white memories〜第三章〜

学校の終わりを告げるチャイムが鳴り響く
HRを終えた生徒たちが各々の目的を持って行動する
部活動へ精を出す奴。友人との遊びに精を出す奴…
俺はというと、なんの目的もなくただぼうっと自分の席から外を眺めていた
あれから何日か経った。あれ以来、梓とはなんとなくぎこちなくなっていた
一緒に学校へ行くこともなくなり、いつもならこうして学校が終わると真っ先にからんでくるのに
ここ最近はそれももう御無沙汰である。
こうして、ただぼうっとしていると自然と周りの会話が耳に入ってくる。最近発見したテクである
 「なあなあ、校門のところに可愛い子がいるらしいぜ?」
 「マジかよ!?どんな子?」
 「それがさ…聖女の制服着てるらしいぜ」
 「聖女!?見に行こう見に行こう!!」
…………まあ、ご苦労なこった。
ん?聖女…?まさか…な
心の中ではそう思いつつも、俺は自然と席を立ち校門へ向かって歩き出していた

外は相変わらずの雪景色
一歩外へ踏み出すだけで寒さが襲いかかってくる
寒くて吐いた溜め息も白くなって空へ吸い込まれていった
晴天…とは言いがたい空模様。それを見て俺はますますうんざりする
さっきまで雪が降っていたのか、昇降口から外へ向かって伸びる真っ白い絨毯には
まだ数えるほどの足跡しか残っていなかった
 「いた…」
県下一の優等学校の制服、聖女の制服をまとった女の子が誰かと待ち合わせしているかのように
校門に寄りかかる様にして立っていた
 「思った通りだ」
そう呟き、俺はその女の子に近付く
 「よ」
 「あ…こんにちは」
俺に気付くとその女の子はペコリと頭を下げる
 「何やってんだ?こんなところで」
 「人を待っているんです」
 「人ねえ…で、誰だ?学年は?」
 「2年生です」
 「お?俺と同じ学年か、んじゃあ誰だよ?知ってる奴だったら呼んでくるぜ?」
 「藤村裕介」
 「そんな奴いたかなぁ…って俺!?」
こくこく
頷く。
 「って何だ、立花か…」
 「わかりませんでしたか?」
 「頼む…そう言う場合は容赦なく突っ込んでくれ…じゃないと自分でボケてて虚しくなる」
 「次からはそうします」
気付けば校門を通りぬける全ての生徒の視線を一身に浴びている気がしないでも無いが
この際気にしないことにする
 「でだ」
 「???」
 「何のために俺を待ってたんだ?」
 「一緒に行くためです」
 「どこへ?」
わかっていた。どこへ行こうとしているのかは…
わかっていたけど、俺はなんとなく聞いてみたかった
 「あの場所です」
そう、自分と同じ事を思っていた立花を確認する事で優越感とはまた少し違うかもしれないが
そんな満足感に浸る事ができる自分が嫌ではなかった
 「そっか、んじゃ行くとしますか」
 「はい」
そう頷くとともに歩き出す俺たち
 「裕介…」
今にも消え入りそうな声。だけど、俺にははっきりと聞こえた
なぜなら…
 「梓…」
何年も聞きなれた声だからだ

 「よ、よお」
こうして声もかけるのすら何日振りだろうか
 「………」
無言の梓
 「知り合いですか?」
沈黙を破るかのように立花が俺に聞いてくる。
彼女なりに気を利かせたつもりなのだろうか?とにかく助かった
俺はその質問に便乗することにする
 「ああ、長嶺梓。俺の幼なじみだ」
 「そうなんですか、私は立花深雪です。よろしくお願いします」
簡単に自己紹介を済まし、丁寧にお辞儀をする立花
 「………」
それでも無言の梓
 「お前なぁ…この前のことは悪かったよ。だからいい加減機嫌直せよ」
 「どうして?」
梓の第一声はそれだった
 「は?」
 「どうして…私じゃダメなの…?」
そう言い残して駆け出す梓
 「何だよそれ…って、お、おい!!」
 「追わなくていいんですか?」
 「………悪い、いいか?」
 「いいですよ。私は先に行って待ってますから」
 「悪いな、じゃああの場所で!!」
俺はそう言うと真っ先に梓の駆けて行った方へ走り出す

 

 「はぁ…はぁ…」
肌寒い外気が俺の頬をかすめる
今の俺にとっては心地よい感触だ
 「あいつ…どこいったんだよ」
考えてみる。家…はあり得ないな。長年の経験から容易に推測できる
だとすれば…
 「もしかして…」
再び走り出す。
そこは、ちょっとした広場…
ただ単に中央に大きな木があるだけの小さな空き地
こんな季節でもたまに雪合戦などで遊んでいる子供を見かける
俺…正確に言えば俺『ら』が昔遊んでいた広場…
その木に顔をうずめるようにして立っている女の子が一人…
 「相変わらず、ワンパターンだよな、お前って」
 「…………」
そっと声をかける、一瞬ビクッと身体を震わせたが、俺に目を合わせようとしなかった
 「お前はいっつもそうだよな、なんか悩み事がある時や悲しくなった時はここに来る…変わらねえな」
 「なんか…嬉しいような嬉しくないような…そんな気分だよ」
顔を見なくてもわかる。梓の声は震えていた…
俺に泣いた顔なんか見られたくないのだろう。木に顔を伏せているのはそのせいだろう
 「裕介なら…きっと追って来てくれると思ってた。でも…それがかえって辛くなっちゃうよ…」
 「………」
 「私…バカだよね?裕介の事、ずっとずっと好きだったのに…それが言えなくて…綾ちゃんだけじゃなくて
 立花さんにも裕介を取られちゃって…」
 「梓…」
何も言えなかった、どうしたらいいのかわからなかった
ただ…今はこうして聞いてあげることが一番だと俺は思った
 「裕介は…優しすぎるんだよ…私なんか放っておいてくれたらよかったのに…追って来るんだもん…
 そんなことされたら…諦められないよ…」
 「放っておけるわけねえだろ?」
 「そう、わかってたよ私も、裕介は絶対追いかけてきてくれるって…そう言えばきっと裕介は
 追いかけてきてくれるって…」
梓のからだがさっき以上に震えているのがよくわかる
 「最低だよね…わかってて、わざとこんなことしたんだもん。ごめんね裕介…ゆう…」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
俺の胸に梓が飛びこんでくる…
すでに梓の声は言葉にはなっていなかった
相変わらず、俺には顔を見せないまま胸の中で泣きじゃくる
誰もいない雪の広場に少女の嗚咽だけが聞こえる
 「…梓…」
 「………」
返事は無い、聞こえてはいるだろう…
そう思い俺は話を続ける
 「謝るのは俺のほうだ、今の今まで梓の気持ちに気付いてやれなかったこと。そして…」
一つ間を置いて
 「俺は…梓の気持ちに応えてあげることができない」
 「うん…」
返事があった。
 「だから…」
この先が続かない…
なんて言ったら良いのか…俺は改めて自分の情け無さを痛感する
 「あ…その…ごめんね?ほら、さっきの子、待たせてるんでしょ…?」
そう言って梓は俺から離れ、顔を上げる
はじめてみる梓の顔…それはいつものものとは全く別物だった
 「ちょっと…あんまり見ないでよ…涙で…変、だから…」
 「あっああ、悪い」
 「ほーら、早く行きなよっ」
 「大丈夫…か?」
 「うん、さっきよりは大分…でも、もうちょっとここにいるね」
 「そうか…それじゃあ俺はいくぜ?」
これ以上は一人にしておいた方が良い。俺はそう思った
 「うん」
振り帰り、走り出す。
 「裕介!!」
呼ばれたので向き直る
 「……ありがとね」
 「それはこっちの台詞だ!!」
手を振り、再び走り出す
気がつくと…自分の手を強く握り締めていた
俺は…また大切な人を失うんじゃないだろうか?
そんな気がしてならなかった。綾香、梓、そして…立花
でも俺は…約束したんだ。あの場所で会うと…
その時俺はまだ気付かなかった。
あの場所へ向かうたった一本の道に、立花の足跡が残っていない事を…

To be continued〜

―後書き―

どうも!読んでくれてる人がいるかどうかいつも心配している作者です(汗)
この物語もついに佳境へ突入しました…ここまで読むと…なんかバットエンドっぽい展開だよね?(笑)
さてさてこの続きはどうなる事やら。ま、知っているのは俺だけなんだけどね〜
次が最終章になるかな?多分…だけどね。それとこれを読んでくれた方、
一言でも良いので感想などをBBSに書きこんでくれると嬉しいです。
それではまた!!