んもやってねえな」
電源を切り、ソファにどっと寄りかかる。
壁にかけられた時計を見ると、短い針が8を指そうとしていた。
立花は…ちゃんと帰れたのだろうか。
俺と綾香の思い出の場所で出会った、雪のような少女。
そいつも俺と同じようにその場所に悲しい記憶を隠している。
 「裕介〜!お待ちどうさま〜!!」
 「………」
俺のささやかな安らぎの時は梓の一言と、さっきより一層強い匂いによって壊された。
 「私、一生懸命頑張ったんだ」
と、自分の胸の前でガッツポーズを取る梓。
その気合とは裏腹に、目の前に置かれた皿の上には見た事もない物体がある。
 「おい…」
 「え?何?」
 「これは何だ?」
 「何って…お夕飯だよ」
 「そうなのか…」
 「他に何に見えるの?」
いや、それがわからないから聞いたのだが、どうやらこれが晩飯らしい。
 「とにかく、食べてみてよ」
 「………」
取り敢えずは箸を持ってみるが…なんとも食欲を無くさせる外見をしているんだ…
見かけで判断してはいけないとよく言うが、これは別格である。
いくら美味しくてもこれじゃあ美味しいと判断する前に箸を置かれるのがオチだ。
 「実はな…梓」
 「ん?」
 「俺、腹減ってないんだ」
俺も自然の摂理にしたがって晩飯を辞退することにした
 「え〜?せっかく作ったのに…会心の出来だったのに…」
なんとも恐ろしい台詞をサラッと言い放つ梓。
会心の出来?これが?俺はもう一回目の前の物体に目をやる。
 「………」
確かに、ある意味会心とも言える出来ではある。
下手すりゃ人でも殺しかねないくらいの…
 「わかった、じゃあ一口だけ食べる」
 「うん」
俺はおそるおそる口へと運ぶ。
 「………」
 「ど、どうかな?」
 「ぐはっ…」
 「ああ!!裕介!?」
薄れゆく意識の中、俺は心に決めた事がある。
こいつの料理は金輪際食べるのはよそう…

 「……」
 「大丈夫?」
 「なんとかな」
ほんの5分くらい倒れてたらしいのだが、俺にとって見ればとてつもなく長い時間に感じられた
それこそそのまま永眠してしまいそうなほどに。
 「おかしいな…ちゃんと本を見て作ったのに」
本を見て、どうやったらあんな殺人作用のある料理が出来上がるんだ?
 「その本、実は毒殺料理用の本なんじゃないのか?」
 「そんなの売ってるわけないでしょ」
確かに…売っていたら大問題である。俺は梓の正面に回り、本のタイトルを見てみる
 『誰でもできる簡単料理』
ふっ…このタイトル。どうやら著者は梓という奴のことは頭に入ってなかったようだな。
 「この本のタイトル、これからは『梓以外なら誰でもできる簡単料理』に改名するべきだな」
 「う〜……はぁ…」
 「あのなぁ…こっちが溜め息を吐きたい気分だ」
 「やっぱり、綾ちゃんのようにうまくいかないなぁ…」
 「………」
もしかしてこいつ
 「…なあ」
 「え?」
 「お前、もしかして綾香に対抗してたのか?」
 「対抗じゃないよ、最初から綾ちゃんに敵わないのは知ってるし」
そう言ってテレビの上へ目を向ける。
そこには3人で写ってる写真。
俺と梓と…綾香が写っている写真。
 「じゃあ、なんなんだよ」
 「代わりだよ」
写真から視線を反らさずに俺の質問に即答する梓。
 「代わり?」
 「そう、代わり。綾ちゃんのね」
 「……」
 「…梓」
 「なに?」
 「お前、帰れ」
 「えっ?」
少し驚いたような、悲しいような。そんな表情で俺のほうを向き直る。
 「聞こえなかったか?帰れって言ったんだ」
 「……わかったよ」
それ以来無言で帰り支度をする梓。
 「台所、俺が片付けとくから。早く行けよ」
 「ゴメンね、じゃあ…ばいばい」
 「………」
パタン
扉が閉まる音、俺は見送る事もなくソファの上でその音を聞く。
 「代わりってなんだよ、代わりってよ…」
別に綾香の名前を出された事に腹を立ててるわけじゃない。
          『綾香の代わり』
その一言がなにより、俺の胸に突き刺さった。
でも…
 『ゴメンね…』
謝るなよ、追い出したも同然のことした俺に…
何で…謝るんだよ。
梓が腹立たしいのか、それともそれはただ単に自分に腹を立ててるだけなのか。
俺は自分でもよくわからなかった。
テレビの上の写真立て。
そこには無邪気に笑っている2人と、不機嫌そうにそっぽを向いている男の子が一人。
 「バカ野郎、ちゃんと笑って写れよな…」

To be continued〜

―後書き―

みなさんお久しぶりです。えーと今回はオリジナルの方に着手してみました。
今回は結構スラスラと書けました。手を抜いているだけかもしれませんが…
でも、内容的にも結構いい感じにしあがっていると思います。これでもちゃんとレベルアップしてるのかな?(笑)
ちなみにこの『殺人的料理』。某所の女の子のキャラからそのまま抜粋してきました(爆)
これを読んで誰の事かわかる人は笑ってやってください(笑)
それではまた