大救出!? 愛と正義の幼馴染 〜 守屋 美紀 〜
震天 さん
俺、水原涼には今までの人生の中で最大の悩みがある。
それは、最近違法紛いの不法滞在者の自称・婚約者、益田西守歌だ。
どういう訳か知らないが、無理矢理家に押しかけてきたり、黒服の人間を大勢使った
り、絞め落としたり、薬を持ったり、挙句の果てには総理大臣まで引っ張り出して結婚
を強要する。
見た目は確かに可愛い。
それは俺も認める(事実を否定してもどうにもならないという、保護者の教育方針に
よるものだけど)。
だが、中身が腹黒すぎる!
自他共に認めてるから始末に困る。
これを俺のクラスメイトであるお嬢こと陸奥笑穂と幼馴染の守屋美紀に朝、教室で話
したところ、
「なんか嘘みたいな話だね」
「それは災難だったな」
で済まされた。
ま、この二人にそこまで大きなリアクションは期待していなかったけど。
「で、あんたはどうしたいの?」
「どうって?」
「追い出したいのは山々。けど、暴力に訴えて負けた」
「ぐっ……!」
確かに、力尽くで追い返そうとしたら、見事にかわされた挙句、華麗に絞め技を喰ら
い意識が飛んだ。
つまり、力尽くは無理。
後は話し合いとかあるんだろうけど、話し合いにならんから性質が悪い。
「その自称・婚約者が諦めるまで気長に待つしかないな」
「お嬢、人事だと思って……」
「そんな事はない。それなりに察してはいる」
ホントかよ……。
「ま、直接会ってみないとなんとも言えないけど」
「会ったついでに引き取ってくれないか?」
「やーよ。絞め落とされたくないもん」
「お前なら返り討ちに出来るんじゃないか?」
「……あんた、私のことそういう風に見てたの?」
「ピンポンピンポン、だいせいか〜い!」
なんとなく拍手もやってみる。
「……喧嘩売ってる?」
「格安のバーゲンだぞ」
「相変わらず仲が良いな、二人とも」
「「どこが!?」」
「……まぁ、それより、どうする気だ、水原? その自称・婚約者は」
「対抗策があるなら教えて欲しいところだ」
つまり、俺には今打つ手がない。
正直、力も権力も金も全部向こうが上。
勝てる気がしないが、明鐘のためにもどうにかしたい。
そんな事を考えていると朝のホームルームが始り、先生が教室に入ってきた。
「今日はみんなに転校生を紹介する。入ってきなさい」
先生の言葉に続いて転校生が入ってくる。
ゴンッ!
「……水原?」
机に頭をぶつけた俺のことを隣のお嬢が心配してくれる。
なぜそうなったかというと、俺はその転校生のことをいやって程知っていた。
転校生が教壇の前に立ち、先生がその転校生の名前を書いていく。
名前が黒板にかかれた後、美紀がさりげなくこっちを見た。
俺は黙って頷いて、「お前の考えている通りだ」ということを伝えた。
「水原、お前の話に出てきた自称・婚約者と同じ名だと思うのだが?」
「……お嬢の胸の中で泣かせてくれ」
「私に縋りたいほど嫌な相手なのか?」
「今にわかる」
自称・婚約者で今日転校してきたあのバカ女は自分の苗字の隣に(水原・予定)と書
き加えた。
しかも、なぜか俺の隣、今お嬢が座っている席にわざわざ座ってきやがった。
そのせいでお嬢とその後は一つ後ろにずれる事になった。
「お前、一年って言ってただろ? なんで二年に転校できるんだ?」
「うふっ♪ 権力って、便利でしょう♪」
……ホントに、こいつ、なにやったんだ?
「一体、なにやったの、あの子?」
昼になり、食堂へ向おうとしていた俺をバカ女が呼び止める。
弁当を持ってきたから、と言っていたが、俺は逃げるように美紀と食堂へ向った。
それで、食事をしている時にさっきの事を美紀に話すと、さっきのリアクションが
返ってきたのだ。
「さぁな。でも、実際見てわかったろ?」
「うん。あんたが手を焼くのもわかるわ」
実際、手を焼くなんてものじゃない。
手におえないんだ。
「そういや、あんた対抗策があったら教えて欲しいとか言ってたよね?」
「あぁ、そんなこと言ったな。それがどうかしたか?」
「……全部試した?」
「力尽く、話し合い、警察を呼ぶ。とりあえずこれだけ試した」
「……諦めさせるやつは試してないんだ」
「?」
諦めさせるやつ?
どういうのがあるんだろう?
「あの子、あんたと結婚したいのよね?」
「そうらしいな」
「恋人とかいたらどうしてたんだろうね?」
「別れさせたんじゃないか? 手切れ金を渡すから、とか言って」
冗談抜きで言いかねない。
「そもそも、俺にはそんな恋人なんかいなし」
「鐘ちゃんは?」
「……妹と知って言ってるか?」
「だって、シスコンの兄貴にブラコンの妹。バッチリかみ合ってるじゃない」
「……本気で怒るぞ?」
こいつの場合、どっからどこまで本気なんだかわかりゃしない。
「冗談よ。それじゃあ、すぐにでも恋人作ったら?」
「ハルじゃあるまいし、そんな都合よくいく……でっち上げるならどうにかなりそうだな」
そう言いながら美紀を見る。
美紀も俺が言いたいことを理解したのか、ちょっと顔が引きつっている。
「ちょっと、マジ?」
「ダメか?」
「私は別に構わないけど……あんたは相手が私なんかでホントに良いの?」
「なんでマジになってんだよ。あいつを追い返すのを協力してくれって言ってるんだ」
「それはわかってるんだけど……」
「大体、こんなの頼めるのは美紀しかいないだろ?」
お嬢や百合佳さんなんかも考えたけど……協力的とは言わないしな……。
「仕方ないわね。その代わり、プラーヴィでコーヒー一杯奢りなさいよ」
「そんなけちな事言うな。ケーキセットぐらい構わないぞ」
「ホント? じゃあ、交渉成立って所で」
「期待してるぜ、相棒」
「大船に乗った気でいないさいよ。人気アイドル声優の卵、守屋美紀ちゃんの演技力、
バッチリ見せてあげるから」
頼もしい言葉だったが、西守歌の本性を見て、美紀が疲れていたのは言うまでもない。
「へにょ」
「俺の苦労、わかってくれたか?」
「……あんたがもてあますわけよね」
「協力してくれてる間はケーキセット奢ってやるから、しばらく頼むぞ」
「乗りかかった船だし、仕方ないわね」
とにかく、これで西守歌を追い返す協力者が出来て一安心だ。
……なんて一瞬でも思った俺が馬鹿だった。
こいつ、その夜の晩飯のとき、西守歌の料理で手懐けられやがった。
やっぱり俺の味方は明鐘しかいない! と痛感させられた一日だった。
Fin.
あ、あれ? 寝返られちゃうんですか?(笑
それにしても、幼馴染みとは良きモノですな。
付かず離れずの、絶妙な関係がっ!
「演技」なんて言っちゃってもうっ、って感じです。
……今からでも幼馴染み出来ないかなぁ。(無理
Comment by けもりん
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