Φなる・あぷろーち SS

  強引な息抜き   〜 益田 西守歌〜

                    震天 さん



 日曜は基本的にバイトは無い。
 今日、明鐘は友達付き合いで朝から買い物に行っている。
 俺はどうしようかと考えたけど、最近ごたごたして成績が下がったことをハルに睨まれてたんだっけ。
ここは少しでも取り戻すべく、勉強を……。

「涼様♪」
「なんだ?」

 着替え終わって机に向かおうとしていたところで西守歌が顔を出す。
 ま、何を言いたいのかは予想できる。

「今日はすごくお天気が良いんです。一緒にお出かけしませんか?」
「断る」
「そんな〜! 酷いですわ、涼様。今日はすごくお天気が良いんです。一緒にお出かけしませんか?」
「断る」
「そんな〜! 酷いですわ、涼様。今日はすごくお天気が良いんです。一緒にお出かけしませんか?」
「断る」
「そんな〜! 酷いですわ、涼様。今日はすごくお天気が良いんです。一緒にお出かけしませんか?」

 段々必死さがこもってきた。
 って言うか、こいつ、俺が首を縦に振るまで続けるつもりかよ。
 一体どこでそんな芸当覚えてきたんだか。

「どこか行きたい所でもあるのか?」
「いえ、特にこれといって行きたい所があるわけでは無くて……」
「なくて?」
「もう! 涼様ったら、わかってて聞いてくるんですのね」

 まったく持ってその通り。
 こいつの一緒にお出かけするって言うのはすなわち、デートに直結される。
 しかも、俺は違うと言っても、街中で知り合いに会えば必ずデートだと言ってしまう。
 そんなこと認めてたまるか。

「ということで、行きましょう、涼様。美味しいお弁当も用意していますのよ」

 そういいながら、ずるずると俺を引っ張っていく。

「って、待てぇいっ! 俺はまだ行くとは一言も言っていないだろう!」
「では、今言いましょう! すぐ言いましょう! さあさあっ!」
「でぇぇぇいっ! 言うかああぁぁっ!」

 叫ぶのと同時に西守歌の手を振りほどく。

「いいかっ!? 俺は今から勉強して今までの遅れを取り戻さなきゃいけないんだ! お前なんかと出かける気は――」

 どんっ!

「ぐほぉっ!?」

 喋ってる最中に、西守歌はなんか銃を向けて俺に向けてぶっ放した。
 俺はそれをもろに喰らい、一瞬で意識が飛ぶ。

「ふぅ、朝からこんな麻酔銃を使うと思いませんでしたわ。
 でもま、明鐘さんがいない分、こういう実力行使が遠慮なく使えるのは都合が良いですわ♪」




 一方。

「ん〜……?」

 なんだか、嫌な予感がする。
 自分の家の方角を見ながら、何かを感じ取る明鐘。

「明鐘〜! そろそろ行くよ〜!」
「あ、うん!」

 少し不安になりつつ、友達とショッピングを楽しむ明鐘だった。




「で?」
「なんでしょう?」

 とぼける西守歌。
 わかってるはずなのに、あえて自分から言おうとしないのか。
 つまり、読者の皆さんにわかるように、典型的な説明セリフで今の状況を事細かに説明するように質問して来いと、そういうことか?
 仕方ない。

「何で、俺は意識を失っている間に公園に連れて来られ、お前の膝枕で寝させられてるんだ?」
「涼様、今のはちょっと、説明くさいですわよ」
「いや、だって、作者がこう言えっていうカンペをね」
「まぁ、そうなんですけどね……それより、涼様」
「んぁ? なんだよ?」
「今の私達、傍から見ればどのように見られているのでしょうか?」
「……」

 一時思考停止。
 いや、考えるまでも無くわかっているんだけど、ちょっと認めたくないんよね。

「婚約者を名乗るバカ女が既成事実を作ろうとして失敗しそうになって、
 麻酔銃で相手を気絶させて無理矢理公園に連れてきて恋人のように見せようと無駄な努力をしている図、
 に見えるんじゃないか」
「いえ、そんな紆余曲解をなさる方はいないと思いますわ……」
「なら、どういう風に見えてるって言うんだ?」
「そうですわね……偶然出会った瞬間、お互いに一目惚れをしてしまい、
 そのままなし崩し的に婚約したは良いが、両親に反対され、
 親の目を掻い潜って貴重な時間を満喫している幸せそうな恋人同士、と言ったところでしょうか?」
「それこそ紆余曲解だろ」

 ま、お互いにどっこいどっこいだけどな。
 しかし、意識ははっきりとしているのに、まだ体が思うように動かない。
 参った……実に参った。
 こんなところをお嬢や美紀なんかに見られたら……。

「ん? 水原じゃないのか?」
「それに西守歌ちゃん? なにやってんの、こんなところで?」
「……なんでこの作者はお約束パターンが好きなんだ?」
「ネタ切れとか」

 有り得そうだな。
 とりあえず、状況を説明……。

「守屋。聞くだけ野暮ってものさ。察してやれ」
「それもそうね。
 なんてたって、偶然出会った瞬間、お互いに一目惚れをしてしまい、
 そのままなし崩し的に婚約したは良いが、両親に反対され、
 親の目を掻い潜って貴重な時間を満喫している幸せそうな恋人同士、だもんね」
「いや、違う」
「そうだぞ。
 婚約者を名乗るバカ女が既成事実を作ろうとして失敗しそうになって、
 麻酔銃で相手を気絶させて無理矢理公園に連れてきて恋人のように見せようと無駄な努力をしているようにしか
 見えないじゃないか」
「……お二人とも、どの辺から見てらしたんですか?」
「どの辺からだったかな?」
「涼がカンペを読んでるくらいの時からじゃない?」

 って、ほぼ最初からかよ。

「にしても、満更じゃなさそうじゃない、涼。あんなに西守歌ちゃんのこと毛嫌いしてたのに」
「俺が満更でもなさそうに見えるなら、一回眼科に駆け込むか人生やり直して方がいいぞ」
「ほっほ〜う。それはつまり、この事を学校中に言いふらしてしまってもいいと?」
「お前、西守歌の腹黒がうつってないか?」
「さぁ、どうかしら?」

 いや、待てよ……元からこうだったか?
 とりあえず、手の感覚は戻ってきたな。

「で? 何でこんなことになってるのよ? 鐘ちゃんを人質にでもしたの?」
「それは最後の手段なので、まだ使うときではないかと……」
「いや、否定しようよ。西守歌ちゃんが言うとそこはかとなく本気っぽいんだから」
「ま、そんなことはどうでもいいじゃないですか♪」
「良くないだろ。水原を見てみろ。今にも噛み付きそうだぞ」

 確かに、明鐘を巻き込むようなら、今度こそ本気で容赦しない。
 そんな感情を込めて西守歌を睨む。

「まあ、涼様ったら、私がそのようなことをすると、本気で思っておられるのですか?」
「やる、お前なら絶対にやる!」
「私のことをそこまで理解していただけるなんて……これも運命というものですわね……」
「……」

 開いた口が塞がらないというのはこのことだろうか。
 否定するどころか認めたよ、おい……。

「諦めろ、水原。彼女はどうやっても良い方向にしか解釈しない」
「それはわかっちゃいるんだがな……言わずにはいられないんだよな〜……」
「ま、ツッコミ役の悲しい性よね〜」

 そういえば、俺の周りにはツッコミ役のほうが多そうなのに、何でボケが目立つんだ?

「それより、お嬢達は何でここに? 婚約者から美紀に鞍替えでもしたか?」
「あのな、水原。私にそういう趣味は無いといっただろ?」
「えぇっ?!」
「……どうした、守屋?」
「笑りんは……私のこと、遊びだったの……?」
「いや、そもそも、今日ここにいること自体遊びだろ」
「そんな! 酷い……私は笑りんの事……愛していたのに!」
「バカを言うな。大体、私達は女同士だろ?」
「でも、笑穂様。女同士でも、愛し合っていれば、何の問題がございましょう?」

 ……俺の冗談を美紀がさらにボケで広げて、西守歌がまた拾う。
 ひょっとして、悪循環?
 ま、面白いからいいけど。

「色々あるだろ。大体、女は基本的に男と結ばれるものであって……」
「ですから、美紀様とのお付き合いは応用、ということで」
「すまん、訂正する。女は男と結ばれるのが、あるべき姿だ」
「でもお嬢、そんな定義、誰が決めたんだ?」
「……水原。お前だけは、私の味方だと思っていた」

 ヤバイ……。
 ここでお嬢を怒らしたら、俺の味方がいなくなる。
 ここは素直に謝ろう。

「すまん、お嬢。調子に乗りすぎた」
「まったく。守屋も、悪乗りしすぎだぞ」
「にゃはは、いつもの冗談じゃない。でも、笑りんさえよければ、私はいつでも……」
「そうですわ、笑穂様。なんでしたら、女性同士が結婚しても問題ないよう、法律の改正を……」
「しなくていい」

 ……1つのボケが、俺の周りの人間の手にかかればここまで長くなるんだよな。
 そうこうしているうちに、体の感覚はほとんど戻ってきた。
 もう少しかな?

「で、長い冗談はさておき、最初の私達の質問はどうなったのよ?」
「あ、そうそう。こいつがいきなり麻酔銃でな」
「ま、麻酔銃って……」
「ほどほどにしておかないと、水原の妹さんが怒るだろ?」
「そうそう。鐘ちゃんを敵に回したら厄介よ」
「ご安心ください。明鐘さんは今日、お出かけ中なので、この事を知りません」

 ……知らせてみようか。
 それで、二人で一致団結してこいつを追い出す、とか。

「わっかんないわよ〜。鐘ちゃんのことだから、涼の身に何かあれば、勘付くんじゃない?」
「後遺症や副作用が出るようなものは一切使わないので、問題ないかと……」
「「「……」」」

 根本的に何か間違っているといってやりたがったが、何を言っても無駄だろう。
 とりあえず、無視するか。

「ま、ほどほどにな。しかし、いつもやることが急でとんでもないことばかりだが、今回のはどうしたんだ?」
「あの、笑穂様……。それでは、私がいつも急にとんでもないことをやっているように聞こえるじゃないですか」
「そういう風に言ったつもりだが?」
「ま、本当のことですからよろしいのですけど」

 良いのかよ。
 というツッコミは置いておこう。
 っと、ようやく感覚が完全に戻ったな。

「今回のことは、涼様にゆっくり休んでもらうために、といえば、聞こえが良いでしょうか?」
「は?」

 身体を起こそうとしたが、意外なことを聞いてやめる。

「どういうこと?」
「本当は、デートをして少しでも許婚として認めてもらおうと思ったんですけど、
 なんだかお疲れのようだったので、強制的にお休みいただきました。えへっ♪」

 お茶目さんを気取る西守歌。
 ホントかよ、と思う自分がいる反面、確かにその通りなのかもしれないと認める自分もいることに、少し驚いてしまう。

「ふうん。それで、強制膝枕でゆっくりお休みなさい大作戦を決行したわけだ」
「なんだよ、そのまんまの大作戦は?」
「うっさいわね。わかりやすいんだから良いじゃない」
「確かに、わかりにくい名前よりはいいと思う。それより、守屋。そろそろ退散しないか?」
「え、なんで?」
「水原いじりも良いが、馬に蹴られたくないだろ? ここは利口な選択をしたほうがいい」
「それもそうね」

 おいおい……。
 というまもなく、二人はそそくさと離れていってしまった。

「……」
「気を遣われてしまいましたわね」
「面白がっているだけだろ」
「それでも、気を遣ってくれたんですよ」
「……そういうもんか?」
「えぇ」

 女ってのはいまいちわからんもんだな。

「それより、涼様。どうします? もう少し寝てます?」
「……」

 こいつ、いつ薬が切れるかわかってるのか。
 かといって、このまま素直に寝るのもなんか癪だ。

「まだ薬が抜けきってなさそうだ。もうしばらくこのままだな」
「そうですか。それでは、仕方ありませんね」

 こいつの起こす騒動にはいつも悩まされるけど、たまにはそれに乗ってやろうか。




おまけ

「西守歌ちゃ〜ん? 今日、兄さんに何かしたでしょ?」
「えぇっ!? な、何もしてませんわよ……?」
「何かしたよね?」
「で、ですから、私は――」
「何かしたよね?」
「あ、あの――」
「何かしたよね?」
「……」

 明鐘が、聞く耳持たない、という感じで西守歌に詰め寄る。
 今の明鐘を他のものに例えると……般若?
 なんとなくそんな感じだ。

「明鐘さん、何を根拠にそんなこと……?」
「うふふ、これ、何かな〜?」

 明鐘が取り出したなんとなく見覚えのある銃。

「そ、それは……!」
「今日の西守歌ちゃんの荷物の中に入ってたみたいだけど、何に使ったのかな〜? 私、すっごく興味があるんだけど」

 笑顔。
 今の明鐘は全ての男を従えさせられるような笑顔を浮かべているのだが、それがかえって怖い。

「あ、あの……その〜……」
「……」
「ご、ごめんなさ〜い!」
「ま〜て〜!」

 ……結局、明鐘には俺に関する隠し事は出来ないってことか。


                                                        Fin.


……きょ、強制膝枕。さすがは西守歌です。(笑
無論私であれば、喜んで膝に頭を預けてしまうのですがー。
や、折角の膝なのに、気絶なんてしてたらもったいないですし。(マテ

……あ、どうせならこちらが強制的に膝枕してあげるってのも良いですね♪(犯罪

<<Comment by けもりん>>


無断転載厳禁です。
show flame