機動戦士ガンダムSeed(英題:Mobile Suit Gundam SEED)


† アニメ 作品紹介 †
ジャンル登場キャラクタ :声優
SF
ロボット
キラ・ヤマト:保志総一朗
アスラン・ザラ:石田彰
ラクス・クライン:田中理恵
カガリ・ユラ・アスハ:進藤尚美
ムウ・ラ・フラガ:子安武人
ラウ・ル・クルーゼ:関俊彦
イザーク・ジュール:関智一
ニコル・アマルフィー:摩味
ディアッカ・エルスマン:笹沼晃
マリュー・ラミアス:三石琴乃
フレイ・アルスター/ナタル・バジルール:桑島法子
ミリアリア・ハウ:豊口めぐみ
カズイ・バスカーク:高戸靖広
トール・ケーニヒ:井上隆之
サイ・アーガイル:白鳥哲
アンドリュー・バルトフェルド:置鮎龍太郎
レドニル・キサカ/ノイマン曹長:千葉一伸
トノムラ伍長:渋谷茂
パル伍長:高戸靖広
チャンドラ伍長:鳥海勝美
エリカ・シモンズ:柳沢三千代
ムルタ・アズラエル:檜山修之
オルガ・サブナック:涼平
クロト・ブエル:結城比呂
シャニ・アンドラス:宮本駿一
原作
富野由悠季
矢立肇
脚本
両澤千晶
吉野弘幸
面出明美
大野木寛
こぐれ今日子
監督
福田己津央




 1979年に放映された「機動戦士ガンダム」以来、シリーズ9作目。
 受精卵の段階で遺伝子操作を施すことにより高い能力を持って生まれた 「コーディネイター」達は、生身の人間達「ナチュラル」にとって脅威となっていた。あらゆる 分野でトップを占めるコーディネイター達とナチュラルとの格差は対立を生み、人種差別に発展。 大半のコーディネイター達は住み慣れた土地を追われ、宇宙で農業生産に従事するための スペースコロニー「プラント」を本拠地とした。しかしプラントは地球からの独立を許され なかった。地球からの支配と搾取に対して、プラントは激しく反発。
 コズミックイラ70、後に血のバレンタインの悲劇と呼ばれる惨劇が起きる。地球軍は 核ミサイルにより、プラントの一部のコロニーを破壊するという大量虐殺を敢行。 プラントは報復として核エネルギーを使用不可にするニュートロン・ジャマーを 多数地球に投下し、地球は深刻なエネルギー不足問題を抱え込むことに。 地球、プラント間の緊張は高まり、武力衝突へと発展した。誰もが疑わなかった数で勝る 地球軍の勝利。だが、当初の予測は大きく裏切られ、戦局は疲弊したまま既に11ヶ月が 過ぎようとしていた
 中立国オーブのスペースコロニー・ヘリオポリスで、少年キラ・ヤマトは友人達と 平和な学生生活を送っていた。しかし、ヘリオポリスで極秘裏に地球軍が開発していた 新型モビルスーツをプラントが察知したことで、彼らは戦渦に巻き込まれる。急襲に 地球軍将校達は成すすべなく殺され、新型モビルスーツが次々と強奪される。残された X105ストライクガンダムに乗り込んだキラは、プラント軍から逃げ惑う友人を守ろうとした。 その戦渦の渦中、プラント軍将校の中にかつて幼年学校で親友であったアスラン・ザラを 発見するのだった...。


† アニメ 作品レビュー †
 かなり長い感想(※考察もあり)になってしまった・・・。この作品は、作り手に言いたいことが 山ほどある。

 まず、この作品に対する世間一般の評価を断っておと、DVDの売り上げは100万枚を突破し、 ガンダム作品中では商業的に大成功。監督は「親子二世代で楽しめるガンダムを、イラクへの アメリカ駐留などの中東問題が取り沙汰される今、戦争とは何なのか考えてもらう作品を。」と 当初言っていたが、蓋を開けてみると10代の少年層と女性陣に受けたが、その他からは総スカンを 食ってしまった。で、自分はというと、前半「A」、中盤「B」、終盤「D」という残念な評価。 平均をとって総評Cだが、後味の悪さが際立つ竜頭蛇尾な作品だと思う。

 序盤で驚かされたのが、人間関係や世界観が奇抜だったこと。主人公・キラは幼年時代の親友・ アスランが敵軍にいることを知り、2人は仕方なく干戈を交えざるを得なくなっていく。キラは 仲間達を守るため、アスランは大義のため。キラは「コーディネイター」でありながら 「ナチュラル」の仲間を守るために、差別的な罵声に耐え、やりたくもない戦闘で活躍していく。 そして、自分しか仲間を守れない状況と責任感に苦悩する。平和な生活から一転、戦争に巻き 込まれた主人公の様々な葛藤、そしてコーディネイターVSナチュラルという 他作品にない(私の知る限りの範囲だが、遺伝子改造が"公認された世界"を舞台にした映画や アニメは他にない)難しい世界観は、新しいガンダムに格好の素材でかなり期待出来た。 主題歌「Invoke」とエンディング・テーマ「あんなに一緒だったのに・・・」は心に染み 渡る名曲。
 作中の大人達が無能(※特にザフト軍)で10代小僧達の言いなりになっていること、主人公の学友の 一人フレイという少女が主人公を篭絡するエロシーン(※放映時間が17:30〜だったこともあり 問題になった)はかなり抵抗があったが、それらに目を瞑れば充分楽しめるレベルだった。

 しかし、後半に入っておかしくなっていく。キラとアスランの対立は、それぞれ仲間を失った ことから最高潮に達する。激闘の末にキラは「本当の敵は何なのか、分かった気がする・・・。」 と医療ベットの上で呟く。この時は「本当の敵は、戦争を煽り立てる主導者や主戦派達なんだ。」 と考え、ザフト首脳陣やブルーコスモスを直接叩かないと駄目だと悟ったのだと思った。しかし、 後の彼とその同志達の行動からするとそうではなかったと言わざるを得ない。彼はこれ以降、 敵パイロットを殺さなくなる(一部強い敵は例外)が、この偽善も不愉快だった。卓越した パイロットとしての能力とフリーダムの性能のおかげで出来る芸当に過ぎないし、戦争の 終結に何の好影響も生まない。それどころか、彼が生かして返した敵によって更に仲間に 危険が及ぶ。現に黒幕のクルーゼをむざむざ殺さずに済ませた為、クルーゼの陰謀によって 戦闘は破局的段階に発展し、泥沼化していく。勝敗が明確になっていない状況で敵を生かして 返すメリットなどない。「直ちに戦闘を停止して下さい。」と戦場で呼びかけながら周囲の 機体を撃墜しまくる行動は、支離滅裂で愕然。
 ヒロインのラクスが絶対的に正しい行為をしているという視点で物語が語られている点は この作品で最悪の欠点。ラクスは国民の血税で作られたフリーダムを 自分のイデオロギーで主人公に強奪させ、それが引き金となってコーディネイターの 穏健派は一網打尽にされてしまう。強健派のパトリック・ザラの演説は、「ナチュラルを 皆殺しにすべきだ。」という一点を除けば概ね正しい。それに対してラクスの反論(?)は 「憎しみは何を生むというのでしょう?」という奇麗事のトートロジーに終始。しかも、 中盤はゲリラ行為、後半はザフト軍VS地球連合軍の激戦区にたった三隻の第3勢力として 紛れ込んで戦渦を拡大させているだけ。対立解消に無関係のお題目を繰り返す潜伏ゲリラに、 大多数の人が共感出来るのだろうか?戦争は外交の延長であり、明確な目的を定めなければ ならないのに、成り行きでダラダラ戦い続けて何をしたかったのか。どのように戦争を 終結させたかったのか?確かにプラントに対する核ミサイル投下や、照準をアメリカ大陸に 向けたジェネシスを撃滅させた功績はあるが、これらは戦場に向かう途中で決行を決めた 目的であり、何のために戦場に向かったのか結局最後まで見えて来ない。パトリック・ザラの 暗殺でもやりたかったのだろうか?でも、そんなテロ行為で戦争が終わるのか?戦渦の拡大は 防げるのか?プラント評議会議長の首が挿げ替えられるだけじゃないのか?結局、暗殺の試み など無意味。最終話の展開からすると、ザフト軍は指導者パトリック・ザラを除けば決して 「ナチュラルを皆殺しにする」意図は無かったことが分かる。パトリックはそんなザフト軍の 支持を得られなかったために自滅するのだから。暴走した指導者に対する自浄能力は 充分にあるのだ。
 地球連合軍に関しては、ラミアスの砲火でブルーコスモスの盟主アズラエルを倒して 戦闘終了の一助になってはいるものの、これは運が良かったとしか思えない。元々 アズラエルが戦場に来ているなど主人公達は知る由も無かっただろうし、そもそも 首謀者が何で危険な戦場の最前線に来る必要があるのか?戦争に介入したいので あれば、戦況の把握できる後方から指示を出していればいいはず。アズラエルに そのことが分からないのであれば、周囲の軍人がそう助言すべき。無理があり過ぎ。
 製作者は結局収拾が着かなくなったのだろう。主人公達の戦いと無関係にザフト側の 和平の申し出を連邦が受諾し、戦争は勝手に終結する。ラストの主人公の台詞 「どうしてこんなところに来てしまったんだろう・・・。」それはこっちの台詞だっ。

 他、気になった点が3つ。
 1つ目は、オーブという国の扱いについて。ナチュラルとコーディネイターが混在する 第3勢力として登場し、物語途中で指導者ウズミ氏の手により滅亡する。このオーブ 滅亡が無ければこの作品の評価はまた変わっていたかもしれない。戦争を終わらせるには 2つの方法が考えらる。
1.一方の軍がもう一方の軍を圧倒することで、白旗を上げさせる。
2.戦争が続くことで両軍が疲弊し、和平を結ぶ。
 最終回で2になるが、オーブが残存していればもっと主人公を活躍させつつ、もっと 納得のいくラストになった。オーブがどちらかの国に加担していれば1の道もありえた。 その際にナチュラルorコーディネイター虐殺の暴挙に出た際は、抑える側に回ることも 出来たのでは?また、あくまで中立を保ち続け、何とか国を存続させれば2の選択肢も 叶えられた可能性は高い。両軍が疲弊すれば後は和平を結ぶタイミングだが、これを 中立国のオーブが提案すれば良い。オーブは実際2の道を行こうとしたと思うが、 結局地球軍上層部・ブルーコスモスの気まぐれに滅ぼされてしまった。指導者の ウズミ氏の死は感動の演出だったが、死ぬことはなかったとも思う。何も失政を しでかしたわけではないし、あの思考の足りない娘カガリに後事を託すというのは、 あまりに無責任ではなかろうか。カガリは頭が切れるわけでもなく、親父ほどの人望、 指導力があるとは到底思えない。彼女に教えなけばならないことなど山ほどあった はず。カガリの御守を仰せつかったクサナギ・メンバーもいい迷惑だろう。
 2つ目はナタル・バジルール少尉について。彼女が作中で一番まともな存在だった。 軍人の本分をわきまえ、考え方も大人、感情に流されず、戦闘指揮の才能も非凡。しかし、 作中ではどうも彼女は融通の利かない非情な人間のような扱いをされていて不憫。 ラミアスとナタルの対立に関して、監督&脚本家はラミアスの姿勢を 理想的とするかのようなバイアスをかけているが、自分としてはナタルの姿勢を支持する 場面が多かった。ラミアスの感情に流された決断は、ほとんど運に助けられているに 過ぎない。
 3つ目は、本作の重要なテーマの1つである、遺伝子改造について。遺伝子を改造する ことによる弊害がしっかり描写されていないため、ナチュラルが多数派である理由が アニメからはよく分からない。遺伝子の多様性が無くなる事で子供が出来にくくなる という弊害に少し触れただけ。実際遺伝子改造によって多様性がなくなると、1つの ウィルスで絶滅させられることもありうる。小説ではこのことに触れ、「コーディ ネイターの穏健派はナチュラルと交配を繰り返すことで自然に帰ろうとする勢力、 強硬派はそれを科学力で乗り切ろうとする勢力。」との説明があり、ザフトの 両陣営が抱く未来のビジョンが明確化されていた。この思想的背景がアニメでは 語られなかったことも不満が残る。

 総じて、広げた風呂敷は良かったと思う。戦争問題、遺伝子改造による迫害問題などの 問題提起も悪くない。しかし、それに対する明確な答えが出ない(出るわけないが)どころか おかしな結論が飛び出して、問題解決が破綻した最悪の結末になったのが駄目駄目。後半に なるほど、キャラの言動と行動が矛盾だらけで悲しくなる。
 監督や脚本家は戦争を何も分かっていなかったってことでだろう。中盤でザフト軍の 8割が壊滅するという場面があったが、あの後何事も無くザフトの軍が機能していると いうのもおかし過ぎ。戦争を扱っていながら、軍事常識がある製作スタッフは皆無だったのか? この作品が10代に受けたのは戦争のリアリズムが分からない(orどうでも良い)から、女性に 受けたのは美形キャラ揃いだったからに過ぎない。10代の意見や女性のSEEDホームページを 覗き込むと、そう確信する。
評価 執筆者 カンガルー【04/06/20掲載】


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