狸寝入り 〜 遠坂 凛 〜
縮み吾木香 さん
いびきはやり過ぎだったかなぁ。
少しは気づきなさいよ。
わたしがいびきなんかかく訳ないでしょ!
それとも、わたしのことそんな風に思っているの!? あのばか。
ほんとあいつの前だと調子が狂う。
でも、仕方ないか。あの時、手を握ってて欲しいって思っちゃったんだから……。
あの娘を選んだ後だって知ってたくせにね。
ほんと大切なときにドジなんだから。
あのままあいつを見てたら涙がこぼれそうだったから、わたしは狸寝入り。
だけど今は……。
まぶしいっ!
寝不足の頭に朝日が突き刺さる。
あの頃のこの時間はまだどこかしら薄暗かったのに。
もうすっかり春が来ていたんだ。
ああ、もうっ!
なんだってあのばか、こんなに早起きなのよ!
慌てて坂を駆け下りる。
ぎりぎりセーフ。
坂を下りきったところで、ちょうどあのばかが姿をあらわした。
「おはよう衛宮くん。朝から顔合わせるなんて奇遇ね」
「じゃあもう未練はないんだセイバーが、いなくなってもさ」
言えた。気負い無く、さらりと、自然に。ずっと確かめたかったことを。
「―――ああ。未練なんて、きっとない」
「……ふうん。士郎の中では決着をつけたってコトね。
だから落ち込む事もなく、思い出に浸る事もないってわけ」
「ああ。けど、今も夢に見る。これから先も、ずっとあいつの事を思い出すよ。
いつか記憶が薄れて、あいつの声もあいつの仕草も忘れていく。
それでも―――こんな事があったこと、セイバーっていうヤツが好きだったって事
だけはずっとずっと覚えてる」
このばか、ほんとに鈍感なんだから。
ライバルの仏頂面が目に浮かぶ。
やっぱり抜け駆けはできそうにない。
ほんと大切なときにドジなんだから。
でも、安心しなさい。もしあなたが英霊になったとしても、わたしが何度でも呼び出
してあげるから。
「どうしたんだよ遠坂。そんなに急いで、何かあったのか?」
「別に。ただ早く学校に着きたいなって。
さ、そういうワケだから士郎も急ぐ! のんびりしていると置いていくわよ!」
くるり、と身を翻して坂道を駆け上がる。
青い空がグーンと迫る。手を伸ばせば届きそう。わたし笑ってる?
言えなかった台詞はそっと風に破り捨てた。
これは失恋なんかじゃない。だってこんなにもうれしいんだから!
Fin.
『Rubied Joker』への感想SSということで、縮み吾木香さんからいただいてしまいました〜。
ありがとうございました。
縮み吾木香さんは、数々の受賞歴があるAS作家の大先輩です。
身に余る光栄であります。
あ、次も是非。(マテヤ
さて『狸寝入り』ですが、「そうそう、これが遠坂なんだーっ!」と、がーっと喜んじゃうほどの遠坂っぷりです。
第一部epilogueの遠坂は、必死に頑張ってました。
作品中の、
<< 言えた。気負い無く、さらりと、自然に。ずっと確かめたかったことを。
>>
の一節が、このepilogueの全てかなと感じてます。
遠坂にとっては、とんでもなく一大事な筈ですから。
それを、
<< 言えなかった台詞はそっと風に破り捨てた。 >>
で、さらに
<< これは失恋なんかじゃない。だってこんなにもうれしいんだから! >>
と纏めてくるあたり、さすがは縮み吾木香さん。
……次のASGPではお手柔らかにお願いします。(苦笑
light様のOHPで、縮み吾木香さんのASが一杯公開されてます。
宜しければ(とは言っても対応するソフトが必要ですが)、DLしてプレイしてみて下さい。
AS界では知らぬモノはない実力者ですので〜。
Comment by けもりん
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