大進展!? 愛と波乱のスキー旅行 〜 西守歌編 Part.2 〜
震天 さん
すぐに目を背けはしたが、しっかりと瞼に焼きついてしまった。
……不意打ちとはいえ、マジでヤバイ。
西守歌 : 涼様、どうかしまし―。
美紀 : ちょっと! 早く元に戻しなさいよ!
西守歌 : では、私は涼様の元へ……。
明鐘 : だ、だめだよ、西守歌ちゃん!
あやめ : 陸奥さん、随分落ち着いていますね。
笑穂 : なに、見られて恥らうほど、私は女らしくない。それに、言うほど
自分が異性の目をひきつけるほどの身体をしてるとは思えんしな。
あやめ : そんなことないですよ。
美紀 : 笑りんはもうちょっと自覚をもったほうがいいわよ。
明鐘 : みぃちゃん! それより、早く西守歌ちゃんを止めてよ!
確かにそうだ。
西守歌は明鐘の静止もお構い無しにどんどんこっちに向ってくる。
涼 : って、お前には恥じらいの欠片もないのか!?
西守歌 : そんな! 涼様のためでしたら、いつでもドブへポイ、ですわ♪
明鐘 : 捨てちゃダメだよ、西守歌ちゃん……。
西守歌 : さぁ! 涼様! めくるめく、愛の世界へ!
涼 : 行けるか!
更に補足すると、隠そうとしてないし……。
あやめ : あの、壁を元に戻すか水原さんが上がれば良いのでは?
なるほど、と言わんばかりに手を合わせる。
確かに、緊急避難としてはいい手だ。
涼 : あやめちゃんの意見を採用。
西守歌 : あぁん! 涼様〜! 据え膳食わぬは男の恥と申しますわよ!
涼 : お前が相手なら恥にはならん!
俺はとっとと逃げる事にした。
……しかし、脱ぐと本当にすごいな、あいつ。
で、風呂から上がって、ハルに事の次第を全て報告する。
だが、ハルの反応は意外にも、というより、やっぱり淡々としたものだった
春希 : そのまま弄んでやればよかったものを。
百合佳 : ……春希さん、その言い方はちょっと……。涼君も床に減り込ん
でるし。
百合佳さんが言ったとおり、俺は床に減り込んでいた。
そういうことに耐性がないと言うわけではない。
あまりにもそれが保護者の言う事からかけ離れすぎていた事によるショックによ
るものだ。
涼 : ハル……あいつのやった非常識な行動については何か……?
春希 : あのお嬢さんからすればそういうことは常識の範疇だ。見逃して
やれ。
涼 : 見逃せるか!
これが冗談ならノリツッコミを入れるところだが、ハルの場合、本気だから力一
杯否定しておかないと俺の感覚までずれていく。
……ハルに育てられながらよく真っ当な道を歩めたな、俺。
春希 : 大体、自分の婚約者の管理くらい、ちゃんとやれ。
涼 : 管理って……ハルに言わせればあいつもただの所有物か。
春希 : 実際、そうだろう?
涼 : は……?
意味を求めてハルを見返すが答えは当然返ってこない。
冗談に聞こえそうな事でも、ハルの場合はなかなかどうして無視できない。
春希 : どうかしたか?
涼 : どういう意味なんだ?
春希 : ……全員上がってきたようだな。後は本人にでも聞け。
後をみると、確かに皆浴衣を着て上がってきた。
さっき、あんな事があったせいか、どうしても西守歌に目がいってしまう。
……ちょっと、色っぽい。
笑穂 : どうした、水原。のぼせたか?
涼 : あ、いや、これは……。
赤くなっているであろう顔を隠す。
あまり隠せてないが……。
美紀 : 涼の事はどうでも良いから、さっさとご飯にしない? 私おなか空
いちゃって〜。
涼 : 俺のことはどうでも良いのか?
美紀 : 当然じゃない。あんたがどうなろうと知ったこっちゃないわよ。
涼 : ……喧嘩売ってんのか?
美紀 : 今なら安くしとくよ、旦那様♪
涼 : 誰が旦那様だ!?
西守歌 : まあ♪ お二人が私を取り合って争うだなんて……! お二人とも
頑張ってください〜♪
美紀 : このお嬢さんは私が貰うわ。良いわね、涼!
美紀の奴、いつも通りのノリでふざけてるな。
だが、ここはのったら西守歌の思う壺だな。
涼 : あぁ、のしつけてくれてやる。
西守歌 : 涼様、酷い! 愛を確かめ合った仲だというのに!
涼 : いつ確かめ合ったんだ?
西守歌 : お忘れですか? 私と涼様が引き離された後、涼様が迎えにきてく
れたじゃないですか?
マイクを持ってそんな恥ずかしい過去の話をするな。
笑穂 : なぁ、守屋。
美紀 : なに、笑りん?
笑穂 : 水原のノリ、あんな感じだったか?
百合佳 : 確かに、ちょっと感じが違うよね。
美紀 : そうなのよね〜。でも別に、怒ってるわけでもないのよね。
明鐘 : どっちかって言うと、照れ隠しだよね。
あやめ : 皆さん、何でそんなにわかるんですか?
後ろで何か言われている気はするが、皆声を潜めて喋っているため、聞き取りに
くい。
西守歌 : なんでしたら、私と同じ部屋になって、もう一度、愛を確かめ合い
ますか?
涼 : 勝手に……していいわけないだろ!
西守歌 : でしたら今ここで・・・ん〜♪
目を瞑って、わかりやすいほど唇をとがらせてこっちに向ってくる。
涼 : バカな事はやめろ。
俺はそんな西守歌の顔に手を当てて押し返す。
西守歌 : 涼様ってば、酷すぎます。
涼 : これくらいで酷いんだったら、絞め落とすのはどんな行為だ?
西守歌 : あら? まだ根に持っていたんですか? 忘れましょうよ、そんな
大昔の事♪
涼 : お前……!
美紀 : はいはい、やめやめ! もういいからさ、ハルさん追いかけようよ。
涼・
西守歌 : はい?
百合佳 : 春希さん、「あの二人の漫才をいつまでもみてるわけには行かない。
先に言っているぞ」って言い残して、先にレストランに行っちゃっ
て……。
……ハルの薄情者。
レストランに行くと、ハルが大人数で座るようなテーブルに一人で座っていた。
春希 : 誰が薄情者なんだ?
涼 : ……っ!?
開いた口が塞がらない。
先にここへ向っていたハルには愚か、すぐ近くにいた皆にすらわからないように
心の中で囁いただけなのに、なんでそのことを……!?
その後、当然の如く俺から話し掛けるなど恐れ多くてできやしない。
美紀 : にしても、豪勢なホテルよね〜。西守歌ちゃん、今更言うのもなん
だけど大丈夫なの?
西守歌 : なにがですか?
美紀 : だから、ここの宿泊料やらなんやら、全部払えるの?
西守歌 : ご心配には及びません。足りない分は、私と涼様がここで仲睦まじ
くタダ働きをすればよいのですから。
涼 : 足りないのか!? って言うか、おれも働く要員なのか!?
西守歌 : 万が一にもそんな事はございませんからご安心ください。
涼 : ……にゃろう……。
こいつ、やっぱり腹黒か……。
西守歌 : 確かに、少々値は張りますが、全て父が払ってくれますので♪
そう言って、西守歌はなにを仕込んでいたのか、胸元から黒いカードを取り出し
た。
春希 : ブラックカードか。
笑穂 : しかも、君の父親名義の。
西守歌 : えぇ。でも、別に盗んだわけではありません。ちゃんと了解を得て
抜き取ってきました。
明鐘 : 了解を得たら抜き取らなくても良いんじゃ……?
西守歌 : 了解は祖父から得ましたので、父には直接了解は得ていません。そ
れに、あの人なら今頃どっか外国にでもいますよ。
涼 : ……。
何でこいつの家族はやる事がこうも極端なんだ?
よく捕まったりしないよな、こいつら。
(西守歌) : 証拠隠滅は常識ですから♪
って言いそうだよな、こいつ。
ま、こいつのオヤジさんには俺もむかついてたし、まぁいいか。
涼 : 明鐘、せっかくだから贅沢させてもらおう。
明鐘 : え、う、うん。でも、いいのかな?
西守歌 : どうぞどうぞ。未来の妹なんですから、遠慮はいりませんわ。
明鐘 : い、妹? と、とにかくありがとう、西守歌ちゃん。
涼 : 否定したかったら否定していいんだぞ、明鐘。
春希 : 否定しろとは言わないのか?
涼 : ん?
俺、今何か変な事でも言ったか?
春希 : 以前、明鐘が絡まれ、お前の婚約者が助けた後の事、忘れたか?
涼 : ……。
美紀 : いやぁ、もう暖房はいらないね。
笑穂 : 見せ付けてくれるじゃないか、水原。
涼 : ……なぁ、何のことだ?
おそらくこの二人に聞いても無駄だろうから、明鐘に聞いてみる。
明鐘 : 私が否定しなかったら、西守歌ちゃんが私のお義姉さんになっちゃ
う、ってこと。
西守歌 : 涼様ったら、もうそこまで考えてらしたのですね♪
涼 : なっ……!?
今になって気付いた。
そういうことか。
つまり、明鐘さえよければ、俺は西守歌と結婚、あるいはそれに近い意味になる
と言う事だ。
美紀 : 鐘ちゃん、大事なお兄さんのため、今日位は譲ってあげたら?
明鐘 : そうだね……。兄さんが選んだ人、それが西守歌ちゃんなら、私
も……。
西守歌 : ありがとうございます、明鐘さん。私、涼様と共に必ず幸せになり
ます!
笑穂 : 話がどんどん進んでるが、いいのか、水原?
涼 : ……。
あやめ : 魂が抜けてますよ?
春希 : 今のうちに部屋割りを決めてしまえ。うるさく否定する奴がいなく
て良い。
この後、俺が自分の失態に放心している間に、西守歌の策略がどんどん進んでい
った。
涼 : なんでこうなってるんだーっ!
意識が戻った頃には部屋に戻っており、よりにもよって西守歌と同じ部屋にされ
ていた。
西守歌 : 涼様がご自分の意見を仰らないから……。
涼 : それでお前の意見がすんなり通ったって事か……。
美紀とハル辺りが共謀したんだろうな。
それにしても、俺は今、物凄く身の危険を感じるんだが……。
涼 : そ、そういや、明鐘は?
西守歌 : もしかしたら、春樹様たちのお世話になるかもしれないとのことで、
春樹様たちと同じ部屋に。
涼 : ……終わった。
西守歌 : 涼様ったら、大げさですわ。
おおげさなのか?
西守歌 : それとも、涼様は私と一夜を過ごすのは嫌ですか?
涼 : 嫌だ。
西守歌 : ……。
涼 : な、なんだよ……。黙り込むなんてお前らしくないじゃないか。
西守歌 : 涼様は変わらないのですね、あんな事があっても。
あんな事、で済ませていいのか?
俺が山葉女子までこいつを迎えに行ったときのことだろう。
確かに、あれがあった後の俺たちの関係にそれほど劇的な変化は無い。
あったとすれば、こいつに対する評価だろう。
一緒にいて嫌とは思わない。
だからと言って、それほど急激に変わるなんてできない。
……でも、変わってないのはこいつも同じじゃないのか?
西守歌 : 確かに、私も以前と変わらないように振舞ってはいます。けど、以
前のような陰謀はありませんわ! それさえも、信じてもらえませ
んか?
涼 : いや、そうじゃなくて……なんていうのか、その……。お前と一緒
にいるときはそれが当たり前のようになってるから。
だからなのかもしれない。
こいつがとんでもない事をしでかして、俺が怒って、そんなバカをするのが俺た
ちの自然な姿だと思っていた。
いや、そう思おうとしていた。
そうする事が、今のこの状態がいつまでも続くと思うから。
西守歌 : ……やっぱり、あの出会い方がいけなかったのでしょうか?
涼 : やめよう、そういうの。過去は変えられないんだ。
西守歌 : では、どうすれば、涼様の恋人として扱ってもらえるのですか?
こんな、二人きりの状態でも、私は恋人になれないのですか?
西守歌が涙目で訴えてくる。
こいつのこんな表情、初めて見る。
そのせいか、頭がなんかくらっとする。
涼 : ……意地っ張りはどんな状況でも意地っ張りだ。
西守歌 : ……。
西守歌が俯いてしまう。
確かに、俺は意地っ張りで、強情で、こいつの本当の姿を見ようと思ってなかっ
た。
……俺も、見せようと思ってなかった。
涼 : ま、お互い本当の姿を知ってるんだし、その……二人きりのときく
らい、なら……。
西守歌 : ……涼様……。
涼 : もう泣くな。お前は笑っているほうが可愛いんだ。
西守歌の頬を伝う涙を拭き、抱き寄せる。
西守歌 : ……涼様、本当に卑怯ですね。
涼 : それと、二人きりのときくらい「様」付けはやめろ。俺は召使と付
き合う気は無いぞ。
西守歌 : わかりました。せめて、涼と同じ時を過ごす時だけ、隣に並ばせて
もらいます。でも、周りに皆さんがいるときは、いつもどおりです
わよ♪
涼 : あぁ、それで構わない。
西守歌と口付けを交わしながら思う。
我ながら、歯が浮くようなセリフをよく言えるものだな。
次の日の朝、俺達は朝食を済ませるとすぐにチェックアウトをし、帰ることにし
た。
美紀 : なんか、あっという間だったよね〜。
明鐘 : でも、楽しかったし、また来たいね。
西守歌 : 喜んでいただけて、光栄ですわ。
笑穂 : 次はぜひとも、裏から手を回さずに誘ってほしいものだ。
あやめ : もしかして、来る時にマスターが機嫌悪かったのって……。
百合佳 : 春希さんの場合、ああでもしないと来なかったかもしれないし……。
女性陣で会話が盛り上がっているのを見つめていると、西守歌がその輪から抜け
出し、俺の元へ来た。
西守歌 : 今度は二人きりで、と言うのはいかがでしょう?
と、俺の耳元で囁いた。
涼 : ……悪くないな。
俺の答えに満足そうな笑みを浮かべる西守歌。
たったこれだけのことで喜んでくれるなら、もう少し西守歌と一緒の時間を持つ
のもいいかもしれないな。
西守歌編 Fin.
意地っ張りなのは良いことです。
それが素直になったときには……それだけでご飯が三杯はイケます。(ぇ
お父さんに傍にいて貰えなくて拗ねちゃってるあたりももう……。
次はぜひ私と二人で。(マテマテ
<<Comment by けもりん>>
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