最近読んだ本のページ2007年〜


 

無銭優雅 山田 詠美

2007年1月31日  幻冬舎

42歳なんて、人生の折り返し地点をちょっと過ぎたところ。
お楽しみはこれからさ。ようやく優雅なオトコイ(大人の恋)を始めらる年代に差し掛かったゆるい男女が
繰り広げる、お金は無いけど、それで買うことのできない優雅な人生の営みを彼女独特の表現力を駆使して
描ききった作品です。
ラストでは、胸にジーンと迫るクライマックスも用意されていて、心憎い仕上がりになっていますね。

 

 

 

 


ロング・グッドバイ レイモンド・チャンドラー

村上 春樹訳 早川書房 2007年3月10日

普段は探偵小説をまず読むことは無いが、村上春樹訳の鳴り物入りで出版されたので、
昨年のグレートギャツビーに引き続いて、購読してみました。
私立探偵フィリップ・マーロウの視点から、様々な登場人物が巧みに描写されていて、
会話の一つひとつもやたらと気が利いていて、実に丁寧に愛情を持って訳者が翻訳していることが
伺える。ストーリー的には冗長な部分もあるが、最後の謎解きの部分には、流れるような高揚感が
あります。

 

 

 

 

 


 

テムズのあぶく 竹谷 牧子

日本経済新聞出版社 2007年2月20日

出版社が日経であることから、イギリスを舞台とした経済小説かと思いきや大違い。
バツイチ同士の日本企業の駐在員と舞台演出家によるロンドンを舞台とする恋愛小説です。
最初は分別盛りの熟年に近い男女の出会いから、いまさら恋や愛もあるまいにとお互い思って
いるのだが、仕舞いには、まるで少年少女の純愛関係にまでさかのぼってしまうあたり、
なかなか読ませる小説です。
人間いくつになっても、こと恋に関しては、変わらぬであろう普遍性が見事に描かれて、
一気に読めて しまいました。
ただ、つまらない駄洒落が目障りなのと、最後がメロドラ調のセカチュウパターンにならなければ、
アナザーストーリーとして、 もう少しストイックな作品になったのではないかと、少し残念に思われます。

 

 


ひとり日和 青山 七恵

河出書房新社 2007年2月28日

20歳の女性が、親元を離れて、遠い親戚の71歳のおばあさんの一人暮らしの
東京近郊の駅前の一軒家で、暮らし始めるお話。
日々の淡白な生活の中に、危なっかしい恋愛があり、キオスクやコンパニオンの
仕事があり、おばあさんのダンス教室で知り合ったおじいさんとの老いらくの恋も
絡まり、のんびりとした時間空間が描かれている。
力みも無く、肩の力が抜けた淡々とした内容だが、文章力に支えられて、
不思議な読後感が残る掌編でありますね。

 

 

 

 


チエちゃんと私 よしもと ばなな

株ロッキング・オン 2007年1月30日

チエちゃんという少し変わったところもあるが、なぜか惹きつけられてしまう
かけがえの無いいとこのパートナーとめぐり合って、一緒に暮らし
はじめる女性のお話です。仕事あり恋愛ありの二人の生活の中に
家族として一緒に暮らし続けることの意味を問いかける、現代における家族再生と
癒しの物語といってもよいですね。
後半で、チエちゃんの出生の秘密が解き明かされて、それでも二人は、
さらに強い絆で結ばれて生きていくことに感銘をうけました。
 

 

 

 


アルゼンチンババア よしもと ばなな

幻冬舎 2006年8月5日

アルゼンチンババア、なんという刺激的なタイトルでしょうか。
その語感どおりの風変わりで鼻つまみの地元では名物のおばあさんが
母親の葬式の後、そんなにたっていないのに、自分の父親と暮らしていることを
知ってしまう主人公の若い女性。
ショックは隠しきれないが、二人の生活の場「アルゼンチンビル」を
恐る恐る訪れてみると、彼女の不思議な魅力にいつしか巻き込まれ
曼荼羅づくりという新しい生きがいを見つけてチャレンジしている父親の姿を
そこに発見する。
いるかの形の母親の墓石をこつこつと作っている父親の場面には、思わず
ぐっと来ました。短いが味のある「ばなな節」健在の1冊です。

 

 

 

 


ぬるい眠り 江國 香織

新潮社 2007年3月1日

「なぜ物を書いているのか、と尋ねられたら、それ以外のことができなかったので、
とこたえます。すこしですが、ためしてはみたのです。二十代前半のことです。その
あいだも、書いていました。」著者があとがきで言っているとおり、書かずにはいられない
彼女の印象的な佳作短編集。
特に、新聞の死亡欄で見つけた、見知らぬ人の葬儀に参列することが習慣となってしまった
老夫婦との交流を描いた「清水夫妻」は、とても印象に残る不思議な作品です。

 

 

 

 

 


 

恋愛小説

川上 弘美・小池 真理子・篠田 節子・乃南 アサ・よしもと ばなな

新潮社 2007年3月1日 

現在の日本を代表する5人の女性作家がそれぞれに紡ぎ出した
男女のココロのすれ違いを絶妙に描いた掌編集です。
川上弘美とよしもとばななが、いつもとはちょっと違った味わいに
感じられるのは、すこし不思議です。

 

 

 

 

 


 

 

夏の庭 湯本 香樹実

新潮社 2005年9月5日 38刷

3人の小学生が、ひっそりと一人暮らしをしている老人の死ぬ瞬間を
見たいという、残酷な動機から関わり合い、いつの間にか、少年と
老人が心温まる友情で結ばれていくというヒューマンストーリー。
夏休みに離島でのサッカー合宿からお土産を携えて帰ると、
そこには、思いがけない老人の死が待ち構えていた。
かけがえの無い人の喪失感から、少年たちは、死の本当の意味を知り
友情の中で、すこし大人になっていく。
 

映画化もされているそうなので、そちらも観てみたいと思います。
 

 

 

 


夜の来訪者 プルーストリー作 安藤 貞雄訳

岩波文庫 2007年2月16日

イギリスの劇作家プリーストリーの代表的な戯曲。
裕福な実業家の娘の婚約を祝う夜の団欒に突然訪れた
なぞの警部が、ある若い女性の自殺事件があったことを告げ、
幸福そうな家族のすべての人々が、彼女の死に深く関わって
いることを暴いていく家庭劇です。
息もつかせぬ密度の濃い展開の末に、家族の一人ひとりが、
良心に基づく懺悔の念を抱くのだが、親子によってゆり戻しと断絶が訪れ、
最後には、さらにどんでん返しが.....
別役実の「マッチ売りの少女」を思い起こさせる、古典を大切にする岩波文庫の価値ある一冊です。

 


 

雨はコーラがのめない 江國 香織

新潮文庫 2007年7月1日

「雨はコーラがのめない」 なんて変なタイトル?
書店の文庫コーナーで目を引いた、小さな犬のイラストが表紙の本でした。
そうか、「雨」とは江國香織さんの飼っているペットの名前か。
12月の雨の日にデパートの屋上のペットショップで衝動買いをした
コッカスパニエルと音楽のある生活を綴ったエッセイ集です。
カーリー・サイモンから始まり懐かしい洋楽の数々に対する江國さんの感性が
的確な文章表現となっていて、思わずうなってしまいます。
また、「雨」に対する恋人以上の愛情がありのままに表現されていて、
梅雨時の今頃に、まったりと猫をひざの上に乗せて読むのにふさわしい1冊でした。
「門あさみ」の「セミヌード」なんていう懐かしいアルバムも紹介されていて
昔のLPやカセットテープを引っ張り出してきて、聴きだしたりしてしまい、
やたらと寄り道にしながら、ゆったりいい時間が過ごせましたね。

 

 


テニスボーイの憂鬱 上下 村上 龍

集英社文庫 1987年 10月25日

地主の一人息子でステーキハウスの経営者の主人公は、仕事よりテニスに夢中な30歳の青年実業家。
たまたま、店に来たモデルの若い女に魅かれ、テニス同様夢中になる。
土地成金のドラ息子の身勝手な浮気小説でありながら、テニスにせよ、恋愛にせよ、ストイックで
ある意味で誠実な哲学に裏打ちされた思想小説といえる。
時代設定が、古いので、活躍したテニスプレーヤーも懐かしい面々であり、ピンク電話が、恋愛の
キーポイントになるあたり、携帯電話の日常化した現在では、若い人には、理解しにくい部分もあるが
テニスに対する作者の哲学ともいえる理論には、なるほどと思い当たる節が多くある。

私がテニスのページをはじめるきっかけとなった小説です。

もし良かったらテニスボーイの憂鬱を参照してみて下さい。

 

 

 

 

 

 

 


谷川俊太郎詩選集1 谷川 俊太郎

集英社文庫 2005年6月25日

日本を代表する詩人谷川俊太郎の初期の作品からのアンソロジー集。
わかりやすい日本語でありながら、深く美しい言霊にしてしまう、日本語の錬金術師といえる。
第一詩集『二十億光年の孤独』(1954)から『空に小鳥がいなくなった日』(1974)までより精選。
 

特に印象に残った「朝のリレー」は、お気に入りの1作です。
「祈らなくていいのか」(『谷川俊太郎詩集 日本の詩人17』所収)より
-1968年 河出書房
 


『朝のリレー』

カムチャッカの若者が
きりんの夢を見てるとき
メキシコの娘は
朝もやの中でバスを待っている
ニューヨークの少女が
ほほえみながら寝がえりをうつとき
ローマの少年は
柱頭を染める朝陽にウインクする
この地球では
いつもどこかで朝がはじまっている

ぼくらは朝をリレーするのだ
経度から経度へと
そうしていわば交替で地球を守る
眠る前のひととき耳をすますと
どこか遠くで目覚まし時計のベルが鳴っている
それはあなたの送った朝を
誰かがしっかりと受けとめた証拠なのだ

 

 


オトナの片思い

石田衣良 栗田有起 伊藤たかみ 山田あかね 三崎亜記
大島真寿美 大崎知仁 橋本紡 井上荒野 佐藤正午 角田光代

2007年8月8日 第1刷 角川春樹事務所

料理通信という雑誌に掲載された、軽めの恋愛小説アンソロジー。
今をときめく売れっ子作家と初めて目にする作家の名が連なっており
それぞれが、かなり短めな短編なので、睡眠前に毎日1篇ずつ読み進むと
快い睡眠薬代わりになります。
しかしながら、思わぬ内容から、夢に続きが出てきたりしても、それはそれで、
作家には責任は取れません。
年の離れた職場の部下を突然恋してしまったり、ゆっくりさよならをとなえるように
離婚のステップを進めていくカップル等、なかなか面白いシチュエーションの中で
淡々と進むオトコとオンナの淡い感情の襞をそっと垣間見せてくれて渋い1冊ですね。

 


アサッテの人 諏訪 哲史

2007年7月23日 講談社

しょっぱなから「不意にポンパときた」、
えー、これって何なのと思わせる、小説を書く過程そのものをテーマにした
コンセプチュアル小説です。遠い昔のフランスのヌーボロマンを
髣髴とさせる構成と、ポンパをはじめとする意味不明の言葉のもつ
不可思議な唐突感が、だんだん癖になる。
そうなってしまうと、もう、作者諏訪哲史の思う壺なのであります。

第137回芥川賞と第50回群像新人賞をW受賞したいわくつきの観念小説です。

 

 

 

 

 

 


夜明けの縁をさ迷う人々 小川 洋子

2007年8月31日 初版発行 角川書店

「博士の愛した数式」「ブラフマンの埋葬」「ミーナの行進」で
読者を裏切らない手堅さで次々に作品を発表している小川洋子さんの
少し現実離れした作者独特な不思議な世界を垣間見せてくれる9編の
短編集。
毎晩、お休み前に1編ずつ、読み進むと、夢の世界にお話の続きが
出てきそうな内容ですね。

 

 

 

 

 

 


あなたの呼吸が止まるまで 島本 理生

2007年8月30日 新潮社

「ナラタージュ」で、私のお気に入り作家入りした島本理生の久々の
長編小説。舞踏家の父と12歳の作家志望の娘の少し怖いオハナシ。
まるで、作者の少女時代の怨念が書かせた小説のようで、
読んでいて、とても息苦しくなってしまいました。
リアリティのある内容に読んでいる自分の呼吸が止まらぬようにご用心です。
 

 

 

 

 


千年の祈り イーユン・リー著 篠森 ゆりこ訳

2007年7月 新潮社

北京生まれの新人による驚きの処女短編集。
まだ、35歳だというのに、老成した人々の情感が、なぜこんなにリアルに母国語以外の言語(英語)で表現できるのかと
思うと、とても不思議な感じがします。
彼女曰く、「母国語でないが故に、かえって表現の選択に迷うことなく、的確に表現できてしまう」ということもあるのですね。
表題作の「千年の祈り」は、異国の地アメリカで離婚しつつ一人で生活している娘を心配して中国からやってきた老父と
娘の微妙な情感の交流を見事に描いていて、それぞれのかかえている秘密も、すばらしい味付けとなっていて、
すばらしい傑作です。

 

 

 

 

 

 

 


タタド 小池 昌代

2007年7月27日 新潮社

不思議なタイトルのタタドに引き込まれて購入した1冊。
タタドは、避暑地の海岸で、伊豆の下田の先にある多々戸海岸がモデルとなっているらしい。
東京での生活に疲れて、半ばタタドの別荘に移り住んでいる熟年夫婦と、それぞれの友人。
そんな男女四人がタタドで繰り広げるありきたりの避暑地での時間の中で、四人の関係は、
ふとしたことから、思いがけない方向に進んでいく。
ちょっとコワイお話ですね。

 

 

 

 

 

 

 


猫風船 松山 巖

2007年6月 みすず書房

東京のちょっと下町が混じった都会の原風景の中で、繰り広げられる
シュールリアリズム風なショート・ショート小説集。
和み系のお話の数々が、ほのぼのと、笑いを誘って、思わずにんまりしてしまいます。

ゆっくり、何度でも読み返したい1冊です。

 

 

 

 

 


走ることについて語るときに僕の語ること 村上 春樹

2007年10月15日 文藝春秋

村上春樹が、ライフワークとして取り組んでいるフルマラソンを
通して、「走ること」と「書くこと」についての共通する彼の姿勢を
正直に赤裸々に語った1冊。
なるほど、彼の書くことへの真摯な情熱や姿勢は、「走ること」への
誠実な考え方に裏打ちされていたのかと、納得する。
これほどまでにマラソンの準備に涙ぐましい程の情熱と努力を注ぎこみながら
結果が出ないこともあるのかと、身につまされつつ、決して来年も走ることをやめない
彼の姿勢に、生きることへの誠実さが伝わって来て、胸が打たれるのです。
一見飄々としているようでいながら、規則正しい、ストイックな生活を続け
「海辺のカフカ」に続く長編をきっと今頃、どこかで、こつこつと書いていることでしょうね。
自分も、ふただび、走ることを再開しようかなと思わせる1冊です。

 

 


2007年12月25日

NHKドキュメント
考える「ベストセラー作家石田衣良の場合」

現在の売れっ子作家石田衣良の日々の生活に密着取材しつつ、
制限時間48時間内に「自殺願望を持つ少女が自殺をやめたく
なるような童話を作る」という番組からのミッションに応える
ドキュメント番組。

月間300枚というペースで次から次へと原稿をしあげつつ、
毎日のように受ける取材やインタビューの合間を縫って、
立ち寄ったカフェや本屋で、色々な創作のヒントを得るようすが、リアルに垣間見れて、極めて興味深い内容で
あった。
仕事場には、本やCDが整然と並べられ、大きな机には、パソコン・ワープロと、いかにもいい音の出そうな
ミニコンポに囲まれつつ、課題となる童話のプロットを一枚の紙に万年筆で手際よく記述して、完成された
内容を一気にパソコンに打ち込んでいく様は、過去の作家のイメージとは、大きくかけ離れている。
理性が司る意識の自分と無意識の世界に生息するもう一人の自分との会話作業を通じて、作品が
仕上げられていく過程も興味深い。

 

 

 

 


あなたがここにいて欲しい 中村 航

2007年9月10日 祥伝社

私が遠足に行った小田原城の動物園にいる象のうめこちゃんが登場する親近感から
購入した1冊です。
彼独特のやさしさと温かみ、そして人生に対するムリをしないポジティブ感がとても好きです。
「ハミングライフ」は、以前に読んだ「LOVE or LIKE」というアンソロジーの短編集にも
収められていた、野良猫と木のウロを仲介とした淡い男女の交流を描いたほのぼのとした
メルヘンのような作品で、特にお気に入りです。

 

 

 

 

 

 

 


 

カツラ美容室別館 山崎 ナオコーラ

2007年12月 河出書房新社

カツラをかぶっている店長の美容院を舞台とする若い男女の交流を描く
友情小説。

デビュー作の「人のセックスを笑うな」や2作目の「浮世でランチ」に
比べると少し淡白で物足りなさが残るが、次回作には是非期待したいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


紅水晶 蜂飼 耳

2007年11月 講談社

現代を代表する若手詩人の蜂飼 耳さんの初の短編小説集。
詩人が小説を書くということが、こんなにスリリングなものをもたらすとは、
思いもよらなかった。これは、詩小説という新しいジャンルを開拓した作品ですね。
ゆっくり、じっくり味わって読みましょう。

 

 

 

 

 


ティファニーで朝食を トルーマン・カポーティ 村上春樹 訳

2008年2月 新潮社

あまりにも有名なオードリー・ヘップバーン主演の映画の印象が強く、
学生時代に新潮文庫で別の訳者の本を読んだ時の印象は、記憶の彼方となっていました。
今回、村上春樹さんの訳ということで、改めてじっくり読んでみましたが、
ヘップバーン扮するホリー・ゴライトリーのギターの弾き語りーの
「ムーンリバー」がリアルに聴こえてきそうな、現代日本語に丁寧に訳されていることが
伺える密度の濃い一冊でした。

 

 

 

 

 


風花 川上 弘美

2008年4月 集英社

最近の川上弘美の作品は、この手のテーマが多いのは、
従来からの読者にしてみると賛否の分かれるところでしょうか。
「のゆり」という奇妙な名前の主人公の女性は、「暢気」な「百合」を連想
させるような、ある意味おおらかでありながら、したたかで芯の
強い面も生き生きと描かれております。
不倫した夫から、離婚を迫られる局面から、最後に立場が逆になるラストのあたりでは、
読んでいて、ぐっと来るものがありましたね。

 

 

 

 

 

 

 


サウスポイント よしもと ばなな

2008年4月 中央公論新社

同じような複雑な家族環境の中で中学生の頃に出会った珠彦とテトラが、ドラマチックで
運命的な再会をハワイの地で果たす切ないラブストーリー。
 ありそうもないお話だとは思いますが、それでも二人を中心とした登場人物の会話の
一つ一つにどんどん引き込まれてしまいます。
もっともっと続きが読みたくなるような一冊でした。

 

 

 

 

 


見知らぬ場所 ジュンパ・ラヒリ 小川 高義訳

2008年8月 新潮社

『停電の夜に』の著者による邦訳2冊目となる短篇集。
2008年7月、フランク・オコナー賞受賞作。

ベンガル系インド人のアメリカ移民の一世と二世という、限られた民族の登場人物をあくまでも描き続ける作者には
ただただ、敬服します。作者が、そのような特殊な背景の登場人物をひたすら描く事が、逆に、国と民族を超えて、
読者が安心して共感できるリアリティの源泉となっているのかもしれない。
表題作の「見知らぬ場所」では、妻を亡くした父親と娘が、現代のアメリカ社会の中で、生きていくうえで抱える「孤独」と
「遠慮」を見事に描き切っている。

そして、「ヘーマとカウシク」の3部作では、子供時代の家族がらみでの交流のあった男女が、30年来の時間の経過の中で
偶然の再会を果たすというドラマ仕立ての連作3部作。
一見メロドラマのようであるが、作者の静謐で抑制の効いた語り口が、芸術作品に仕上げている。
次回作も、また楽しみな作家である。

 

 

 


乳と卵 川上 未映子

2008年3月 文藝春秋

すごい日本語、マグマのように沸々と湧き上がる改行なしの関西弁による書き出しを読み始めた時には、
これが「芥川賞受賞作?」と疑ってしまったが、読み進む内に、なるほど、作者が、このテーマで書くには
このやり口しかなかったということに合点がいくことしかり。
大人になりたくない緑子といつまでも大人のオンナでいたい豊胸手術を受けるべく母親の巻子。
そんな親子を受け入れる巻子の妹の私の視点からお話は盛り上がっていく。
最後のクライマックスの作者の言葉の畳み掛け方には、思わず圧倒されてしまいました。

 

 

 

 


猫を抱いて象と泳ぐ 小川 洋子

2009年1月 文藝春秋

唇に脛毛の生えたリトル・アリョーヒンという少年が、ふとした偶然から知り合ったマスターに教えられてチェスの才能を伸ばし
チェス人形の「リトル・アリョーヒン」と共に数奇の人生を歩む感動作。
「博士の愛した数式」の路線を発展させた読み応えのある内容に大いに満足した。
「博士の愛した数式」同様にやがて映画化されることは間違えないだろう。
エンディングはあまりに悲しすぎる。

 

 

 

 

 

 


1Q84 Book1 Book2  村上 春樹

2009年6月 新潮社

村上春樹7年ぶりの書き下ろし長編。発売当日に仕事の都合で書店に寄ることが出来なかったが、
どうせどこの書店にもてんこ盛りに平台に積み上げられているだろうから、あわてることはない。
お楽しみはゆっくり後から楽しもうと、たかをくくっていたら大誤算。
その後、あらゆる書店をはしごしたが、どこも品切れ中の雨嵐。
あわててAMAZONに予約したが、入手するまでに1ヶ月近くかかってしまった。
ようやく、読んで見たが、従来から手法を駆使した、春樹パラレルワールド全開で
ぐいぐいと読者を引っ張っていく彼の手法には、お見事と脱帽モノでした。
但し、読了感としては、「海辺のカフカ」の方が、重厚感があったような気もしますね。
最期に青豆が、ピストル自殺する光景の筆致のかっこよさには、映画のラストシーンを髣髴とさせるみごとさにうっとりしてしまいましたが、
出来れば、青豆は、死なずに天吾と再会するストーリーもあったのでは....と思ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ヘヴン 川上 未映子

群像2009年6月号 講談社

たまたま、テレビのドキュメンタリー番組で、川上未映子が新作長編「ヘヴン」の創作に
悪戦苦闘している様子が放映されていたのを観て、普段は購入しない文芸誌「群像」なんぞを
買って、読んでみました。
芥川賞受賞作家川上未映子のイメージからは、かなり隔たった、苛めを受けている男女の中学生の
交流を描くという、地味な作品に作者の別な面を垣間見た感じを受けました。
暗いストーリー展開に、少し、読んでいてめげてしまいましたが、最期に、救いがあってほっとしました。
苛めを受けていた女子中学生コジマが、最期にどうなっていったのかが、とても気になりました。

おまけとして、村上春樹の1Q84の特集があり、とても興味深く読みました。

 

 

 

 


終の住処 磯崎 憲一郎

2009年8月 新潮社

30歳の結婚が決して晩婚とはいえないと思うのだが、
結婚当初から10数年会話を交わすことのない、さめた夫婦生活の中で、
不毛で執拗な不倫を繰り広げる夫が、最期には妻と和解して老後を迎える
という救いの部分で終わっている。
なかなか、ココロに入ってこない理解に苦しむ小説ですね。

 

 

 

 

 

 

 


手 山崎 ナオコーラ

2009年8月 文藝春秋

25歳の主人公の女性が、年上のおじさんとばかり付き合いつつ
「ハッピーおじさんコレクション」というブログに街中で盗撮した
愛すべきおじさんの写真を投函するという風変わりなストーリーを
平易な文章で淡々と綴った不思議な小説。
彼女の独特な感性には、いつも、してやられてしまうのです。

 

 

 

 

 

 


学問 山田 詠美

2009年8月 新潮社

静岡の田舎町で繰り広げられる同級生男女4人を中心とした
性に目覚める10代の成長教養小説。
「僕は勉強ができない」「放課後の音符」等の青春前期を描いた
著者の多くの作品群と共に代表作として残ることは間違いあるまい。
静岡県袋井あたりの方言が、多用されていて、静岡県人として、
とても近しく感じられ、自分の懐かしい少年時代の思い出をリアルに呼び覚まして
くれる。ココロの遠い記憶の沈殿物をかき混ぜられて、こそばかゆくなる
小説である。

 

 

 

 

 


生物と無生物のあいだ 福岡 伸一

2007年5月 講談社

海岸に打ち寄せられる小石と貝殻の両方の自然の美しさに私たちは魅せられるが

両者の決定的な区分として、生物と無生物の違いがある。

当たり前のことであるが、そういった生物と無生物の境界を定義するものは何かということに

ついて、分子生物学の歴史を追跡しながら素人にもわかりやすく説明した本である。

DNAのお話等を交えて、生物への哲学的な作者の洞察には、すごい深みを感じる。

 

 

 


笑う脳 茂木 健一郎

2009年 8月 アスキー・メディアワークス

笑いとは、人類だけに与えられた高度で複雑な脳の活動であることを改めて教えてくれる一冊。

著者の少年時代からの笑いに対する執着の一面が垣間見れて、ゲストとの対談も含め、

楽しく笑いを科学した本です。

 

 

 

 

 

 


夏への扉 ロバート・A・ハインライン/小尾 芙佐訳

2009年8月 早川書房

仕事上のパートナーでもある恋人と親友に裏切られた失意の主人公が、飼い猫ピートの信じる希望の「夏への扉」を

求めて、前向きに生きていく未来と過去を駆け巡る冒険物語。

装いも新たに新訳で登場した作品ですが、1960年代の原作の古さを決して感じさせない物語に、思わず読みいって

しまいました。愛くるしい猫のピートの魅力も作品を引き立てるのに一役買っているのがいいですね。

 

 

 


思考の整理学 外山 滋比古

2009年11月 筑摩書房

1986年初版で2009年10月に61刷を重ねる、23年越しのベストセラー。
グライダー型の学習しか出来ない人間が多い中で、自力で飛行出来る
飛行機型人間になるためには、何が必要かを明確に教えてくれる1冊。
若い人から、元若い人まで、誰が読んでも損の無い1冊である。

 

 

 

 

 

 


はじめての構造主義 橋爪 大三郎

2009年11月 講談社

2009年10月に構造主義の創始者ともいえるレヴィ・ストロースが101歳で亡くなったそうだ。
そこで、彼に敬意を表して、学生時代に夢中になっていた構造主義に再入門してみたくて
手にした1冊。
実に明快に構造主義のイロハを再認識させてくれる内容に思わずうんうんとうなることしきり。
構造言語学のソシュールと構造人類学のレヴィ・ストロース中心の内容だが
今読んでもまったく古さを感じさせないし、ぶれも無い。
いつの世も、われわれは、構造という色眼鏡で世の中を見ているという謙虚さを持つことが
必要だ。

 

 

 

 


身の上話 佐藤 正午

2009年7月 光文社

控えめで地味な女性がとる気まぐれな行動が、思わぬ発展をして、
大変な事件に巻き込まれていくという、身の上話というタイトルからは
想像も出来ないピカレスク物語です。
最後には、ほのぼのとしたぬくもりのある余韻を残してエンディングを
迎えると思いきや、とても悲しい結末が待っているのであります。
 

 

 

 

 

 


冬の夢 スコット・フィッツジェラルド 村上 春樹 訳

2009年11月 中央公論新社

村上春樹が厳選して翻訳した、フィッツジェラルドの「ギャッツビー」以前の
5つの短編集。
特に最初の表題作「冬の夢」は、短いながらも「ギャッツビー」の原風景が
凝縮されていて、悲しくも完成度の高い作品に仕上がっていてお勧めです。
この後、「ギャッツビー」以降の晩期(というには若すぎる)の短編集も
出版される予定なので、そちらにも期待します。

 

 

 

 

 


転生回遊女 小池 昌代

2010年2月 小学館

舞台女優の母親が亡くなって一人ぼっちになってしまった17歳の桂子は、沖縄の宮古島に旅をして、
たくさんの人々との出会いから、精神的に大きく成長し、帰京後に、母のように、芝居に出演する。
ナチュラルで魅力的な主人公の桂子のロードムービー(教養小説)的な魅力にあふれ、
ファンタジーのような映像世界を作者独特の詩的な文章表現で紡ぎ出した読み応えのある小説です。
短編集の「タタド」以来、詩人から小説家としての才能を開花した作者が、満を持して
長編小説の世界に踏み込んだという感じですね。
文章をゆっくり噛み締めて、いつくしむように読んでしまいました。
次の作品が楽しみです。
 

 

 

 

 

 


僕の好きな人が、よく眠れますように 中村 航

2010年2月 角川書店

北海道から僕の通う大学院にやってきたチャーミングなゲスト研究員に、僕は、たやすく恋をしてしまう。
ところが、彼女は、人妻研究員だったとは...
禁断の恋のせつなさを、作者独特の抑揚の効いたストイックな文章で綴っていく。
いまどき、こんな恥じらいのある小説を書く作家は、なかなか見当たらなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 


1Q84 BOOK3 村上 春樹

2010年4月16日 新潮社

昨年のBOOK1,2の時のように1ヶ月入荷待ちに
なることもなく、発売日当日に、らくらく購入できた。
出版社の新潮社も、覚悟を決めて、だいぶ気合を入れて初回の
刷を積み上げたようだが、それでも、おそるべくペースで
販売記録を更新しているようだ。
内容はというと、死んだはずの青豆が生きていて、天吾との
再開をはたすまでのラブストーリーともいえるし、「リトルピープル」
「空気さなぎ」の宗教のテーマや天吾と父親との関係等もストーリーに
交錯してからみつき、「さきがけ」の雇われ探偵牛河が、いい役どころの
味を出しながら、最後は残念なことになったりと、これまでの村上作品の
進みかたからすると、かなりわかりやすく物事が進展し、読者へのサービス精神が
旺盛な作品になっている分、少し、物足りなさが残るのは否めない。
大衆娯楽作家とは、ちょっと路線が違っていたはずなのに...と思うのは、昔からのファンのやっかみに
すぎないのかもしれませんね。

価値ある1冊、十分楽しめる物語であることには、間違えありません。

 


パスタマシーンの幽霊 川上 弘美

2010年4月 マガジンハウス

現代の短編小説の名手川上弘美が、雑誌「クウネル」に連載した作品を短編集にしたもの。
どれもこれも、読者を1行目から、無駄なく導いていく筆致には、驚くばかりである。
研ぎ澄まされた文体に、たとえ、奇想天外な小人が登場したとしても、不思議なリアリティに
読者は、納得してしまうしかないのであります。
若い女性が、主人公で、恋愛がうまくいかない切ない話が多いのですが、
そんなに暗くなく、生きていくのは、まんざらでもないですねと思えてしまうのは、
彼女ならではの、のほほんとした、持ち味からくるものなのでしょう。

 

 

 

 


ねむり 村上 春樹

2010年11月30日 新潮社

ある日、眠れなくなってしまった主婦の苦悩を描いた短編小説「眠り」を20年ぶりに
改稿。
著者の書き下ろしの「あとがき」にあるとおり、たまたま、ドイツの地で目にした
イラスト付きのドイツ語版を著者がたいそう気に入り、イラストをそのまま生かして、
原作に手を入れたそうだ。そのあたりのいきさつも含めて、長めの「あとがき」も
興味深い内容となっている。

 

 

 

 

 


夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集

1997-2009 村上春樹 文藝春秋

マスコミ嫌いで知られる著者の数少ないインタビューを時系列で集めた著書です。
どちらかというと、海外での英語でのインタビューを翻訳したものが多く、
その中に、著者の誠実な本音がうかがえて、とても興味深いです。
 タイトルの意味が、わからなかったのですが、読んでみるととても良く理解できました。
小説を創作するにあたり、一人称から三人称に変えた必然性とかが、とても良くわかり
等身大の一個人としての村上春樹にとても親近感を感じました。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

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