大決心! 愛と果たす約束 〜 水原 明鐘 〜
震天 さん
兄さん、今頃何してるんだろう……?
山葉女子に転校してから約2ヶ月。
まだ、兄さんとの約束が守れそうにない私は授業そっちのけで窓の外を眺めて
ました。
「……さん……明鐘さん!」
「え……?」
聞き慣れた声に呼ばれて目をそっちに向けると、西守歌ちゃんがいました。
あれ……?
なんで……?
まだ授業中……。
「もう授業は終わってお昼休みですよ?」
「そ、そうなんだ…………ふぅ……」
「……あ、そう言えば私、今日は少し張り切りすぎまして」
「え……?」
私に背を向けて何かごそごそとし始めた西守歌ちゃん。
というより、何かを取り出そうとしているみたい。
で、取り出したのが……。
「一緒に食べませんか? 一人で食べるには多すぎまして♪」
「う、うん……じゃ、じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね」
何人分あるかわからないお弁当箱でした。
重箱で……な、7段?
どれ位張り切ったらこれくらい作れるんだろう?
私たちは中庭でお弁当を食べようと思い、中庭でレジャーシートを広げて、
その上にお弁当を広げました。
そこに、西守歌ちゃんのことを「お姉様」と慕う後輩の女の子達もやってきま
した。
……今では、私も「お姉様」と呼ばれています。
「さぁ、皆さん。たくさん食べてくださいね♪」
みんなそれぞれおかずを紙皿(勿論西守歌ちゃんが用意してたもの)に取り、
食事を始めます。
「……相変わらずお料理上手だね、西守歌ちゃん」
「明鐘さんだって、最近ではめっきり上達されて。私もうかうかしていられませ
んわ!」
こ、これ以上、上手になるつもりなんだ……。
「そう言えば、明鐘お姉様……」
「あ、あの、別に『お姉様』はつけなくても……」
「明鐘お姉様、なんだか元気がありませんわ」
……き、聞いてない……。
「そ、そんなことないよ? ほら、いつも通り、ね?」
「そうでしょうか?」
「……し、西守歌ちゃん……」
「確かに、身体的にみれば元気でしょうけど……心に秘めた思いはどうなのでし
ょうか?」
「……」
……なんだ、バレてたんだ。
西守歌ちゃん相手じゃ、隠し事も出来ないのかな?
まるで、兄さんみた――
「……っ」
「!? あ、明鐘さん……!?」
「「「「明鐘お姉様!?」」」」
「え……?」
気付いたら、私は泣いてました。
なんでだろう……?
ただ、兄さんの事を、思い出した、だけ……なのに……。
「……っ……うっ……うぅっ……!」
「……明鐘さん……」
思っちゃいけない。
まだ、思っちゃいけない。
兄さんに会いたいって、兄さんと話したいって、思っちゃいけない。
だって、私はまだ……。
「……でも、やっぱり……寂しいよ……兄さん……!」
「……」
いつまでも泣きじゃくる私を、西守歌ちゃんは優しく抱きしめ、いつまでも頭
を撫でてくれました。
私はそれに甘え、西守歌ちゃんの胸の中でしばらく泣き続けました。
今日は幸い、授業は午前で終わりでしたので、先生方に迷惑をかける事は
ありませんでした。
西守歌ちゃんはよく、私がいる学生寮に来てくれます。
ちょくちょく泊まっていく事もあります。
今日も例外ではありません。
でも、西守歌ちゃんとの間には、少し気まずい空気が流れてます。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……何も話してはくれないんですか?」
気まずい空気に負けたのか、それとも、どうしても聞かないといけない、と思
ったのか、西守歌ちゃんは沈黙を破り、聞いてきました。
「……ごめんね、昼間は」
「それは、別に……でも、私が聞いているのは、そういうことではないと、わか
っていただけますよね?」
「……」
私は西守歌ちゃんと目を合わせるのが怖くて、西守歌ちゃんから顔を背けま
した。
「……涼様、ですね?」
「っ!?」
ドクンッ!
一瞬、私の胸の鼓動が大きく高鳴りました。
兄さんの名前を聞くだけで、こんなに怯えてしまうなんて……一体、私はどう
したの?
「涼様と会えないのが寂しいのでしょう?」
ドクンッ! ドクンッ!
また……。
「どうしてです?」
「……めて……」
「どうして、そうまでして……」
「や……て……」
「涼様に会いたいと言わないので――」
「やめてっ!!」
「っ!?」
西守歌ちゃんの言葉をこれ以上聞きたくなかった私は自分でも信じられないく
らい大きな声で否定する事で、それを掻き消しました。
「……もう、言わないで……私、これ以上は……」
「……でしたら、尚の事……」
「わかってる……わかってるけど、でも、それでも私は、まだ兄さんと会うわけ
にはいかないの! 会いたいと思っちゃいけないの!」
「何でです!? なぜそうまでして、涼様とお会いになるのを拒むのですか!?」
「西守歌ちゃんにはわからない! 涼が他の女の子と一緒にいるのを見ても、な
んとも思わない西守歌ちゃんには!」
「えぇ、わかりませんわ! 明鐘さんが私のことをそう思っていらっしゃる間は、
明鐘さんにはわかりませんわ!」
「……え?」
西守歌ちゃんの言葉に何かひっかかりを覚えました。
すぐにはそれがわかりませんでしたけど。
「……明鐘さん。恋する乙女の気持ち、決して判らない私ではありませんよ?」
「でも、西守歌ちゃんは……」
「私、鉄面皮ですから、そういうことは表に出しません」
笑顔で言う西守歌ちゃん。
「好きな人が自分を見てくれないのは、すごく寂しい事ですし、他の方とご一緒
にいるのを見ると、胸が痛みますわ」
「じゃあ、なんで……?」
「涼様、朴念仁ですけど、一途ですから、信じられるのですわ」
「……信じる……」
「明鐘さんは、涼様が信じられませんか?」
「っ!?」
……そうだったんだ……。
私、逃げてたんだ。
自分の気持ちから。
涼を信じる自分から。
「……明鐘さん。涼様は誰にでも優しいところもあります。ですけど、愛する人
は決して裏切りません。だから、信じてください。涼様を」
「……私、バカだね。涼の事信じられないんじゃ、約束なんか守れるはずないの
に……」
西守歌ちゃんがさっき言った意味は、こういうことだったんだ。
それなのに、さっき私、西守歌ちゃんに酷い事……。
「ごめんね、西守歌ちゃん。私、さっき……」
「気にしてません。普段のあの態度ではそう思われても仕方ありませんし。それ
より、明鐘さん」
「……うん。明日、会いに行こうと思う。約束、守れるかな?」
「涼様を信じれるのなら」
「……ありがとう、西守歌ちゃん」
次の日、私は学校を休んで、西守歌ちゃんの家の車で鹿角の近くまできてい
た。
もうすぐ、兄さんが出てくるんだよね。
「……明鐘さん……?」
「不思議だなぁ……今では、約束を守れそうな気がする。でも、兄さん、私の事、
笑顔で迎えてくれるかな?」
「勿論ですわ。だって、私達が好きになった方ですもの♪」
「うん!」
授業の終わりを告げるチャイムがなり、生徒たちが一斉に出てきます。
その中から必死に涼の姿を探します。
そして……。
「あ……」
「明鐘さん。行って下さい」
「ありがとう、西守歌ちゃん!」
車から飛び出し、涼の元へ走って向う。
涼も私に気づいた様で、驚いたような顔をしていたけど、すぐに私に笑顔を向
けてくれた。
そして、私は涼の胸の中へ飛び込んだ。
……ただいま、兄さん。
私、もう笑えるよ。
Fin.
西守歌たーんっ!
……SSのメインヒロインは明鐘ですが。(笑
少しシリアスにしてみた──との、震天さんの談です。
が──すみません、私には背景になってる「約束」がどんなものだか。(苦笑
わかっていれば、明鐘ちゃんの感情も楽しめると思うのですが……。
シリアス物は登場人物の感情が一番のお楽しみだと思ってるんですが、
SSの場合は元ネタがわからないとシリアスは読めなそうですね。
──と、私自身は基本的にシリアスしか書かないので、私が書いたのも同じというわけですね。
……文章書きは難しいです。(ぉ
Comment by けもりん
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